今回は1976年から1981年にかけて活躍したプロトタイプ・カー、ポルシェ936を取り上げます。
1970年、1971年とポルシェ917が圧倒的な強さでスポーツカー選手権を制したため、レギュレーション変更により締め出されてしまったポルシェは、新たな戦いの場を求めて(というかスポーツカーとしての新市場を求めて)アメリカのCan-Amレースに参加します。
しかしそこは、7リッター・クラスの大排気量マシンを擁する王者マクラーレンやローラ、シャパラルなどが競い合う世界でした。
5リッターのエンジンしか持たないポルシェは、ターボチャージャー・エンジンを開発し、その強大な馬力でまたたくまにCan-Amレースを席巻します(1972年、1973年シリーズ・チャンピオン獲得)。
私の中のポルシェ936というのは、この強力なターボ・エンジンを持って再びスポーツカー・レースに戻ってきたポルシェが走らせたクルマ、というイメージでした。
冒頭の写真は、1976年のル・マンで優勝したポルシェ936、ル・マンで勝利した初めてのターボ・エンジン・カーとなりました。
ドライバーはジャッキー・イクスとG.ヴァン・レンネップ。マルティニ・ストライプのカラーとともに新しいポルシェを印象付けました。
このミニカーはトロフュー製。ル・マンを初めて制した936ということで、かなり出回っているポピュラーなモデルです。
翌1977年、ポルシェは改良型エンジンを積んだ936/77を2台エントリーします。ライバルは4台のルノーアルピーヌ。
スピードはルノーが勝りますが、最終的には936/77の4号車がトップで走り切って二連覇を成し遂げます。
ちなみに3号車はリタイヤ。
この4号車のモデルはミニチャンプスの特注品(7台セットのうちの1台)ということで、オークションの世界にもなかなか姿を現しません。
ル・マンの歴代優勝マシンを集める上で最大のネックになっていたモデルだったのですが、幸運にも手に入れることができました。
続く1978年、ポルシェは三連覇を狙って新開発の936/78を2台(5号車と6号車)と前年優勝の936/77(7号車)を持ち込みます。
936/78のエンジンはポルシェ906の時代から連綿と続く、それまでの911ベースのものから新開発の935ベースのものに変更され一段とパワーアップされました。
予選トップは5号車。しかし、決勝レースでは255周を走ったところで事故によりリタイヤしてしまい、ルノー・アルピーヌが悲願の初優勝を飾りました。
ちなみに総合2位に6号車、3位には7号車が入っています。
2台の936/78はリア・ウィングの端が垂れ下がった形をしているのが特徴的、一方の936/77は当たり前ですが前年度のクルマと全く同じ形をしています。
モデルの台座を見てお分かりのように、5号車と7号車はミニチャンプス製、6号車だけがトロフュー製です。
1979年、スポンサーがESSEX(エセックス・ペトロリアム、今はない石油関連企業)に変わりデザインもブルーと赤のシンプルなカラーリングになります。
前年度優勝のルノーが撤退してしまったため、2台のワークス・カー936/78はガチガチの優勝候補でした。
ちなみに持ち込まれた2台の936/78、実は前年の5号車が今回の12号車(予選2位)、そして6号車が14号車(予選1位)と同じ車体なのです。
決勝レースでは2台の936/78はともにリタイヤしてしまいます。優勝したのはクレーマー・レーシングのポルシェ935K3でした。
2台のポルシェ936/78はそれぞれトロフューとミニチャンプス製。
こうしてみるといずれの年もバラバラでまったく統一感がありませんね。
これはそれぞれのメーカーのモデルの出来具合を見比べるためにわざとしているわけではなく、まったくの偶然の産物です。
うーん、今回もまた長くなってしまうなあ...。
(気を取り直して)1980年、この年ポルシェは924カレラGTという市販車を改造したクルマをル・マンに持ち込みました。
ポルシェ936の姿は見当たりません。
そしてこの年の本命と目されたのはヨースト・レーシングがマルティニと組んでエントリーしたポルシェ908/80。
えっ?ポルシェ908?
ここで以前の私のブログを思い起こしていただきましょう(と、強引に関係づける)。
→
忘れえぬポルシェ908
この中で1つだけ書き残した908がまさにこの908/80なのです。
正体をバラしてしまうと、この908/80の実態は908/3のシャシーに911ベースのターボ・エンジンを搭載し、936のボディをかぶせたもの。
GTカーばかり(というわけでもありません)がエントリーしたこの年のル・マンにあってプロトタイプ・カーのこのクルマが本命視されたのも当然でしょう。
しかし結果は総合2位。混戦の末、優勝したのはジャン・ロンドー自らドライブするロンドーM379Bでした。
→
ただ一人のロンドー
実はこの1980年のポルシェ908/80のモデルは探してもなかなか見つからないのです。
本には古いソリド製のものが存在するとのことなのですが、どなたか教えてくださると本当にありがたいです。
ちなみに1980年の908/80は「
こんな形」をしています。
で、下の写真は翌年の1981年のル・マンに出場した同じシャシーのポルシェ908/80です。
この年はまたまたスポンサーが変わってしまったので、妙なデザインのクルマになってしまっていますが、予選は3位に入ってまだまだ戦闘力のあるところをみせました。
しかし残念ながら決勝ではわずか80周を走ったところでリタイヤしています。
まあ、誰が何と言おうとカタチは908ではなく936ですよね。
もっと言ってしまうと936/77でしょう。
ヨーストさんも、よくこんなクルマをひねり出しますね。
それにしてもやはりカラーリングは好きになれません。
閑話休題。
話を936に戻しましょう。
その1981年のル・マンを制したのは新しいポルシェ936/81でした。
2台エントリーして予選は1位と2位を獲得します。
決勝でも予選トップの11号車がそのまま逃げ切って優勝、2位に14周の差をつける圧倒的な勝利でした。
優勝したジャッキー・イクスはル・マン5勝目。彼は1976年、1977年の936もドライブしています。
一方の12号車は総合12位でした。
実はこの936/81のエンジンは翌年から始まるグループCという新しいカテゴリーに適応するもので、1982年から選手権を席巻するポルシェ956/962Cの先駆けともいえるクルマなのです。
強いのも当然です。
かのクリスチャン・ディオールのデザインしたというカラーリングは、今までのものとは一線を画しています。
スポンサーは香水メーカーの「Jules」。
モデルは2台ともミニチャンプス製。
ポルシェ917に比べると知名度でやや見劣りする936。
しかし、917が結局ル・マンを2度しか勝っていないのに比べ、936は3度も勝っているんですよね。
さまざまなエンジンと車体を乗り継ぎながら、二つの黄金期の間にあってそれらに勝るとも劣らない成績を上げた936。
もっと今以上に評価されてもいいのではないかと思います(私の思い込みかなあ)。
ということで、ポルシェ936一代記のおしまいです。