礫川全次のコラムと名言

礫川全次〈コイシカワ・ゼンジ〉のコラムと名言。コラムは、その時々に思いついたことなど。名言は、その日に見つけた名言など。

静岡県警察部刑事課編の「全国方言集」(1927)

2019-02-24 01:27:11 | コラムと名言

◎静岡県警察部刑事課編の「全国方言集」(1927)

 橘正一著『方言読本』(厚生閣、一九三七)から、「昭和方言学者評伝」を紹介している。本日は、その一一回目で、〔静岡県〕と〔石川県〕の項を紹介する。

〔静 岡 県〕
 内田武志氏は秋田県鹿角【かづの】郡の出身であるが、静岡市に移り住んで後、静岡県方言の分布調査を企て、その結果は「静岡県方言誌、第一輯、動植物篇」「静岡県方言集」の著となつて現れた。同氏は土俗学者であるだけに、その採集に土俗学的偏向が見られる。土俗学的に深みのあるのは結構であるが,用語や語法の方面が閑却され勝ちなのは、静岡県といふ土地がら、他県よりも一層遺憾である。この欠を補ふものは浜松師範の宇波耕策氏である。浜名湖が東西方言語法の境界線を成して居る事は前から知られて居た事であるが、それを更に精密に調査して確実にしたのは同氏の功績である。
 浜松師範の佐々木清治氏は地理学者として、令名がある。その地理学者が言語地理学に着眼したのは賢明であつた。ただし、同氏が材料として取上げたものは、主として、方言量の多過ぎる動植物の名称であつたため、宇波氏の場合ほど、見事な分布区域を示しはしなかつたが、盤根錯節を解剖して、ある傾向を帰納する事には成功した。一体、言語地理学は半分は地理学の領分である。我々は、地理学者の中から、多くの佐々木氏が出る事を希望し、期待する。尚この県には鈴木脩一氏・徳田政信氏がある。
 静岡県警察部刑事課の名で、昭和二年〔一九二七〕に出版された「全国方言集」の編者は増田銀治氏であつたと記憶する。雑駁の憾はあるが、全国的集成を企てた気魄には敬服する。殊に、昭和二年と言へば、まだ方言研究が一般化しなかつた時代である事を思はなければならない。
〔石 川 県〕
 石川県は暗黒である。明治時代の「石川県方言語彙」を其のまま再版したりして、お茶を濁して居る。然し、中山随学氏が「松任〈マットウ〉地方の方言」を出したのと、長岡博男氏が眼科医の傍〈カタワラ〉、方言を蒐集して居るのはやや心強い。

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