◎「日本は調和のとれた国」は、大がかりな欺瞞
カレル・ヴァン・ウォルフレン著『人間を幸福にしない日本というシステム』(毎日新聞社、1994)の要所要所を紹介している。本日はその十回目。
第三部「日本はみずからを救えるか?」の第二章「思想との戦い」は、39ページ分もある。同章からは、二箇所を引いてみたい。最初に紹介するのは、次のところである。
きっと読者の方は、一人残らず、日本の社会は強い調和を天から恵まれているという話を何回となく聞いただろう。学校でもそう教えられたし、テレビでもたびたび聞かされただろう。新聞や雑誌でも、日本は特別に調和しているという論をしばしば読んできたはずだ。
日本は調和のとれた国である――あまりに多くの人が当然のようにそう信じているので、あなたもこのばかげた話を改めて考えてみることはなかったのではないかと思う。これはばかげた話なのだ。完全なたわごとと言っていい。
しかし、日本は調和のとれた国であり、その意味であまたの国のなかでもユニークな存在だという信念は、日本人の集合意識のなかに深く深く根づいている。これは大がかりで、しかも大成功した欺瞞である。それ自体が巨大な偽りのリアリティであるばかりか、ほかの多くのリアリティの源泉になっている。
日本は並外れて調和のとれた国だと今度だれかが言ったら、あなたは笑い飛ばせ。そして、日本は異常なほどの不調和に悩まされていると言って逆襲すべきだ。
私の言葉は文字どおり受け取っていただいて結構だ。私はこれまで八つの異なる社会で生活してきた。そして日本に長く住んできて、社会の調和という点で日本が他国ととりたてて大きな違いがないことをはっきり証言できる。
実際には、日本社会の大問題の一つは、むしろ人々のあいだに、わけても政治エリートたちのあいだに、本当の意味での相互信頼が欠けていることなのだ。確固たる相互信頼がなければ本当の社会の調和などはありえない。私の意見では、相互信頼があまりに不足しているというまさにそのために、日本は調和社会だというきれいごとをひときわ強調してきたのではないか。それはまさに日本社会の泣きどころである。
日本は「調和」を強制されてきた歴史がある。いわゆる十七条憲法で「和」を強調した聖徳太子の時代から明治政府にいたるまで、日本は政治的に厳しく抑圧されてきた。抑圧のもとでは、人々には調和をよそおうしか道がなかったのが真相だ。〈256~257ページ〉
カレル・ヴァン・ウォルフレン著『人間を幸福にしない日本というシステム』(毎日新聞社、1994)の要所要所を紹介している。本日はその十回目。
第三部「日本はみずからを救えるか?」の第二章「思想との戦い」は、39ページ分もある。同章からは、二箇所を引いてみたい。最初に紹介するのは、次のところである。
きっと読者の方は、一人残らず、日本の社会は強い調和を天から恵まれているという話を何回となく聞いただろう。学校でもそう教えられたし、テレビでもたびたび聞かされただろう。新聞や雑誌でも、日本は特別に調和しているという論をしばしば読んできたはずだ。
日本は調和のとれた国である――あまりに多くの人が当然のようにそう信じているので、あなたもこのばかげた話を改めて考えてみることはなかったのではないかと思う。これはばかげた話なのだ。完全なたわごとと言っていい。
しかし、日本は調和のとれた国であり、その意味であまたの国のなかでもユニークな存在だという信念は、日本人の集合意識のなかに深く深く根づいている。これは大がかりで、しかも大成功した欺瞞である。それ自体が巨大な偽りのリアリティであるばかりか、ほかの多くのリアリティの源泉になっている。
日本は並外れて調和のとれた国だと今度だれかが言ったら、あなたは笑い飛ばせ。そして、日本は異常なほどの不調和に悩まされていると言って逆襲すべきだ。
私の言葉は文字どおり受け取っていただいて結構だ。私はこれまで八つの異なる社会で生活してきた。そして日本に長く住んできて、社会の調和という点で日本が他国ととりたてて大きな違いがないことをはっきり証言できる。
実際には、日本社会の大問題の一つは、むしろ人々のあいだに、わけても政治エリートたちのあいだに、本当の意味での相互信頼が欠けていることなのだ。確固たる相互信頼がなければ本当の社会の調和などはありえない。私の意見では、相互信頼があまりに不足しているというまさにそのために、日本は調和社会だというきれいごとをひときわ強調してきたのではないか。それはまさに日本社会の泣きどころである。
日本は「調和」を強制されてきた歴史がある。いわゆる十七条憲法で「和」を強調した聖徳太子の時代から明治政府にいたるまで、日本は政治的に厳しく抑圧されてきた。抑圧のもとでは、人々には調和をよそおうしか道がなかったのが真相だ。〈256~257ページ〉
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