のりぞうのほほんのんびりバンザイ

あわてない、あわてない。ひとやすみ、ひとやすみ。

半落ち/横山秀夫

2007年02月24日 23時21分10秒 | 読書歴
■ストーリ
 「妻を殺しました」。
 現職警察官・梶聡一郎が、アルツハイマーを患う妻を殺害し
 自首してきた。動機も経過も素直に明かす梶だが、殺害から
 自首までの二日間の行動だけは頑として語ろうとしない。
 梶が完全に“落ち”ないのはなぜなのか。
 その胸に秘めている想いとは。

■感想 ☆☆☆☆
 寺尾聡主演でヒットした映画の原作。
 映画同様のヒューマニズム溢れる作品世界を想像していたが
 まったく違った。そこには、横山作品らしい妥協を許さない
 厳しい世界が繰り広げられていた。

 事件が起こり、容疑者が逮捕された時点で、まったく事件に
 関係ない人々にとっては、その事件は「解決」し、「終了」
 つまり過去の事件となる。
 しかし、実際にはそこからも事件は続いている。
 刑事や検事や判事や裁判官など、多くの人々が新たに事件に
 関わり、事件の背景や真相を究明しようとする。
 事件が起こるに至った納得いく「解答」を探そうとする。

 この作品は犯人が捕まったところから話が始まる。
 空白の二日間に何が起こったのかを知ろうとする刑事、検事、
 裁判官、事件記者、拘置所の管理官、と各章ごとに視点が
 変わっていき、それによって事件の側面も変化する。
 現職の刑事の犯行ということもあって、「組織の圧力」が
 加わり、様々な思惑が交錯し、それらが事件を微妙に変えていく。

 組織から自由になれない中で、「真実」を知りたいと願い
 組織の中でもがく彼らの姿と対称的に主人公、梶は
 澄んだ瞳で事件について落ち着いて話す。
 彼の姿に迷いがないからこそ、彼に関わる人々は、真相を
 知りたくなるのだろう。殺人犯がこんなにも穏やかに
 過ごせるはずがない。そう思うのだろう。

 映画も良い作品だった。だが、小説は更に重厚で
 胸に訴えかけるものが大きい作品だ。