子供はかまってくれないし,わかってくれないので,映画と音楽と本とサッカーに慰めを。
子供はかまってくれない
映画「パーフェクト・センス」:斬新なフォーマットで迫る切ない恋愛映画
感染すると視覚を失うという疫病に翻弄される人々の姿を描いた「ブラインドネス」は,「シティ・オブ・ゴッド」をものした俊英フェルナンド・メイレレスをして,人がそれまで持っていた感覚(視覚)を失うという事態を,物語として映像化することの困難さを証明するような作品となっていた。
それは,映画というメディアが観客に視覚と聴覚をフルに働かせることを要求するという特性を持つ以上,「奇跡の人」におけるサリバン先生のような,感覚喪失という事態を相対化できる存在を主役として登場させる以外,そんな状況を物語として成り立たせるのは至難の業であろうという諦念を,正に証明するようなフィルムと言えた。
しかし,デヴィッド・マッケンジーが「猟人日記」に続いてユアン・マクレガーと組んだ「パーフェクト・センス」は,あろうことか一つの感覚に留まらず,五感を次々に失っていく人間の尊厳を映像に記録するというターゲットにチャレンジして,「ブラインドネス」が到達し得なかったレベルを軽々とクリアしている。鍵は荒唐無稽とも言えるSFの枠組みを使って,シンプルなラブストーリーを「人間の尊厳の尊さ」にまで昇華させた作劇の巧みさにある。
嗅覚や味覚を失った人間が,果たしてレストランにやって来るのか。料理人は,来るあてのない客に供する食事を作るのか。人間を人間たらしめている感覚が次々と失われていく過程で,人間は正気を保つことが可能なのか。そして今日と同様の明日が来る保証がない状況で,人は人を愛することが出来るのか。
次々と発せられる様々な問いに対する回答は,惹かれ合う二人(ユアン・マクレガーとエヴァ・グリーン)が繰り返す「タッチ・アンド・ゴー」状態の触れ合いの中で,鮮やかに示されていく。
特に科学者としての社会的責任,自らの不妊と感染,そしてマイケル(マクレガー)への愛情という輻輳する要素を静かに引き受け,明日に向かって石を投げ続けるスーザンを演じたエヴァ・グリーンの凛々しさが映画全体を引き締めている。脱ぎっぷりの良さも含めて,演技者としてのタイプは異なるジュリアン・ムーアの後継者に名乗りを挙げたのではないかと感じた。名前負けしないで頑張って欲しい。
登場人物の悲痛な咆哮を落ち着いた構図で受け止めるカメラと,荒んでいく街角の空気をリアルに再現した美術も,低予算(おそらく)を言い訳にしない高いパフォーマンスを示しており,92分というコンパクトな尺ながら,内包された志は高い。大人のためのSFとして推したい。
★★★☆
(★★★★★が最高)
それは,映画というメディアが観客に視覚と聴覚をフルに働かせることを要求するという特性を持つ以上,「奇跡の人」におけるサリバン先生のような,感覚喪失という事態を相対化できる存在を主役として登場させる以外,そんな状況を物語として成り立たせるのは至難の業であろうという諦念を,正に証明するようなフィルムと言えた。
しかし,デヴィッド・マッケンジーが「猟人日記」に続いてユアン・マクレガーと組んだ「パーフェクト・センス」は,あろうことか一つの感覚に留まらず,五感を次々に失っていく人間の尊厳を映像に記録するというターゲットにチャレンジして,「ブラインドネス」が到達し得なかったレベルを軽々とクリアしている。鍵は荒唐無稽とも言えるSFの枠組みを使って,シンプルなラブストーリーを「人間の尊厳の尊さ」にまで昇華させた作劇の巧みさにある。
嗅覚や味覚を失った人間が,果たしてレストランにやって来るのか。料理人は,来るあてのない客に供する食事を作るのか。人間を人間たらしめている感覚が次々と失われていく過程で,人間は正気を保つことが可能なのか。そして今日と同様の明日が来る保証がない状況で,人は人を愛することが出来るのか。
次々と発せられる様々な問いに対する回答は,惹かれ合う二人(ユアン・マクレガーとエヴァ・グリーン)が繰り返す「タッチ・アンド・ゴー」状態の触れ合いの中で,鮮やかに示されていく。
特に科学者としての社会的責任,自らの不妊と感染,そしてマイケル(マクレガー)への愛情という輻輳する要素を静かに引き受け,明日に向かって石を投げ続けるスーザンを演じたエヴァ・グリーンの凛々しさが映画全体を引き締めている。脱ぎっぷりの良さも含めて,演技者としてのタイプは異なるジュリアン・ムーアの後継者に名乗りを挙げたのではないかと感じた。名前負けしないで頑張って欲しい。
登場人物の悲痛な咆哮を落ち着いた構図で受け止めるカメラと,荒んでいく街角の空気をリアルに再現した美術も,低予算(おそらく)を言い訳にしない高いパフォーマンスを示しており,92分というコンパクトな尺ながら,内包された志は高い。大人のためのSFとして推したい。
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