第五章
納骨の四十九日目の納骨の『七七忌』法要、そして『百カ日』と続き、夏の新盆となり、
晩秋に喪中の葉書を関係者に送付したりした。
年末年始、喪に服するのは戸惑いを覚え、
何よりも母親の死去で失墜感、空虚感が私にはあったのである。
世間の人々は残された息子は幾つになっても、父親の死より、母親の死の方が心痛と聞いたりしていたが、
私の場合は父は小学2年に病死され、もとより母、そして父の妹の叔母に育てられたので、
53歳を過ぎた私でも心は重かったのである・・。
このような私の感情を家内は察して、
『年末年始・・どちらかに旅行に行きましょう・・』
と私に云った。
そして私達夫婦は、年末年始に初めて旅行に出かけたのである。
秋田県の山奥にある秋の宮温泉郷にある稲住温泉に、
12月31日より3泊4日の温泉滞在型の団体観光バスプランを利用し、滞在した。
何かしら開放感があり少し華(はな)やかな北海道、東北の著名な温泉地は、
亡き母との歳月の思いを重ねるには相応しくないと思い、山奥の素朴な温泉地としたのである。
私達夫婦は防寒服で身を固めて、積雪の幅5メートルぐらいの閑散として県道を歩いた。
周囲は山里の情景で、常緑樹の緑の葉に雪が重そうに掛かっていたり、
落葉樹は葉の全てを地表に落とし、小さな谷沿いに小川が流れいた。
しばらくすると、雪が舞い降りてきた・・。
ゆるく蛇行した道を歩き、秋田県の奥まった処だと、実感できた。
車も通らず、人影も見えなかった・・。
雪は強まってきたが、風もなく、静寂な中を歩いた。
このように1時間ばかり歩いたのだろうか。
そして町営スキー場が観え、ゴンドラなどもなく、リフトが2本観られる素朴なスキー場であった。
スキー場の外れにある蕎麦屋さんに入り、昼食代わりに山菜そばを頂こうと、
入店したのであるが、お客は私達夫婦だけで、
こじんまりと店内の中央に薪ストーブのあり、私達は冷え切った身体であったので、思わず近づき、
暖をとったのである。
私は東京郊外の住宅街に住む身であり、
とても家の中の一角に薪ストーブを置けるような場所もなければ、
薪の補給を配慮すれば、贅沢な暖房具となっているのである。
私の幼年期は、今住んでいる処からは程近く、
田畑は広がり、雑木林があり、祖父と父が中心となり、農家を営んでいた。
家の中の一面は土間となり、この外れに竈(かまど)が三つばかり有り、
ご飯を炊いたり、煮炊きをしたり、或いは七輪の炭火を利用していた。
板敷きの居間は、囲炉裏であったが、殆ど炭火で、
家族一同は暖をとっていたのである。
薪は宅地と畑の境界線にある防風林として欅(けやき)などを植えて折、
間隔が狭まった木を毎年数本切り倒していた。
樹高は少なくとも30メートルがあり、主木の直径は50センチ程度は最低限あり、
これを30センチ間隔で輪切りにした後、
鉈(なた)で薪割りをし、日当たりの良い所で乾燥をさしていた。
そして、枝葉は竈で薪を燃やす前に使用していたので、
適度に束ねて、納戸の外れに積み上げられていた。
薪ストーブの中、薪が燃えるのを眺めていたら、
こうした幼年期の竈(かまど)の情景が甦(よみがえ)り、
『お姉さん・・お酒・・2本・・お願い・・』
と私は60代の店番の女性に云った。
そして、薪ストーブで暖を取りながら、昼のひととき、お酒をゆっくりと呑もうと思い、
家内は少し微苦笑した後は、
殆ど人気のない外気の雪降る情景に見惚(みと)れていた。
ホテルに雪の降る中を歩いて戻ると、
ホテルの外れに茶室があり、積雪が深まった庭先の中を歩いた・・。
茶室は人影が見当たらず、ひっそりとしていた。
最終章
そして1周忌の法事の日には、
粉雪が舞い降る朝となり、私達兄妹は、親戚、知人の方達には来て頂くことに、心配したりしていた。
お墓のあるお寺で法事が終り、ふるまいの会場に向かう時、
相変わらず粉雪が舞い降りていた・・。
叔母と妹の2人で私は歩いていたが、
『お母さん・・私を忘れないで・・と降っているのかしら・・』
と私は不謹慎ながら云った。
『そうよねぇ・・義姉(ねえ)さん・・苦労が多かったから・・
天上の神様・・覚えていたのよ・・』
と叔母は私に微笑んだ。
私と妹は微苦笑し、粉雪が舞降る空を見上げ、そして会場に急いだ。
私は今でも、雪が舞い降る情景を見たりすると、
ときおり亡き母のしぐさ、言葉が思い重ねることがある・・。
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納骨の四十九日目の納骨の『七七忌』法要、そして『百カ日』と続き、夏の新盆となり、
晩秋に喪中の葉書を関係者に送付したりした。
年末年始、喪に服するのは戸惑いを覚え、
何よりも母親の死去で失墜感、空虚感が私にはあったのである。
世間の人々は残された息子は幾つになっても、父親の死より、母親の死の方が心痛と聞いたりしていたが、
私の場合は父は小学2年に病死され、もとより母、そして父の妹の叔母に育てられたので、
53歳を過ぎた私でも心は重かったのである・・。
このような私の感情を家内は察して、
『年末年始・・どちらかに旅行に行きましょう・・』
と私に云った。
そして私達夫婦は、年末年始に初めて旅行に出かけたのである。
秋田県の山奥にある秋の宮温泉郷にある稲住温泉に、
12月31日より3泊4日の温泉滞在型の団体観光バスプランを利用し、滞在した。
何かしら開放感があり少し華(はな)やかな北海道、東北の著名な温泉地は、
亡き母との歳月の思いを重ねるには相応しくないと思い、山奥の素朴な温泉地としたのである。
私達夫婦は防寒服で身を固めて、積雪の幅5メートルぐらいの閑散として県道を歩いた。
周囲は山里の情景で、常緑樹の緑の葉に雪が重そうに掛かっていたり、
落葉樹は葉の全てを地表に落とし、小さな谷沿いに小川が流れいた。
しばらくすると、雪が舞い降りてきた・・。
ゆるく蛇行した道を歩き、秋田県の奥まった処だと、実感できた。
車も通らず、人影も見えなかった・・。
雪は強まってきたが、風もなく、静寂な中を歩いた。
このように1時間ばかり歩いたのだろうか。
そして町営スキー場が観え、ゴンドラなどもなく、リフトが2本観られる素朴なスキー場であった。
スキー場の外れにある蕎麦屋さんに入り、昼食代わりに山菜そばを頂こうと、
入店したのであるが、お客は私達夫婦だけで、
こじんまりと店内の中央に薪ストーブのあり、私達は冷え切った身体であったので、思わず近づき、
暖をとったのである。
私は東京郊外の住宅街に住む身であり、
とても家の中の一角に薪ストーブを置けるような場所もなければ、
薪の補給を配慮すれば、贅沢な暖房具となっているのである。
私の幼年期は、今住んでいる処からは程近く、
田畑は広がり、雑木林があり、祖父と父が中心となり、農家を営んでいた。
家の中の一面は土間となり、この外れに竈(かまど)が三つばかり有り、
ご飯を炊いたり、煮炊きをしたり、或いは七輪の炭火を利用していた。
板敷きの居間は、囲炉裏であったが、殆ど炭火で、
家族一同は暖をとっていたのである。
薪は宅地と畑の境界線にある防風林として欅(けやき)などを植えて折、
間隔が狭まった木を毎年数本切り倒していた。
樹高は少なくとも30メートルがあり、主木の直径は50センチ程度は最低限あり、
これを30センチ間隔で輪切りにした後、
鉈(なた)で薪割りをし、日当たりの良い所で乾燥をさしていた。
そして、枝葉は竈で薪を燃やす前に使用していたので、
適度に束ねて、納戸の外れに積み上げられていた。
薪ストーブの中、薪が燃えるのを眺めていたら、
こうした幼年期の竈(かまど)の情景が甦(よみがえ)り、
『お姉さん・・お酒・・2本・・お願い・・』
と私は60代の店番の女性に云った。
そして、薪ストーブで暖を取りながら、昼のひととき、お酒をゆっくりと呑もうと思い、
家内は少し微苦笑した後は、
殆ど人気のない外気の雪降る情景に見惚(みと)れていた。
ホテルに雪の降る中を歩いて戻ると、
ホテルの外れに茶室があり、積雪が深まった庭先の中を歩いた・・。
茶室は人影が見当たらず、ひっそりとしていた。
最終章
そして1周忌の法事の日には、
粉雪が舞い降る朝となり、私達兄妹は、親戚、知人の方達には来て頂くことに、心配したりしていた。
お墓のあるお寺で法事が終り、ふるまいの会場に向かう時、
相変わらず粉雪が舞い降りていた・・。
叔母と妹の2人で私は歩いていたが、
『お母さん・・私を忘れないで・・と降っているのかしら・・』
と私は不謹慎ながら云った。
『そうよねぇ・・義姉(ねえ)さん・・苦労が多かったから・・
天上の神様・・覚えていたのよ・・』
と叔母は私に微笑んだ。
私と妹は微苦笑し、粉雪が舞降る空を見上げ、そして会場に急いだ。
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