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映画「X-MEN:ファースト・ジェネレーション」:ブライアン・シンガーとは異なる語り口を持った名手の誕生

本家の「X-MEN」シリーズは,ここまで何作が作られたのか分からないが,残念ながら当方は2作目で挫折してしまった口。そのたった2作に関してすら,物語の骨格も,ヒュー・ジャックマン以外のミュータントの白黒も,共に覚束ないという有様で観て楽しめるものだろうか,という危惧があったのだが,マシュー・ヴォーンの新作であるということ,更にひと月で公開終了という情報を知り,劇場に滑り込んだ。
果たして鑑賞前のそんな危惧は,冒頭,少年時代のジェームズ(後のプロフェッサーX)がミュータントの少女(ミスティーク)と出会った瞬間に雲散霧消し,後はひたすら本編シリーズ以上のドライブ感に酔うこととなった。J.J.エイブラムス版の「スター・トレック」を上回る,見事なプリクエル(序章)作品だ。

物語の基本はシンプルながら,枝葉の捻りが多彩。登場人物の色づけと紹介は手際よく,キューバ危機という実際に起きた大事件とフィクションを絡めた構成も見事だ。
更に1962年という時代設定を,室内の家具を筆頭とする美術や登場人物のファッション等に活かすことで,時代を遡ったSFという枠組みが,実に新鮮な効果を生み出している。

これまでのシリーズ作で映像面の肝となってきたSFXは,各ミュータントが秘められた超能力を披露する場面においても抑えられている分,クライマックスのキューバ海戦でここぞとばかりに繰り出されるCGが効いている。
主役のジェームズ・マカヴォイの悲愴に走らない演技が,チーム全体に適度な緊張感を持続させる役目を果たしているほか,「あの日,欲望の大地で」のジェニファー・ローレンスは端々で大器の予感を感じさせる。
全体的にユーモアは控えめだが,ヒュー・ジャックマンがちらりと顔を見せる場面は笑える。

監督3作目の「キック・アス」で,ヒーロー志願の落ちこぼれ青年と,スーパー・ヒロイン養成虎の穴で育てられた女の子を躍動させたマシュー・ヴォーンの視線は,4作目となる本作でも,エネルギーと同量の未熟さに溢れた若者と同じ高さに保たれている。人間との差異と敵対関係に悩むミュータントを,人間の若者特有の「疎外感」に重ねることで,アクションに血と痛みを通わせた演出は,ブライアン・シンガーとは違った新鮮な映像感覚を帯びている。上半期のサプライズと言って良い出来だ。
★★★★☆
(★★★★★が最高)
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