昨日の続きで、医療の3回目だ。医療の最後2回はこれだけの貧困に陥った米国医療の仕組み、構造をまとめてみたい。対米TPPを絶対に許してはならないというそんな想いを込めて。
『 凄まじい米医療制度 その3 医療貧困の構造①
初めに、以下の話の進み方を述べておく。最初に、患者になる国民、病院(関係者)、そして政府・州の医療財政などが疲弊しきっていることをもう一度まとめる。この病院関係者とは、医師、看護師、ほとんどの経営者も含めた人々のことだ。この貧困の裏側、医療関係で世界1の数字などもいくつか並べてみよう。最後に、この世界一の数字の恩恵にあずかっている者が誰かを論述する。この本「貧困大国アメリカ」の第3章「一度の病気で貧困層に転落する人々」も、丁度この順番で書いてあるようだから。
1 83~96年で9分の1の病院が潰れた
民間医療保険料の高さ、高すぎる医療費、無保険者の急増、低所得者医療扶助数の急増などは前回を参照されたい。ここでは病院のことを見てみる。これが、儲かっているどころか、潰れて減っているのである。
この傾向が始まったのは1980年代からだが、83年から96年までの13年間で全米約9分の1の病院が廃業したとあった。なぜなのか。全米294市中166市それぞれに、50%以上のシェアを誇る(民間)医療保険会社が存在すると前回述べたが、これがその直接の元凶である。
保険料は高く、保険外の自由診療などをも創り出しつつ医療費はどんどん上げるのに、病院の経費は徹底的に削っていく。アメリカの医療費個人負担額は、他の皆保険制度がある先進国に比べて約2.5倍とあった。なのに(前回に述べたことだが)病気ごとに指定する入院日数を減らし、リスクの多い患者は忌避して、結果として無保険者の激増を招いてきたのだ。保険会社の指示に従わない、請求単価・金額の多い病院は保険病院リストから外せるのである。するとまず、潰れる。こうして、少ない医師が保険会社の(毎月の)評価対策・「改善策」関連書類に忙殺され、看護師も保険会社の基準第一に働くべくびくびくしているという。医療過誤による事故、感染症とか事故死とかが多いのが大きな特徴である。
その結果がこうである。世界保健機関(WHO)の2000年度世界医療ランキングのサービスレベルが37位とあった。日本は10位である。逆の世界1は先ず、国民の医薬品購入金額1人当たり年間728ドル。無保険者など病院に行けないから、薬で済ますという家が多いのだろう。また、心臓病とか糖尿病とかの慢性病の薬が保険対象になっていないとは、前に書いたことだ。
同じく医療サービスに支払われる国全体の金額も世界1で1兆7000億ドル。これは、アメリカ国内総生産の15%以上を占めるという。他にも、こんな興味深い数字もあった。「製薬会社が使う広告費、販促費および医師への贈賄費用の合計は年間8億ドルで、中でも贈賄費用は医師1人につき1万ドルです」(94頁)
2 他方に、350院の超巨大会社
さて、80年代から13年間で9分の1の病院が閉鎖するという状況でも、世界1巨大な病院(系列)も生まれている。この状況に最も上手く適応できたということだから、今のアメリカ医療の象徴的存在・病院ということであって、この病院を研究・描写する価値は極めて高いと思われる。
90年代半ばに世界一巨大に育ち上がったのが、HCA社。全米に350病院を擁し、285,000人が働き、年間売り上げ200億ドルという巨大系列だ。在宅ケア・サービスも、医療保険業務さえも手がけている。この社の病院は利益率ノルマが15%。対する平均利益率実績が実に18%を遙かに超えるという。この利益率アップに駆り立てられているのが、各病院経営者である。その25%がボーナスを受けているのに、30%はボーナス無しなのだそうだ。このボーナスの額が、給与の80%ということだ。結果、成績の悪い経営者はどんどん辞めていくということで、傘下350病院の経営者の内100病院の経営者が1年で入れ替わっていると報告されていた。
こうして儲けたお金が、潰れかけた病院を買収するのに使われて、HCA社がここまでになったとも書いてあった。
3 日本との関係などを愚考する
これは私的な感想だが、TPPの推移次第では、こんな病院が日本に来る。すると、日本の皆保険制度もすぐに潰されるだろう。「自由診療」という名の高級医療を一度でも受けた金持ちたちはそちらの民間保険に奪われていき、残った貧乏人だけでは今の皆保険制度を支えられなくなろう。一定金を持った患者を奪われる病院も無数だろうし、アメリカよりも遙かに速く10年足らずで中小病院壊滅とか。既に、全米20年で鍛えてきた他院潰し・買収(の経営術)、そのノウハウも有り余っているのだし。最新薬特許など知的財産権も、こういう潰し・買収の凄い武器になるはずだ。
コンビニチェーン寡占の小売業界、穀物の世界的独占体(13年11月30日拙稿参照)、全米4大鶏肉寡占事業体(同12月1日拙稿参照)・・・一定世界的独占になったら、あとは何でも自由自在。価格も品質もなにもかも。今のアメリカのやり方は、皆、同じやり口と言える。世界の医療、穀物、食肉をこうしたら、この世は多分地獄になる。アメリカの乳幼児死亡率悪化がどんどん中進国に近づいているように。
こういう大独占体にとっては、貧乏人は生きるに値する人間ではないのだろう。ロムニーや共和党ボストンティーパーティー一派が、「税を納めない連中は主権者ではない」紛いの主張を広言しだしたのは、こういうこと全てが背景になっているのだと愚考する。ここに描いたような世の中を支持・肯定する思想上の武器を新たに創造し、広めているということなのである。』
『 凄まじい米医療制度 その3 医療貧困の構造①
初めに、以下の話の進み方を述べておく。最初に、患者になる国民、病院(関係者)、そして政府・州の医療財政などが疲弊しきっていることをもう一度まとめる。この病院関係者とは、医師、看護師、ほとんどの経営者も含めた人々のことだ。この貧困の裏側、医療関係で世界1の数字などもいくつか並べてみよう。最後に、この世界一の数字の恩恵にあずかっている者が誰かを論述する。この本「貧困大国アメリカ」の第3章「一度の病気で貧困層に転落する人々」も、丁度この順番で書いてあるようだから。
1 83~96年で9分の1の病院が潰れた
民間医療保険料の高さ、高すぎる医療費、無保険者の急増、低所得者医療扶助数の急増などは前回を参照されたい。ここでは病院のことを見てみる。これが、儲かっているどころか、潰れて減っているのである。
この傾向が始まったのは1980年代からだが、83年から96年までの13年間で全米約9分の1の病院が廃業したとあった。なぜなのか。全米294市中166市それぞれに、50%以上のシェアを誇る(民間)医療保険会社が存在すると前回述べたが、これがその直接の元凶である。
保険料は高く、保険外の自由診療などをも創り出しつつ医療費はどんどん上げるのに、病院の経費は徹底的に削っていく。アメリカの医療費個人負担額は、他の皆保険制度がある先進国に比べて約2.5倍とあった。なのに(前回に述べたことだが)病気ごとに指定する入院日数を減らし、リスクの多い患者は忌避して、結果として無保険者の激増を招いてきたのだ。保険会社の指示に従わない、請求単価・金額の多い病院は保険病院リストから外せるのである。するとまず、潰れる。こうして、少ない医師が保険会社の(毎月の)評価対策・「改善策」関連書類に忙殺され、看護師も保険会社の基準第一に働くべくびくびくしているという。医療過誤による事故、感染症とか事故死とかが多いのが大きな特徴である。
その結果がこうである。世界保健機関(WHO)の2000年度世界医療ランキングのサービスレベルが37位とあった。日本は10位である。逆の世界1は先ず、国民の医薬品購入金額1人当たり年間728ドル。無保険者など病院に行けないから、薬で済ますという家が多いのだろう。また、心臓病とか糖尿病とかの慢性病の薬が保険対象になっていないとは、前に書いたことだ。
同じく医療サービスに支払われる国全体の金額も世界1で1兆7000億ドル。これは、アメリカ国内総生産の15%以上を占めるという。他にも、こんな興味深い数字もあった。「製薬会社が使う広告費、販促費および医師への贈賄費用の合計は年間8億ドルで、中でも贈賄費用は医師1人につき1万ドルです」(94頁)
2 他方に、350院の超巨大会社
さて、80年代から13年間で9分の1の病院が閉鎖するという状況でも、世界1巨大な病院(系列)も生まれている。この状況に最も上手く適応できたということだから、今のアメリカ医療の象徴的存在・病院ということであって、この病院を研究・描写する価値は極めて高いと思われる。
90年代半ばに世界一巨大に育ち上がったのが、HCA社。全米に350病院を擁し、285,000人が働き、年間売り上げ200億ドルという巨大系列だ。在宅ケア・サービスも、医療保険業務さえも手がけている。この社の病院は利益率ノルマが15%。対する平均利益率実績が実に18%を遙かに超えるという。この利益率アップに駆り立てられているのが、各病院経営者である。その25%がボーナスを受けているのに、30%はボーナス無しなのだそうだ。このボーナスの額が、給与の80%ということだ。結果、成績の悪い経営者はどんどん辞めていくということで、傘下350病院の経営者の内100病院の経営者が1年で入れ替わっていると報告されていた。
こうして儲けたお金が、潰れかけた病院を買収するのに使われて、HCA社がここまでになったとも書いてあった。
3 日本との関係などを愚考する
これは私的な感想だが、TPPの推移次第では、こんな病院が日本に来る。すると、日本の皆保険制度もすぐに潰されるだろう。「自由診療」という名の高級医療を一度でも受けた金持ちたちはそちらの民間保険に奪われていき、残った貧乏人だけでは今の皆保険制度を支えられなくなろう。一定金を持った患者を奪われる病院も無数だろうし、アメリカよりも遙かに速く10年足らずで中小病院壊滅とか。既に、全米20年で鍛えてきた他院潰し・買収(の経営術)、そのノウハウも有り余っているのだし。最新薬特許など知的財産権も、こういう潰し・買収の凄い武器になるはずだ。
コンビニチェーン寡占の小売業界、穀物の世界的独占体(13年11月30日拙稿参照)、全米4大鶏肉寡占事業体(同12月1日拙稿参照)・・・一定世界的独占になったら、あとは何でも自由自在。価格も品質もなにもかも。今のアメリカのやり方は、皆、同じやり口と言える。世界の医療、穀物、食肉をこうしたら、この世は多分地獄になる。アメリカの乳幼児死亡率悪化がどんどん中進国に近づいているように。
こういう大独占体にとっては、貧乏人は生きるに値する人間ではないのだろう。ロムニーや共和党ボストンティーパーティー一派が、「税を納めない連中は主権者ではない」紛いの主張を広言しだしたのは、こういうこと全てが背景になっているのだと愚考する。ここに描いたような世の中を支持・肯定する思想上の武器を新たに創造し、広めているということなのである。』