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映画「ミックマック」:「アメリ」風味のゆるーい「オーシャンズ7」

ジャン=ピエール・ジュネの映画に出てくる人物は皆,美醜やバランスという観点での評価を越えたところで,自分の顔に自信を持っているように見える。アップに対して決して怯むことなどなく,個性的な顔を潔くさらけ出し,その「顔力」によって画面に深みを与えているのだ。
新作「ミックマック」で主人公をもり立てるチーム・バジルも,「デリカテッセン」以来ジュネの盟友となってきたドミニク・ピノンを筆頭に,それぞれのキャラクターを演技や台詞よりもまず「顔」が持つ圧力で表現し得る俳優達で構成されている。そんな役者が演じるゆるい復讐劇を,ジュネ作品独自の色彩感で捉えた画面には,アナログ世界の人懐っこい温もりが漂っている。

地雷から始まった主人公の悲運に対する復讐劇の体裁を取り,戦争を食い物にする兵器製造会社への糾弾が物語のクライマックスに据えられてはいるが,声高な反戦口調はどこにもなく,作戦が成功するや否やの緊張感も感じられない。
復讐劇そのものも,積年の恨みを晴らす,という切迫感は微塵もなく,作品全体の構成もかなりゆるい。そこを否定的に評価すれば,いくらでも厳しい批評を言うことは可能かもしれないが,「いたずら」という意味だというタイトル通りに繰り広げられる作戦が醸し出すユーモアや,チーム・バジルのアジトの細部,更には全く何かの役には立ちそうにないけれども,見た人に微笑みを運んでくれることは請け合いのからくりだけでも,私にとっては木戸銭に見合うものだった。

美術や編集など,要所のスタッフはいつものメンバーのようだが,独特の色合いが特徴のジュネ作品を支えてきた撮影監督は,これも長年のパートナーだったブリュノ・デルボネルに替わって,今回は永田鉄男が見事な仕事を見せてくれている。タク・フジモトやトヨミチ・クリタらに続いて,世界で認められる日本人キャメラマンが出てきたのはとても嬉しい。

兵器会社の社長二人を懲らしめる最後の作戦は,「アメリ」に出てきた世界を旅する人形の裏返しみたいで,なかなか粋だった。作品としては少し首を捻る出来だった「ロング・エンゲージメント」に続いて再び「戦争」を取り上げたジュネの思いも,「大砲男」と一緒に世界中のスクリーンを旅することを願って,☆を追加。
★★★☆
(★★★★★が最高)
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