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グローバル資本主義の一肯定論   文科系

2012年08月22日 11時10分52秒 | 国際政治・経済・社会問題(国連を含む)

 以下は、岩波ブックレット「グローバル資本主義と日本の選択 富と貧困の拡大のなかで」に書かれた武者俊司氏の「日本の選択」論を箇条書き的に要約するものだ。埼玉大学大学院客員教授、大和証券、ドイツ証券を経て、武者リサーチ代表と紹介されている方である。経歴から見ても、世界経済の現状を基本的・肯定的に見る一つの考え方なのだと思う。この本は3人の「報告・討論二回り」で構成されており、お相手の1人橘木俊詔氏がこう評しているように。
『今のお二人の話をうかがって、金子(勝)先生は基本的に悲観派、武者先生は基本的に楽観派と解釈しました。私はその真ん中あたりでニュートラルな立場にいるのですが、あえて言えば、武者さんの話はやや楽観的過ぎるのではないかと指摘させていただきます』

①先ず、グローバル資本主義とは何かを、武者はこう語る。
『国家が経済の主体としての役割を終えて、世界が一つの帝国と言っていいようなフレームワークのもとでほぼ統一されたことを意味します。そしてその帝国に存在するロジックがあらゆる経済活動にとって最も優勢的な力になっている、ということ』
『このグローバル分業の成立と、その背後にあるグローバル金融の成立が、言ってみれば今日の世界経済の最も基本的な特徴だと思います』

②そういうグローバル資本主義の展望に関わってはまた、結論的に言えば、こう語られている。
『新興国の処方と展望は容易です。先進国並みの生活水準を目指しさえすればよい。しかし先進国は未知の成長を創り出していかなければなりません。先進国における、より豊かな生活水準と生活スタイルの追求、それをサポートする産業と雇用の創造、それは人類にとっての大きな挑戦といえます』
これはつまり、こういうことだ。ブリクス諸国のようなところは日本の60年代と同じで、農村から都市への労働力移転と世界の資本、技術との流入によって、どんどん豊かになっている真っ最中である。対して先進国は、どうするのか。金融と世界への投資、本社機能などが中心になって、その金がサービス業などに流れることははっきりしているのだが、そのほかにどんな産業と雇用が可能なのかが難しいと語っているわけだ。

③なお、日本資本主義の特有の『退廃色』なるものが4つ語られている。第一に、経済の名目成長率がこの20年ほぼゼロという希有な先進国だと。欧米が2倍、中国が7倍、韓国が3倍になったのに、何をしていたのかという非難である。これ以外で、「グローバリゼーションの内在化に完全に失敗した」先進国とも表現され、これに関連して「格差と貧困の発生」も指摘する。ただし日本の格差問題はこのような説明になる。各国のCEO報酬が初任給の何倍かという数字を上げて、日本はせいぜい10~30倍だが、アメリカは300~400倍、ドイツでも100倍なのだから、日本の格差問題とは格差ではなくって実は、経済成長がなかったという20年間の経済停滞問題そのものなのであると。

④さて、以上のような橘木俊詔氏評するところの「やや楽観的過ぎる」世界経済分析には、現実的大問題、解決を迫られる大課題といったものはないのか。②の「先進国の産業と雇用」や、③に見た先進国では日本だけに著しい経済停滞よりも遙かに大きな世界的大問題が存在するとして、このように語られていると言える。
『この世界同時不況の背景には、世界的不均衡があったと思います』『これは世界的に劇的に増大する供給力と需要創造の弱さのミスマッチだと思うのです』。僕にとってこの言葉は驚いたことに、マルクスやケインズが格闘してきた資本主義そのものの根本的矛盾の規定とほぼ同じ表現なのである。因みに、武者はこんなことさえ語っている。『お金は増えて非常に豊かになったけれども、それを一体どこに投資して次の拡大を期待していけばいいのか』『供給力の劇的な増大が、逆に世界経済を悲劇に導く可能性もないとは言えません』
 ただし、ともあれこれは武者にとってはまだまだ先の問題なのであって、10年は先の話。ブリクスなど新興諸国国民の生活が先進国並みになるまでの当面は基本的に大丈夫だと語られているのである。よって目下の問題はまー、上にあげた先進国問題と、中でも特に日本だけに著しい20年の停滞問題ということだ。ただし僕はこう思う。当面の先進国問題も、日本固有の20年の停滞も、その根っこは『供給力の劇的な増大が、逆に世界経済を悲劇に導』いたものではなかったのか。リーマンショック自身も同じ性格のものだったと武者が語っているところを見ると、武者も言うように『グローバルガバナンスが必要になってきます』ということは今でも既に明らかだろう。が彼は、「これが見えてこない」と語っているのだ。こうして武者の理論はむしろ、悲観論と言うべきではないのか、などと僕は考えていた。
コメント (2)
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