歴史進行には常に、良かれ悪しかれこういう時がある。前へ進もうとする場合と後に戻ろうとする場合と。なお、ここで良かれ悪しかれというのは、前も後ろもさしあたって民主主義的という意味での善悪を超えてということであり、そのどちらをより増やすかは時代の人々が決めることだろうという意味である。
さて、そういう意味で世界史が今前へ進もうとするとき、史上かって無かった難問がある。いわゆる金融グローバル経済を主導する米国の発言権、行動力が強すぎて各国の手には負えないこと、この米を規制するには国連のイニシアティブをかってなく強めるしか道はないことである。
ところが次に、この金融グローバリゼーションの行いが世界の人々にはほとんど見えていないという問題がある。見えていないと言うよりも、隠密裏に行動して、見えないようにしてきたというのが正確な所だろう。それでこうなる。今の各国の諸問題、人間たちの諸不幸の源自身が見えない。見えないけれども何となく、外国関係者がわが国を悪くしているようだとは感じている。
「グローバリゼーションなどご遠慮願って、わが国本来の形に戻れ」
と、こう言うことなのではないだろうか。国際金融で儲けていると思われる国でさえ、その「99%対1%」問題を前にすれば、国粋主義的美化も必要になるというものだ。
さて、そういう金融グローバリゼーションの行き着いた先・アメリカの現状を見詰めたある本を改めて紹介したい。「金融が乗っ取る世界経済 21世紀の憂鬱」(中公新書、ロナルド・ドーア著)である。
なお、著者はこういう方だ。この本を書いた2011年現在で86歳のイギリス人、ロンドン大学東洋アフリカ研究学院卒、50年に江戸教育の研究のため東京大学に留学。以来ずっと、日本ウォッチャーを続けて来られたと、まるで日本文学者ドナルド・キーン氏のような。なお、この本は題名の通りの内容を3部に別け、それぞれ『「金融化」現象』、『金融化が、社会、政治、教育などをどう変えたか』、『金融改革、弊害是正をめぐる各国、国際機関の動き』を扱っている。今世界史に臨む人にとっては、必読の書だと愚考する。
今日最初に紹介するのは、こういう諸社会現象の結末としての世界「1%」の出来上がり方およびその構造。その後に、前記3部を一つずつ紹介して・・・・・
米企業利益のうち金融利益の割合が、1950年代までは9・5%であったものが急増して、02年には41%と示される。
機関投資家の上場企業株式所有シェアがどんどん増えていく。1960年アメリカで12%であったこのシェアが、90年には45%、05年61%と。そして、彼らの発言力、利益こそ企業の全てとなっていった。
企業から「金融市場への支払い」が、その「利益+減価償却」費用とされたキャッシュ・フロー全体に占める割合の急増。アメリカを例に取ると、1960年代前半がこの平均20%、70年代は30%、1984年以降は特に加速して1990年には75%に至った。
そして、こうなった。
彼らの忠実な番犬になりえた社長は彼らの「仲間」として莫大なボーナスをもらうが、「企業の社会的責任。特に従業員とその家族、地域への・・」などという考えの持ち主は、遺物になったのである。こうして、米(番犬)経営者の年収は、一般社員の何倍になったか。1980年には平均20~30倍であったものが、最近では彼の年金掛け金分を含めば475倍になっている。その内訳の大部分は、年当初の経営者契約の達成に関わるボーナス分である。全米の企業経営者がこうして、番犬ならぬ馬車馬と化したわけだ。
「証券文化」という表現には、以上全てが含意されてあるということだ。企業文化、社長論・労働者論、その「社会的責任」論、「地域貢献」論、「政治家とは」、「政府とは・・?」 「教育、大学とは、学者とは・・?」、そして、マスコミの風潮・・・。
以下のような数字は日本人には到底信じられないもののはずだ。この本の73ページから抜粋した、アメリカ資本主義の象徴数字と言える。
『2006年のように、ゴールドマン・サックスというアメリカの証券会社がトップクラスの従業員50人に、最低2,000万ドル(当時のレートで17億円くらい。〈この記述周辺事情や、最低と書いてあるしなどから、1人当たりのボーナスの最低ということ 文科系〉)のボーナスを払ったというニュースがロンドンに伝われば、それはシティ(ロンドン金融街)のボーナスを押し上げる効果があったのである。
これだけの強食がいれば、無数の弱肉が世界に生まれる理屈である。2006年とは、08年のリーマンショックを当ブログでも予言していた史上最大のバブル、サブプライム住宅証券組込証券が頂点に達していたウォール街絶頂の時だった。この結果は、失った家から借金まみれの上に放り出された無数の人々の群であった。しかもこの動きはアメリカのみに留まらず、イタリア、スペイン、ポルトガル等々にも、そこの失業者の大群発生にも波及していくのである。こんな所業を放置しておいて、どうして世界の景気が良くなるなんぞと言えるのだろうか。
かくして、「ゴールドマン幹部社員50人の最低17億円ボーナス」が生まれ、社長でも金融の馬車馬を努めたお人の給料だけが上がっていく。モトローラ社長の100億円に驚いてはいけない。史上最高給記録はディズニー社社長アイズナーで、6億ドル近い額だ。何と600億円。これ、年俸ですよ。500万円の社員が12,000人雇える金額です。これでは職も増えず、世界中が失業者ばかりになる理屈。人が少ない企業ほど株価が上がり、それへの配当が増える。
(2017年10月31日の当ブログに初出。以下、4~5回は続けます。リマーショックの構造と、世界のあるいはG7の改革議論、その現状まで)