川村元気さんといえば、「電車男」、「告白」、「君の名は」などの映画プロデューサーとしてよく知られています。
その川村さんが認知症になった祖母と思い出話をする中で、自分のほうにも大きな記憶違いを見つけたりします。
そんな実体験を基に書き上げたのが『百花』です。
作品はシングルマザーだった母親と息子である自分、恋人から妻になる女性、生まれてくる子どもの物語。時の経過とともに、母親の症状は進みます。
母親が亡くなったあと、遺品を整理している本棚で母親のメモを見つけます。
葛西百合子
一月一日生まれ。
息子の名前は泉。甘い卵焼きとハヤシライスが好き。レコード会社で働いている。ヘルパーの二階堂さんは十時に来る。食パンを買わない。美久ちゃんのレッスンはもうない。泉の奥さんは香織さん。お花を切らさない。トイレは寝室の横。晩御飯はもう食べた。泉に迷惑をかけない。ちゃんとひとりで生きる。ベビー服をプレゼントする。電球と単三電池とハミガキ粉を買う。
どうしてこうなってしまったのだろう。
泉、ごめんなさい。
母親は記憶をつなぎとめようとして、細かくメモしていたのです。
筆者は執筆に際して、100人近い認知症の人たちと話をしたそうです。
母親はピアノを習いにきていた年下の既婚男性と、中学生の息子泉を1人置いて出奔します。息子の元に返ったきっかけが阪神・淡路大震災でした。
そんなところに、阪神間に住む私には景色や心のうちが見えてきます。
本来だったら、4月10日までに返さなければいけなかった図書館の本です。
でも、図書館は6月1日まで休館中です。
本を読む気分ではなかったこの4月。どうにか1冊読めました。