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映画「プロミシング・ヤング・ウーマン」:力強い脚本と達者な役者との幸福な出逢い

2021年07月25日 11時23分27秒 | 映画(新作レヴュー)
NETFLIXのシリーズ「ザ・クラウン」が面白いらしい。当たり外れの少ないクリエイターであるピーター・モーガンがプロデュースしているというだけでも信頼度は高く,いずれチャレンジしたいと思ってはいたのだが,既に4シーズン40話もあると知り,まだ「再生する」をクリックできずにいた。視聴中のミニシリーズ,バリー・ジェンキンスの「地下鉄道」を完走したら,と考えていたら,「プロミシング・ヤング・ウーマン」の脚本・監督を手掛けたエメラルド・フェネルが役者として出演しているということを知り,俄然興味が高まった。彼女がキャリー・マリガンと組んだ本作が,映画における脚本の役割とそれを体現する役者の力を堪能できる稀に見る見事な作品だったからだ。

コーヒー・ショップでアルバイトをしながらパラサイト生活を送るアラサーのキャシー(キャリー・マリガン)は,夜ごとバーで泥酔した振りをし,そんな彼女を介抱に託けて口説こうとする男たちを痛めつけては手帖に記録する毎日を送っている。学業を諦め,そんな日々を送るようになった原因は,過去に親友が同級生の男に乱暴され,それを訴えたにも拘わらず加害者と弁護士の企みが功を奏し,罪が認められなかったことを苦に自ら命を絶ったからだった。そんな彼女の前にかつての同級生ライアン(ボー・バーナム)が現れ,彼の誠実な人柄にキャシーは少しずつ心を開いていく。しかしキャシーは,親友が暴行される現場を撮影した動画を目にした瞬間に,ある決断を下すのだった。

何と言ってもフェネルの脚本が素晴らしい。先日IOCのコーツ副会長が地元の州知事を恫喝した映像が世界中に流れたが,まだまだマンスプレイニングを当然と考える風潮が支配的な世界に向かって,ひとり異議申し立てをするキャシーの怒りが,陰惨な暴力を超え,自らを犠牲としながらもきっと未来はよくなるはず,という希望を湛えていくプロセスは,ピエール・ルメートルの傑作ミステリー「その女アレックス」を彷彿とさせるものがある。それを静かで熱いエネルギーを湛えた表情で体現するマリガンの演技は,本作を「わたしを離さないで」を超えて彼女の代表作とするものだ。

加えて作品を単なる復讐ものを超えた普遍的なドラマとしている要素に「良い人」ライアンの存在がある。どう見ても善人の代表者でありながら,たった一度「傍観者」でいたことの罪を購うチャンスは,キャシーが無残に殺された後に訪れる。本当に良い人かどうかの判断を下す場面を,クールに抉り出したフェネルの筆致は必見だ。やっぱり「ザ・クラウン」,観なくては。
★★★★★
(★★★★★が最高)


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