子供はかまってくれないし,わかってくれないので,映画と音楽と本とサッカーに慰めを。
子供はかまってくれない
映画「64 ロクヨン 前編」:映画版ならではの重量感を堪能する
原作を読み,テレビ版を観んだ。もうそれだけで充分,と知人は言ったが,監督は瀬々敬久。ピンク四天王と呼ばれた俊英が,メジャー資本で超話題作を演出するという興味に加えて,出演陣の層の厚さはソフトバンク・ホークス並み。やはり観に行かない訳にはいかない。
結果は,原作における主人公の造形,すなわち父親に顔が似ているということが,娘が家出した最大の原因となるほどに醜悪,とは真逆のダンディー佐藤浩市を据えたことへの違和感はあったものの,その佐藤が見せた,悩める広報官三上が憑依したとしか言えない見事な演技に脱帽した。これは,やはり「映画」ならではの重量感だ。
原作にあったいくつもの対立,国対地方,キャリア対ノンキャリア,役所の広報対報道,父対娘,隠蔽体質対真実追究,そして犯人対警察。これらの複数のコンフリクトを並立かつ重層的に描きつつ,「ロクヨン」からいまだに抜け出せないでいる被害者の父親(永瀬正敏)と県警の捜査担当者の呪縛を解き放つ事件へと突き進むサスペンスを成立させるのは,並大抵のハードルではなかったはずだ。
さすがに前後編という最低限のボリュームは必須としながらも,この前編で見せた瀬々の,スマートに流れず当事者の思いをくっきりと映像化していく手捌きは,大量の低予算映画のディレクションを経ることで培われた確かな現場感覚の為せる業だろう。
三上を追い詰める記者室や記者の描写は,社会人同士の最低限の敬意を欠き,学級崩壊状態にある小学校の教室と生徒のようにさえ見えるが,実態はかなりこれに近いのではないか。しかしそうしなければ,報道機関が情報ヒエラルキーの頂点に君臨する役所の典型と言える警察から,脱色されない情報を引き出すことは難しい,ということもまた事実だろう。横山秀夫が抉りだした対立を立体化するには,やはり外観のハンディ=ハンサムである,を差し引いても,佐藤浩市の起用はどうしても必要だったと観終わった今なら言える。すべての負荷を背負い込んで最後に「実名報道」を決断する三上のモノローグは,それくらいに感動的だった。
三上を取り巻く大勢の出演者の中では,これまで世評の高さがピンとこなかった綾野剛の演技力に舌を巻いた。三上の上司となるキャリア役の滝藤賢一も実にリラックスして成りきっている。「重版出来」の人気マンガ家役も楽しそうだったが,「クライマーズ・ハイ」での自己崩壊する記者役から8年。こんなブレイクは,本人も予想していなかったのではあるまいか。
報道との対立というクライマックスから一気に新たな誘拐事件へとなだれ込む勢いは,前後編仕様の作品群の中では屈指の出来映え。映画ならではの成果を残したスタッフ・キャストに,最大級の拍手を送りたい。
★★★★☆
(★★★★★が最高)
結果は,原作における主人公の造形,すなわち父親に顔が似ているということが,娘が家出した最大の原因となるほどに醜悪,とは真逆のダンディー佐藤浩市を据えたことへの違和感はあったものの,その佐藤が見せた,悩める広報官三上が憑依したとしか言えない見事な演技に脱帽した。これは,やはり「映画」ならではの重量感だ。
原作にあったいくつもの対立,国対地方,キャリア対ノンキャリア,役所の広報対報道,父対娘,隠蔽体質対真実追究,そして犯人対警察。これらの複数のコンフリクトを並立かつ重層的に描きつつ,「ロクヨン」からいまだに抜け出せないでいる被害者の父親(永瀬正敏)と県警の捜査担当者の呪縛を解き放つ事件へと突き進むサスペンスを成立させるのは,並大抵のハードルではなかったはずだ。
さすがに前後編という最低限のボリュームは必須としながらも,この前編で見せた瀬々の,スマートに流れず当事者の思いをくっきりと映像化していく手捌きは,大量の低予算映画のディレクションを経ることで培われた確かな現場感覚の為せる業だろう。
三上を追い詰める記者室や記者の描写は,社会人同士の最低限の敬意を欠き,学級崩壊状態にある小学校の教室と生徒のようにさえ見えるが,実態はかなりこれに近いのではないか。しかしそうしなければ,報道機関が情報ヒエラルキーの頂点に君臨する役所の典型と言える警察から,脱色されない情報を引き出すことは難しい,ということもまた事実だろう。横山秀夫が抉りだした対立を立体化するには,やはり外観のハンディ=ハンサムである,を差し引いても,佐藤浩市の起用はどうしても必要だったと観終わった今なら言える。すべての負荷を背負い込んで最後に「実名報道」を決断する三上のモノローグは,それくらいに感動的だった。
三上を取り巻く大勢の出演者の中では,これまで世評の高さがピンとこなかった綾野剛の演技力に舌を巻いた。三上の上司となるキャリア役の滝藤賢一も実にリラックスして成りきっている。「重版出来」の人気マンガ家役も楽しそうだったが,「クライマーズ・ハイ」での自己崩壊する記者役から8年。こんなブレイクは,本人も予想していなかったのではあるまいか。
報道との対立というクライマックスから一気に新たな誘拐事件へとなだれ込む勢いは,前後編仕様の作品群の中では屈指の出来映え。映画ならではの成果を残したスタッフ・キャストに,最大級の拍手を送りたい。
★★★★☆
(★★★★★が最高)
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