で、不肖、私、雄雄しく厨房に立っているのである。
しかし、辛味偏愛者の私に対し、
チビは疑念と猜疑の眼を寄せている。
「また、辛いんじゃない?」。
唐辛子を入れないように、じっと見張るチビである。
そんな監視の目をかいくぐった結晶が、この陳麻婆豆腐なのだ。
陳麻婆とは、中国・成都で生まれた、ベリーグッドな料理。
要するに、甘ったるくなくて、四川風の大人の麻婆だ。
あっち勤務の折、かなーりの頻度で通っていた。
その店で「辛めにしてちょ」と頼んだのは私が初めて。
食事を終えた私に、
中国人スタッフが「大丈夫でしたか」とたずねてきたのも懐かしい思い出である。
それに一歩でも近づけるために必要なのが、「ヤマムロ」の陳麻婆豆腐。
そして、四川で製造された豆板醤である。
豆腐を用意して、しろねぎを一本ざくざくに切って、
あとはチビの眼を盗んで、四川豆板醤やらピリッとくる花椒をぶち込むだけであ
る。
「できたよー」と、朝っぱらから、口から火が出るような料理を喰わせようとするおやぢ。
一口食べただけで、チビは「辛いっ!」とべそをかく始末。
まったく、情けない話である。