goo

映画「私をくいとめて」:いつの間にかアラサーになっていたのんが叫ぶ

芸能ネタには詳しくないため,能年玲奈がNHKの朝ドラ「あまちゃん」でブレイクした2013年からこの作品まで,ほぼ7年に亘って(声優やCMを中心とした一部の活動を除いて)表舞台で主役を張ることが叶わなかった理由や改名に至った経緯はよく知らない。けれども大九明子が「勝手にふるえてろ」から「美人が婚活してみたら」と「甘いお酒でうがい(未見)」を挟んで発表した若い女性の本音吐露シリーズ(と勝手に命名)の最新作「私をくいとめて」での演技には,格別の輝きがある。松岡茉優に続いてのんの底知れないポテンシャルを引き出した大九明子の鋭いコメディセンス共々,心から拍手を送りたい。

みつ子(のん)は,食事も買い物も「お一人さま」生活を謳歌する30代のOL。会社での仕事は先輩ノゾミさん(臼田あさ美)のサポートを受けて,淡々とこなす日々だったが,ある日会社で顔を合わせる年下の多田くん(林遣都)と家の近所でばったり出会い,作ったご飯のおかずをシェアする仲に。そんなある日,勘違いイケメンにぞっこんのノゾミさんと,ダブルデートすることになり,東京タワーの階段でみつ子は多田君から「付き合おう」と告白される。さあ,どうするみつ子?

「勝手にふるえてろ」に続いて綿矢りさの原作の映画化に挑んだ大九は,みつ子の頭の中に棲み着いて,みつ子が抱える疑問や悩みに答えてくれるA(アンサーのA)という人格に中村倫也を配し,同一人物である「二人」の脳内会話によって物語を進めていく。これは大九が安達祐実を主役に据えて脚本と一部演出を担当した昨年のテレ東深夜ドラマ「捨ててよ,安達さん。」において使った,毎回夢の中に出てくる女の子(実は彼女も安達祐実)と交わす会話劇の,まるっきりのフレームの入れ替えだ。最後まで顔を出さない(異なるAとなって最後に出てくるけれども)Aがみつ子と同一人物であるという設定から生まれる自分の中で繰り広げられる葛藤のおかしさと切なさが,のんののびのびと振り切った演技によって,見事に増幅されている。のんと林遣都がどう見ても「年下の彼」カップルに見えないことを除けば,二人のぎこちないアンサンブルも完璧だ。

元々はピン芸人だったという大九の個性は,誰にでもある自意識過剰な部分を,一見シニカルに見えながらも内実は温かい視線を注ぐことで笑いに昇華する天性のテクニックだ。その本領が発揮された本作,せめて「鬼滅の刃」の1%くらいの興行収入は上げて欲しいものだが,果たしてどうだったのだろうか。
★★★★
(★★★★★が最高)
コメント ( 0 ) | Trackback ( 0 )
« 映画「2020年... 映画「スタン... »
 
コメント
 
コメントはありません。
コメントを投稿する
ブログ作成者から承認されるまでコメントは反映されません
 
名前
タイトル
URL
コメント
コメント利用規約に同意の上コメント投稿を行ってください。

数字4桁を入力し、投稿ボタンを押してください。