のりぞうのほほんのんびりバンザイ

あわてない、あわてない。ひとやすみ、ひとやすみ。

役作りに余念なし

2011年04月05日 23時08分44秒 | 日常生活
そういえば、しばらくおばあちゃんに会ってないぞ、と思い立ち、
仕事帰りに祖母を訪れました。

久しぶりー!元気だったー?
と声をかけながら、部屋へ入っていくと
祖母が私の顔を見て驚いた後、笑顔を見せ、
笑顔を見せたと思いきや、慌てて話しかけてきました。

「言わんないかんと思いよったんよ!
 あんたね、今、大事なときなんやけん、もう遊びに来んでいいけんね。
 まずは無事に赤ちゃんを産み。
 そしたら、おばあちゃんのほうから赤ちゃんを見せてもらいに行くけん。」



・・・。
もしもーし?おばあちゃーん?
その孫はね、あたしの妹さんですよ。
あたしは、姉のほう。妊娠してないほう。結婚もしてないほう。
いつもおばあちゃんから「早く結婚せんね。」とせかされてるほうですよー。

と(妙に胸をずきずきと痛ませながら)訴えたところ、
祖母はまじまじと私の顔を覗き込み、きょとんとした顔で
「意味がわからん。あんた、なん言いよるん。おかしな子やね。」
と、言い放たれました。

・・・なるほどね。
そりゃそーだよね。
妹のほうだと思っている孫が自分のことを
「私は姉のほうよ」と訴えかけてるんだもん。
そりゃわけわかんないよね。うんうん。悪かったよ。
と、納得し。

とりあえず行けるところまで行ってみることにしました。
実のところ、ひとり女優ごっこはちょう得意なのです。
もうね、持っている妄想力をあらん限り総動員して
妹さん(新婚3年目の新妻、そしてもうすぐ母親)を
立派に演じきってみせますとも!
と、仕事中には見せたことのないやる気モードをめらめらと燃やしてスイッチオン。

「いつ産まれるんやったかねぇ?」
「男の子?女の子?」
「どこの病院に行きよるん?」
という立て続けの質問にも滑らかに答えてみせ
「嬉しいねぇ。」
「かわいいやろうねぇ。」
「あんたはいいお母さんになるやろうねぇ。」
という手放しの祝福モードには笑顔で喜んでみせ
「旦那さんのお父さんたちも喜んどうやろうねぇ。」
「あんたの旦那さんは、面白い人やったよね。」
「ちゃんと旦那さんのこと、大切にしとるんやろうね?」
「お金はちゃんとあんたが握っとかないかんのよ。」
という完全なるプライベート分野の感想や質問、アドバイスにも
笑顔で当たり障りなくかわしてみせました。うん。完璧。
さすが、「ガラスの仮面」を立ち読みし続けてるオンナ。
(今年こそ、最終回を読むことができますようにっ。)

と悦に入っていると、祖母がふと真顔になって
「そういえば、あんた、今日、仕事は?」
と話しかけてきました。

おばあちゃーーーーーーん。
もしや(というよりは、ようやく)私が姉だということに気付いてくれた?
ありがとー!

女優ごっこはとっても楽しいけれど、
実はアイデンティティ的にちょっぴり寂しさも感じていたのです。
今日の祖母の記憶には「私に会った」記憶は残らないんだなー、とか。
記憶に残るのは「身重の妹がわざわざ遊びに来てくれた」ことなのかなー、とか。
もしくは、私のことも妹のことも何ひとつ記憶には残らないのかなー、とか。
色々考えて切なくなっていたけれど。でもでも!
私の存在にちゃんと気付いてくれたのね!と喜びいさみ
「今日も仕事は行ったよー。定時で終えて、それから来たっちゃん。」
と答えかけたそのとき。
祖母が楽しそうに言いました。

「もうそろそろ仕事もやめるんやろ?
 しばらくはね、仕事より赤ちゃんを大事にせんないかんもんね。
 赤ちゃんを育てるほうがよっぽど大切な仕事やもんね。
 辞めるとき、みんなから花束とかもらったんやない?」

・・・うん。
たくさんお花もらったよー。
たくさん送別会も開いてもらったよー。

とりあえず。
すごすごと妹に戻ってみました。
与えられた役は、最後までまっとうしなくちゃだよね。

そんなこんなで、久々に祖母との時間を楽しみました。
相変わらず、祖母はかわいらしくとぼけた感じになっていて
でも、「赤ちゃん」のことはしっかりと覚えていて
「赤ちゃん」をこれ以上ないくらい楽しみに待っていて。
そんな祖母をとても愛おしく感じました。

そして、とにもかくにも。
与えられた役(=妹役)を無事に演じ遂げ、
そろそろ帰るね、とコートを手にしたそのとき。
祖母がそっと私のおなかに手を置き、
くふふと笑いながら幸せそうに言いました。

「やっぱりものすご大きくなっとるねぇ。たまがったー。」



・・・。
私のね、役にかける意気込みを見せつけちゃったな、
と面映い気持ちになりました。
舞台女優並みの役作りをしちゃったな、
と、ものすごくやるせない気持ちになりました。