子供はかまってくれない

子供はかまってくれないし,わかってくれないので,映画と音楽と本とサッカーに慰めを。

映画「母なる証明」:圧倒的な画面の迫力に韓国映画の底力を見た

2009年11月14日 21時54分47秒 | 映画(新作レヴュー)
映画の冒頭とラストで,68歳の主役キム・ヘジャが2度,文字通り身体をうねらせて踊る。悲しみ,怒り,憤懣,そして愛情。二度のダンスは,物語の進行に伴って異なるニュアンスを湛えてはいるが,どちらもキム・ヘジャというパワフルな噴出口から迸り出る,様々な感情が溶け合った熱いマグマのようだ。

「殺人の追憶」と「グエムル-漢江の怪物-」の2作で,韓流映画に疎い私を打ちのめしたポン・ジュノ監督の新作は,母親という存在を通して人間の根源的な部分を抉り出そうという果敢なチャレンジだ。
だがそこは,迷宮入りした連続殺人事件が二人の刑事を精神的に追い込んでいく過程を人間と社会に対する深い洞察によって描いた「殺人の追憶」のディレクターのこと,純粋無垢で「鹿のような目をした」一人息子に対する母親の無償の愛,というシンプルな物語には仕立てていない。

刑事コンビや家族の繋がりが重要なモチーフになっていた前2作とは違って,母=個の闘いとなった物語を立体化するのは,全ての登場人物の孤独と痛みだ。
自家製の漢方薬を売りながら闇で鍼治療を行って,どうにか親一人子一人の生活を凌いでいる母親,事件の鍵を握る廃品回収業の老人,顔に傷を持つ被害者の友達に,身体を売った客の姿を携帯電話で撮影していた被害者の高校生。そして「真犯人」として捕まえられる若い男。
彼らの姿を奥行きのある構図で切り取ったショットが1枚ずつ積み重なっていくに従い,観客の肩には彼らが感じる哀しみが同じ重量でのしかかっていく。

母親と老人との「対決」シーンはもとより,何気ない親子の食事シーンや,母親が薬草を裁断するショットにまで漲る緊張感は,どれも尋常ではない。
母親と息子の関係や息子の苛立ちに焦点を当てながら,様々な人物の感情が煮詰まっていく前半と,母親が殺された少女の携帯電話を見つけた時点から一気にラストへと疾走していく後半の鮮やかな対比は,サスペンス映画としても実に秀逸だ。

最後のバスのシークエンスで,「辛い記憶を消し去るツボ」に鍼を打った後,逆光の中で踊り狂う母親(劇中,一度も名前を呼ばれることはない)を望遠で長々と捉えたショットを観ながら感じた,座席の背もたれに押しつけられるような感覚は忘れられないだろう。
黒澤明の後を追う監督が,この国ではなく,遂に隣国から現れたという感慨は,悔しくもある一方で,思いも掛けない歓びでもある。
★★★★☆
(★★★★★が最高)


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1 コメント

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こんにちは (アナバコリア)
2009-11-23 18:10:25
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