のりぞうのほほんのんびりバンザイ

あわてない、あわてない。ひとやすみ、ひとやすみ。

もう切るわ/井上荒野

2006年10月10日 22時33分24秒 | 読書歴
■ストーリ
 一人の男がいる。男には妻と愛人がいる。
 男から離れていこうとしている妻。
 男からの電話をひたすら待っている愛人。
 ある日、男は不治の病におかされ、死期を宣告される。
 その瞬間、ありふれた三角関係が、奇妙に揺らぎはじめる。
 男が最後に愛したのはどちらだったのか。あるいは女たちが
 真実愛したのは誰だったのか。

■感想 ☆☆☆*
 やられた。見事にやられた。
 彼女の世界にやられた。

 元来、小説やドラマ、映画の世界にストレートに
 ダメージを受ける傾向がある。ハッピーエンドのドラマを
 見終わった翌日は、その結末を思い出してはほくそえんだり
 反対に見事なまでに救いのないドラマを見てしまったら
 その後数日はどんよりと落ち込んでいたり。
 そういう傾向があるからこそ、井上荒野さんの絡みつくような
 文体と、迷ってばかりで決断できないでいる登場人物たちの
 心の迷路に一緒にはまりこんでしまった。

 どの登場人物にも共感はできない。苛々させられる。
 けれど、共感してしまう。彼女たちの弱さ、ずるさ、甘えに。
 わかってしまう自分に女の性を感じてしまう。
 普段、拒否している自分の中の「オンナ」の部分を突きつけられる。

 男性はずるい。
 どの女性が自分を甘えさせてくれるか、きちん見極める。
 そして、甘えさせてくれることを確信しながら甘えてくる。

 女性はこわい。
 甘えてきた男性をきちんと甘えさせてあげる。
 たとえ、心に闇を抱えていても。
 その闇から目をそらすとができる。
 そして、その闇から逃れるために、すきでもない男性に
 甘えることができる。
 そういうずるさも女性は持っているのだと思う。

 「もう切るわ」
 このタイトルを私は女性の言葉だと思っていた。
 男性に最終通告を出している女性の言葉。
 しかし、実際は男性の言葉だった。
 それも別れの言葉ではなく、自分自身についての言葉。
 軽やかで、浅はかで、弱さに満ちた言葉。

 結局、この作品は男女の愛の物語ではなく
 自分自身の心の本当の気持ちをつかめないでいる
 登場人物たちの内面逡巡のストーリーなのだと思う。
 お互いを見詰め合うのではなく、あくまでも自分自身を
 見つめなおし、自分へ問いかけ続ける話なのだ。 

内緒話

2006年10月10日 22時12分31秒 | 日常生活
定時後、部長がこそっと顔を近づけてきました。

「仕事とまったく関係ない話してもいいですか?」

はい。勿論、いいですよ。
むしろ、そちらのほうが得意です☆

「土曜の夜、何かドラマ見てますか?」

土曜?
・・・もしかしてチャングムですか?

「そうそう!それですよ!!
 いやー。見てますか!」

・・・ごめんなさい。部長。
今回は見てないんです。
最初の2、3回で挫折しちゃったんです。

「あぁ、分かりますよ。
 10回目ぐらいまでは
 ちぃっとも面白くなかったですからね。
 しかし、途中からみるみる面白くなってきたんですよ。
 あの主役の女性、あれが実にすばらしいっ。
 フユソナの女優さんは、役がよかったんですけど
 それ以外のときはイマイチだったでしょう?
 今回は違うんですよ!
 役のときはそれほど美人ではないのに
 普段見ると、実にいい!
 なかなかの美人さんですよ!」

・・・・話しているうちに興奮してきている様子が
のりぞうにも伝わってきます。
部長、はまってるんですね。
毎週土曜日が楽しみなんですね。

「ええ。このドラマのために
 土曜日は早く家に帰るようにしています。」

と、胸を張る部長。
こんなふうに好きなことについて
突然、一生懸命語りだす部長も大好きですが
話が終わった跡に、ふと冷静さを取り戻して

「ま、別にだからどうだってわけじゃないんですけどね。
 いいんです。雑談です。雑談。
 仕事に戻ってください。」

と、急に取り繕う部長はもっと好きです。
かわいらしいなぁ。

・・・って、これって
別にこそこそす話さなくてもいいのでは?