井上光晴さんの長女荒野さんが作家デビューして、ある(現在はない^^)文学賞を受賞したのは記憶に残っています。年譜を見たら30歳になる直前のことでした。
その荒野さんが父親と瀬戸内寂聴さんの不倫関係を小説として上梓したのが『あちらにいる鬼』です。

荒野さんは今年59歳、いまや井上光晴という作家は井上荒野の父と説明が必要な立ち位置かもしれません。
瀬戸内寂聴さんは尼僧として作家として、97歳の現在もまだ現役として活躍していますから、若き日の行動に興味がわきます。
ただ、どろどろした場面を避けるわけにもいきません。でも、とても品よく父、母、愛人の関係が書かれています。
物書きは多かれ少なかれ周りで起こったことをヒントにしますから、因果な商売だなあと思わざるをえませんね。
この本の出版にあたって、寂聴さんが推薦文を書いています。
「作者の父井上光晴と、私の不倫が始まった時、作者は五歳だった」「モデルに書かれた私が読み傑作だと、感動した名作!!」「作者の未来は、いっそうの輝きにみちている。百も千もおめでとう」
と、手放しでほめています。
寂聴さん、いい女として書かれているし、不快にはならないでしょう。
さらに浮気された母親も、自分のほうが女性として強いわ、立場が上だわ、とキリッとしています。
荒野さん、いい作品が残せましたね。
荒野さんが最初に受賞した文学賞の選考委員の1人が寂聴さん、
亡くなったご両親は寂聴さんが名誉住職を務める岩手の天台寺に眠っています。