理不尽なことは世の中にたくさんある。私が若い頃は女性差別が今よりひどかった。でも、戦後すでに婦人参政権はあったし、男女共学も当たり前になっていた。それでも、就職や、職場内の男女差別はあった。
大阪なおみさんが、今、(黒人差別のことをもっと人々にしってもらいたい)という思いで、全米オープンで激しい闘いを制して決勝まで勝ち残っている。実は、その前に大阪選手はウエスタン・アンド・サザン・オープン準決勝で、黒人男性銃撃事件への抗議のために棄権を公表している。棄権ではなく優勝して拳を高く突き上げて抗議すればいいと思った。BLACK POWER SALUTE(ブラック・パワー・サリュート)。1968年メキシコオリンピックで、男子200メートル金メダルのトミー・スミス氏と、銅メダルのジョン・カーロス氏が、表彰台で黒人差別に抗議した姿は、子どもだった私の記憶にも残っている。
そんな大阪なおみに対して、素晴らしかったのは、大会を主催するWTA(女子テニス協会)とUSTA(全米テニス協会)、ATP(男子プロテニス協会)だったように思う。連名で、「テニスはスポーツとしてアメリカで再び起きた人種差別と社会的不公平に対し、結束して反対するスタンスとっている」と声明を出し、27日に予定されていたすべての試合を1日延期して28日から再開すると決定。大阪選手はこの対応に感謝して、WTAと協議の結果、試合の棄権を取り下げて試合に戻り、準決勝に出場。ベルギーのエリーゼ選手にストレート勝ちするも、決勝戦の対戦相手であるベラルーシのビクトリア・アザレンカ(2012年と2013年の全豪オープン女子シングルスの優勝者)との試合が期待されたが、左太ももの裏のけがのために今度は棄権を表明した。
以前から、機会があるとスポーツは健康増進が目的の基本だから、怪我を押して闘うのを美談にするのは間違い!と主張している私なので、この棄権は正しい選択だと思った。と言うわけで、ウエスタン・アンド・サザン・オープンにおいては、最初の棄権は私には大阪選手の棄権には疑義をはさみたい気分だったが、主催者の大会側のあっぱれな対応で大納得。そして、大阪選手もそこで大きな学びを得たのが今回の全米オープンに繋がっているように思う。
そして、故障で棄権した選択の正しさも証明するように、素晴らしいプレーを続け、抗議活動も勝ち進みながら、毎回出場時に多くの人に伝えたい、理不尽な黒人差別で命を落とした人の名前をマスクに書いて用意。「私が知る限り、テニスは世界中の人が見ている。テイラーさん*の話を知らない人がいるかもしれない。そういう人がグーグル検索したりするかもしれない」「この話を知っている人が増えれば増えるほど、関心も高まると思う」と述べつつ、「名前の数に対して7枚では足りないのが悲しい。決勝まで進んで全部見てもらいたい」とインタビューに答え、とうとう7枚目のマスクまで使用する決勝を迎える。
*テイラーさんや、その後勝ち進んだことでマスクに名前を刻まれた差別の犠牲者の方たちのことは、ココに詳細が記されていた。決勝で誰の名前がでるかは不明だが、まずは6人のことについて、大阪選手が知ってほしいという気持ちを汲んで、是非確かめて読んでみよう。
大阪なおみは、そのチャーミングなコメントで人気が出たが、思い出せば彼女が2018年全米オープンの初優勝した時のインタビューは忘れられない。決勝で破ったセリーナ・ウィリアムズに対して、「誰もがセリーナを応援していたのは知っています。こんな終わり方になってしまい、すみません」などと涙ながらにスピーチした(思い出したい方はココから)その後、セリーナは、ファッション誌に掲載する形で大阪選手に謝罪文で「私は今も、あの時も、これからも、あなたの成功を喜び、サポートしています。私は決して、絶対に、他の女性から...黒人女性アスリートなら特に、スポットライトを反らすようなことはしたくありません。あなたの将来が待ちきれません。そして大ファンとしていつも試合を見ますから!」と伝え、大阪選手がそれに「あなたのように自身の為に立ち上がった人は誰もいません。その道を拓き続けてください」と返信があり、セリーナはそれを読んで涙を流したという話もある(ココから転載)
また、これは今回調べていて始めて知ったのだが、大阪選手は2019年の全米オープンでも、勝者と敗者と一緒に勝利インタビューという異例のインタビューをして観客の感動を呼んでいた。相手は、全米の期待を一身に集めた15歳の少女。大坂選手は練習でも少女を知っていて、練習を積んだ素晴らしいプレーヤーとして観客に一緒に応えようとインタビューに誘い自分自身も涙声になって記憶に残るインタビューを残している(その時のインタビューの会話が、日本語訳付きでココで聞けた。)
さて、そして話をもどして、今回の2020年全米オープンの決勝は12日。何と決勝戦の相手は、前回のウエスタン・アンド・サザン・オープンで、故障をしなければ対戦するはずだったビクトリア・アザレンカ選手が、セリーナを破って登場です!盛り上がりますね。
大坂なおみ選手、コーチの解雇問題の時にも、ちょっと「?」と思ったけれど、人間として本当にチャーミングで、人を惹きつけ愛される素晴らしい人格と品位を持ち合わせた選手だと思います。日本人として、本当に誇りに思えます。
余談)スポーツではスピードスケートの小平選手とかもその人格で世界からも評価されていますが、スポーツ選手には誇れる人がたくさんいるのに、政治家にはなぜ日本に誇れる人がいないのか?と、ここで大いに嘆かわしい気持ちになってきたのですが、スポーツ選手には誇れる人たちがいるのに、政治家に素晴らしい人がみつからない理由は??? 簡単でした。スポーツは、実力で勝者が決まるから。政治家は、特に世襲議員が多いことに問題がありそうですね(嘆)