子供はかまってくれない

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XTC「The Big Express」:そして最後はアンディ・パートリッジ唯一人。

2008年10月26日 12時07分35秒 | 音楽(アーカイブ)
私にとって,ザ・バンドとスティーリー・ダンに続く,3番目の,そしてイギリスのバンドとしては初となる,「理屈も屁もなく感服しましたバンド」の座に鎮座したのが,このXTCだった。
パンク勃興期に,アンディ・パートリッジがかき鳴らすギターと,バリー・アンドリュースがシンセサイザーから捻り出した歪んだビートで,シーンの端っこに居場所を見つけた4人組は,バリー・アンドリュースに替わってデイブ・グレゴリーが加入した第3作から怒濤の快進撃を開始し,途中一人また一人とメンバーが脱落していきながらも,実質的なグループとしての最終作となっている「Wasp Star (Apple Venus, Pt. 2)」まで,1作たりとも失敗作がないという,類い希な実績を誇っている。

グループの変遷を眺めると,アンディとデイブ,それにベーシストのコリン・モールディングの3人で活動していた時代が16年間と最も長く,その間には5枚の傑作が世に出ている。
ビートルズからの影響を顕在化させ,クオリティでも彼らに劣らない楽曲を満載した「Oranges & Lemons」や,プロデューサーに迎えた鬼才トッド・ラングレンとアンディとの確執が話題となった「Skylarking」,更に「ペットサウンズ」の魂を受け継ぐ「Apple Venus」2部作の先駆けとなった「Nonsuch」など,どれを取ってもポップス史上に煌めく秀作ばかりだが,ここではシンプルなジャケットが力強いコンテンツを見事に象徴している「The Big Express」を取り上げたい。

プロデュースはデヴィッド・ロードとXTCが共同であたっているが,デヴィッド・ロードの方はエンジニアとしてもクレジットされていることからも窺えるとおり,実質的にはセルフ・プロデュース作と言っても良い仕上がりになっている。
基本的には,前2作でややなりを潜めていたギターバンドとしての骨格を,あえて確認してみたという印象が強い。

ロカビリーをまぶし「Black Sea」とはまた違ったトーンの切れ味が鋭い「Shake You Donkey Up」や,アルバムタイトルの由来となった「Train Running Low On Soul Coal」における開放的なフレーズには,名うてのライブバンドだったかつての姿を彷彿とさせる力強さがある。
「Reign Of Blows」において力強いギターと張り合うブルースハープや「Seagulls Screaming Kiss Her, Kiss Her」の間奏で主役を張るユーフォニウムなど,後期作で顕著となる多彩な音色の準備も怠りない。
毎回2~3作あるコリン作は冒頭の「Wake Up」と,サイケデリック色の強い「I Remember The Sun」。どちらもコリンらしいメロディと展開で,アルバムの底を押し広げることに貢献している。
白眉は,物悲しいメロディとペシミスティックな歌詞が最高の調和を見せる「This World Is Over」。ただ1929年以来の大恐慌とも言われる今聴くには,あまりにタイムリー過ぎるか。

ジャケットをスキャンしながら,アナログ盤で買った最後のアルバムということで,しばらくジャケットを壁に掛けていたことを思い出した。コリンが去って,アンディ・パートリッジ一人になってしまったXTCだが,まだ解散を宣言していない以上,「Wasp Star (Apple Venus, Pt. 2)」がCDとしても最後のアルバムにならないよう願いつつ,今日も世界中で聴き続けているであろうXTCマニアの皆さんに熱いエールを。


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