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映画「パンケーキを毒見する」:毒見で簡単に殺されないために

2021年08月09日 10時30分53秒 | 映画(新作レヴュー)
菅首相が官房長官だった当時,東京新聞の望月衣塑子記者と繰り広げたやり取りは,テレビで断片的に伝わってはいたものの,広報官のあしらいも含めて全面的に観ることが出来たのは,昨年公開された「i-新聞記者ドキュメント-」によってだった。聞かれたことに答えず,自分の主張を繰り返すだけの強面の官房長官をサポートすべく,質問の途中で「早く質問して下さい」と急かす広報官の声が,エンターテインメントの悪役として実に有効に機能していたのだが,そんな作品を制作していた会社「スターサンズ」が,首相に成り上がった元官房長官を主役に据えた作品が「パンケーキを毒見する」だ。

昨年の首相交代劇から1年を経ずに,この人間であれば間違いなく「やってくれる」と踏んで制作に入ったと思われる本作だが,主役が見込み通りに様々な面で「やらかしてくれた」にも拘わらず,映画の冒頭でエクスキューズが入る。撮影への協力依頼に対して,議員を含む(と思われる)多数の関係者から帰ってきた「(そんな趣旨の)映画には協力できない」「出演は無理」などの返答を持って来る演出は,現政権の強権振りを象徴するという効果よりも,制作意図が充分に形にならなかった言い訳としか聞こえない。
そんな欠落を埋めるべく挿入されるアニメーションの,何の捻りもない稚拙な批判も,子供騙しレベル。終盤に出てくる,政治に興味を持たない人間がほとんど,と語る若者たちに,これでは今の政治の現状を伝えることは難しいだろうと感じる。昔の政治家たちを思い出して唐突に感極まる村上誠一郎の涙も,彼らには「何だ,この感傷的なおっさんは」としか映らなかったのではないか。協力者の中に白井聡の名前があったが,彼の「国体論」の視点から深掘りする方法もあったはず,と実に残念だ。
マイケル・ムーア作品のように,ディレクターが前面に出てきて,取材相手を「追求していく」トーンが不可能だったという制約を考慮しても,映像作品としての評価は低いものに留まらざるを得ない。

そんなクオリティが残念ではあるものの,この時期に政権への評価をYouTube動画ではなく,敢えて1本の「映画」として成立させた制作陣の姿勢と苦労には,最大限の評価を捧げたい。いっそ上西教授の「ご飯論法」解説に,増田明美氏の「関係者から批判を受けてしまう」というくらいに緻密な取材を合わせた国会中継だけで見たかった気もするけれど。
制作陣の侠気に星をひとつ追加。
★★★
(★★★★★が最高)


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