空前のプロテインブームが続き、炭水化物を抜いて、肉をメインに食べるダイエットや、
「高齢者のフレイル予防には、肉を食べたほうがいい」という考えも広く浸透している。
しかし、そこには意外な落とし穴がある。
【写真】ウインナーなど、リンを多く含む加工食品の取り過ぎには要注意!
「肉は筋力の維持などに欠かせないタンパク源ですが、
食べ方に気をつけないと、健康寿命を縮めてしまう可能性があります」
と警鐘を鳴らすのは、腎臓専門医の高取優二先生。
「肉に含まれる必須アミノ酸は、とりすぎると、老化を促すことがわかっています。
そして特に、腎臓の衰えを加速させ、慢性腎臓病のリスクを高める要因が、
肉の食べ方に関わっているのです」(高取先生、以下同)
多くの人が抱いている健康イメージとは、真逆の側面があるというのだ。
☆成人の5人に1人が患う“慢性腎臓病”
近年注目されている“慢性腎臓病”とは、腎臓の働きが慢性的に低下した状態の総称。
患者数は増加傾向で、2020年に発表された推計データでは、
成人の5人に1人が罹患(りかん)し、“日本人の新国民病”といわれている。
「悪化すると、心筋梗塞や脳卒中を発症するリスクが上がります」
腎臓は、身体の中で目立った働きをしていないと思われがちだが、
実は老化を防ぎ、寿命を延ばすためには、非常に重要な臓器だ。
「血液中の老廃物や毒素を濾過(ろか)し、
尿によって体外に排出させるのが、腎臓の役割の一つです。
老廃物の排泄(はいせつ)といえば、多くの人は便を想像しがちですが、便よりも尿が重要。
便は2、3日出なくても、健康に大きな害はありませんが、
尿が丸一日出なければ、汚れた血液が身体中を巡り、命の危機にさらされてしまうんです」
そんな重要な働きをしていながら、腎臓の大きさは30代をピークに、
加齢とともに縮小し、機能も衰えていく。
「腎臓の濾過機能は、健康な人でも40代ごろから、落ちていきます。
さらに、食生活の乱れなどにより、糖尿病や高血圧になると急激に低下。
そして、一度失った機能は、戻すことができません」
腎臓の機能低下は、自覚症状が出にくいため、気づかないまま進行し、
むくみやだるさなどの症状が出たときには、すでに腎不全で手遅れということが多い。
「ですから、早い段階で生活習慣を見直し、
腎臓機能が落ちるスピードを速めないことが重要なのです」
☆間違った肉の食べ方に潜む3つのリスク
では具体的に、何がよくないのか。
まず、タンパク質に含まれる必須アミノ酸の一つ、メチオニンという物質。
「メチオニンは、肉類、鶏卵、魚介類、乳製品に、多く含まれています。
必要以上にとりすぎると、血管の中に蓄積して、悪玉コレステロールと結合することで、
動脈硬化を引き起こします」
カロリー制限の効果を検証した動物実験では、
栄養全般でカロリー制限をした場合、寿命は延びたが、筋力が低下。
一方、必須アミノ酸(タンパク質)を多く含んだエサで、
カロリー制限をした群では、筋力は保持されたが、腎機能が悪化し、寿命が短くなった。
しかし、必須アミノ酸のうち、メチオニンの含有量を減らした場合、
カロリー制限をしても、筋力が維持され、寿命も延びたというデータが出ている。
「つまり、タンパク質をたくさんとることで、筋力は維持できますが、
そこに含まれるメチオニンをとると、腎臓機能が衰え、
カロリー制限による長生きのメリットが、得られなくなってしまうのです」
メチオニンは、鶏むね肉や豚ロース赤身肉などに多く含まれる。
“むね肉や赤身肉は、低脂質でヘルシー”といったイメージだけで、
偏った食べ方をすることは避けるべきだ。
「同じタンパク質でも、大豆製品などの植物性タンパク質は、
おしなべてメチオニンが、少ないことがわかっています。
タンパク質をとる際に選択肢がある場合は、
動物性食品よりも、大豆製品などの植物性タンパク質を選ぶのがおすすめです」
☆赤身肉やレバーがリンのとりすぎにつながる
他にも、腎臓のリスクとなるのが、加工食品などに多く含まれるリンの過剰摂取。
「リンは、私たちが生きていくうえで必須のミネラルで、
カルシウムとともに、骨格を形成する働きもあります。
しかし、過剰に摂取することで、リンとカルシウム、血液中のタンパク質が結びつくと、
血管の内側を傷つけて炎症を起こし、腎臓の機能低下や老化を早めるのです」
なおリンには、食材にもともと含まれている有機リンと、
加工食品の食品添加物として使われている無機リンがあり、
身体への吸収率は有機リンが10~40%に対し、無機リンは約90%と非常に吸収されやすい。
「まずはファストフードやコンビニ食、加工食品の利用を減らすことが第一ですが、
赤身肉や内臓肉にも、比較的多く含まれるので、注意が必要です。
豚肩赤身肉や牛肩赤身肉、牛レバーは、タンパク質量のわりにリンが多いので、
食べる頻度が高い人は、見直しを」
貧血予防にレバーばかり食べるという食習慣もNGだ。
「近年の研究で、マグネシウムに腎臓を守る働きがあることが判明しています。
マグネシウムは、ほうれん草など緑色の鮮やかな野菜に豊富に含まれますので、
肉食が多い人は、副菜として積極的にとるといいでしょう」
☆腸で作られる悪玉菌も腎臓にリスクが
人間の腸内には、約3万種もの細菌が生息しており、
顕微鏡で見ると花畑(フローラ)のように見えるため、腸内フローラと呼ばれている。
実はこの腸内フローラも、腎臓と関係がある。
「タンパク質多めの食事を続けていると、
腸内細菌のバランスが崩れて、腸内フローラの中の悪玉菌が増え、
そこから発生する毒素が、腎臓にダメージをあたえます」
さらに、肉類は、ほとんどが腸で吸収されるので、
便の量が減り、蠕動(ぜんどう)運動が弱まって便秘になりがち。
便秘の人は、慢性腎臓病のリスクが高まるというデータもある。
「腸内で産生される悪玉菌毒素を減らすためには、
善玉菌のエサになる発酵性食物繊維の摂取が有効です」
身近な食品でいえば、“もち麦”。
発酵性食物繊維の一つであるβ(ベータ)グルカンを豊富に含むもち麦を肉と一緒に食べることで、
悪玉菌による腎臓ダメージを軽減できる。
「一番のリスクは、肉の同じ部位ばかり食べる、連日食べるなどの極端な食べ方。
腎臓のダメージを減らす食品と合わせたり、
肉を植物性タンパク質に置き換えることを心がけましょう。
肉をまったく食べてはいけない、ということではなく、
例えば週2回程度に抑えるなど、今から食生活を見直していくこと。
それが今後の老化を緩やかにし、慢性腎臓病のリスクを下げることにつながります」
☆教えてくれたのは・・高取優二先生
●医学博士、腎臓専門医。埼友クリニック外来部長。
抗加齢医学(アンチエイジング)の観点から、腎臓病を捉えなおす新たな手法に取り組んでいる。
著書に『人は腎臓から老いていく』(アスコム)など。
取材・文/當間優子・・》
注)記事の原文に、あえて改行など多くした。
今回、特に《・・間違った肉の食べ方に潜む3つのリスク・・》、
そして健康に欠かせない腎臓の大切な役割も学び、多々教示されたりした。