礫川全次のコラムと名言

礫川全次〈コイシカワ・ゼンジ〉のコラムと名言。コラムは、その時々に思いついたことなど。名言は、その日に見つけた名言など。

日米ともにオリガーキ、これが世界の悲劇

2017-06-07 05:10:17 | コラムと名言

◎日米ともにオリガーキ、これが世界の悲劇

 昨日の続きである。昨日は、霍見芳浩氏の『日本企業の悲劇』(光文社カッパ・ビジネス、一九九二)から、一七九~一八〇ページにある文章を紹介した。
 本日は、同書の一八三~一八四ページにある文章を紹介してみよう。

 もうお分かりだろうが、日本人に求められている国際化とはオリガーキの思想と行動をエスタブリッシュメントのそれに変えることに他ならない。これに気づいている日本人が少ないせいか、日本人が持て囃【はや】す「国際化」の処方箋とは、靖国神社にビジネス・スーツを着せたような、滑稽でで空疎なものが多い。
 九一年四月、フジテレビの朝のニュース番組で、今は落ち目のニューヨークの不動産王トランプ氏が、日本人に豪華な私用客船(ヨット)を売りたがっていることの背景を説明しようとした。そのとたん、ナマの衛星中継が切れた。あと一分あったら、米国の不動産を買いまくっている日本の成金さんもまだヨットは買えないと思うが、一日も早くこんなのを買う個人や企業が出てほしいものだという話をしたかった。世の中には金だけでどうにもならないものがたくさんあるが豪華外洋ヨットはその象徴だろう。日本にはこうしたハード(製品)を買うだけの財力のある個人や企業は増えていても、残念だが、これを使いこなせる人は皆無だろう。まず、これに乗って世界各地を楽しく遊び回るだけのゆとりと素養がいる。そして寄港先々の上層社会や高尚な研究や趣味の同好会に仲間扱いしてもらえるだけの社交と知的なソフト能力が欠かせない。したがって日本企業も、国際化はまず男女社員の精神的ゆとりと素養を磨くのから始めるべきだろう。こうして個性豊かでヨットでの外遊も楽しめる日本人が増えれば、顔のない集団と不気味がられている日本人の対外イメージも好転する。
 オリガーキの典型のブッシュ大統領とその側近は、国民大衆の米国の将来に関する大不安をはぐらかすために、米国内での各種グルーブ間の反感を煽っている。このために、米国内にギスギスした人間不信が広がっている。こうした行き所のない不信が、残念ながら米国民の最大公約数的な「敵」として、日本人や日本企業に集中し始めている。
 国の政治や経済も、企業も、教育も、芸術文化も、歴史的に見ればオリガーキが主導権を握った時代には腐敗し、衰退する。エスタブリッシュメントが実権を振るった時代には、飛躍成長すると同時に周囲からも尊敬される。
 米国では、歴史的に共和党の大統領にオリガーキが多い。これはこの党の政治や経済のイデオロギーが「私欲礼讃」と「米国中華思想」のせいだろう。七〇年代の後半のカーター(民主)時代の中休み期を入れて、ニクソン、フォード、レーガン、そしてブッシュと続いた米国が、ついに政治的にも経済の面でも、世界での主導権を失い始めたのは「リーダー不在」のオリガーキ政治と無縁ではない。
 日本の場合も、政界、産業界、学界、マスコミ界と各界にオリガーキと老害の二重障害が浸透しているのは説明の必要もあるまい。
 今、世界の第一の悲劇は、今ほどエスタブリッシュメントのリーダーが日米両国に求められているときはないのに、また激動の世界の政治と経済の大枠を、日米して再構築しなけばならないのに、日米ともにオリガーキの盛りだということにつきよう。

 ここに出てくる「ブッシュ」とは、アメリカの第四一代大統領の、ジョージ・H・W・ブッシュ氏(任期一九八九~一九九三)、いわゆる「パパ・ブッシュ」のことである。
 また、「今は落ち目のニューヨークの不動産王トランプ氏」というのは、アメリカの現大統領(第四五代)のドナルド・J・トランプ氏(任期二〇一七~)のことである。
 ちなみに、霍見芳浩氏にとって、第四三代大統領のジョージ・W・ブッシュ氏(任期二〇〇一~二〇〇九)は、ハーバード大学院時代の教え子である。ジョージ・W・ブッシュ氏の大統領就任が決まったとき、マスコミに当時のブッシュ氏の印象を聞かれて、「普通、授業を教えた生徒の事はいちいち覚えていないものだが、彼は非常に出来の悪い生徒だったのでよく覚えている」と答えたという話は有名である(ウィキペディア「霍見芳浩」)。
 さて、本日、引用した霍見芳浩氏の文章だが、特に最後のパラグラフに注目したい。二〇一七年前半という「今」について語っているかに思える。おそるべき洞察力という以外ない。

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