【 スティグリッツ国連報告・要約 5 文科系 2015年01月24日 | 国際経済問題
今回は、『第1章はじめに』の『第3節 発展途上国への影響』を要約、抜粋する。これが、第1章の最後となるものである。
なお、次章以降をここで扱うか否かは、まだ決心が付きかねている。一応の水準のまとめをしなければこの大変な「国連(総会)が、世界に向けた労作」に失礼だし、そう思えば怖ろしいエネルギーが必要にもなるからだ。この前このブログを読んだ友人が「あなた、実にマメですね」と言って下さったが、それだけエネルギーがいるのである。まー途切れ途切れでも、また長くかかったにせよ、近いうちに始めるつもりだが。
さて、この節の書き出しはこうだ。
『危機は4つの理由により、発展途上国から高い「料金」を取り立てがちである』
この4つのうち、第1、2は短くて、それぞれこれだけの文章である、
『それらの国の国民は、この規模の危機を克服して行くには小さすぎる資金余力しか持っていない』。
『彼らの財政と社会保障システムが初期的段階にあることから自動安定化装置が欠け、苦しんでいる』
第3からはそれぞれ長くなるから要約するが、先ず3は、途上国は、国際金融市場で借り入れる能力に限界があり、危機への抜本的対策が打てないこと。金利を引き上げても経済が安定化せず、やがて外国資本が引き揚げられてしまうということ。
第4は、世界金融市場の統合が『常に存在する脅威』になってきたということ。ここまで4つの中で最も長く展開されている大事な箇所であるらしい。
『自分達の資本勘定を完全に国外に開いた国は、金融市場の自由化も約束していた。そして、国際資本市場からの民間ファイナンスを信頼した。この市場こそ最も厳しい影響を受けた恐れのある分野に含まれていた。多くの国が外国銀行を信頼するようになった。外国銀行の内のいくつかは監督がほとんどなされておらず、不適当なマクロ経済政策に従い、今やその資本がひどく損なわれているのに気付いているところである。(中略) 多くの途上国が自由貿易協定や二国間貿易条約や世界貿易機構(WTO)に加盟しているという事実によって困難が複合してくる。そのコミットメントは、上述した市場原理主義の政策を神格化し、金融機関・手段の規制権限や資本流入の管理権限、或いは金融市場の保護主義から自分達を守ることまで制限しているのである』
次はこのことだ。IMFや持てる国は、途上国の景気刺激策への支援の立場をとるべき。こう述べた上で、ここの結びに当たる部分をほぼ全文抜粋したい。
『この報告の主要な焦点は、短期的施策と、途上国とその開発への情熱を支援する国際金融システムの長期的変革である。既に述べた通り、途上国は、危機のコストのもっとも大きな部分を負担している。にもかかわらずその負の影響に対処するために必要な資金余力を持っていない。途上国と新興国での危機をこれ以上深いものにしないためにも早急に施策が求められている。(中略) 遅れは、結果としてのコスト、すなわち問題解決に要するコストが高くなることを意味する。そして、景気後退の長さと深さがよりおおきなものとなり、多くの罪のない犠牲者が職を失い、小企業や大企業が倒産を強いられる。ますます多くの公的資金が危機にさらされる。我々の今回の失敗の結果は、向こう数十年は残るであろう』
「はじめに」の末尾は、この「報告」の全章の短い紹介に当てられている。以下、全文こんなふうに、
『報告はその分析と勧告を以下の4章で示していく。第二章は、危機の背景となって横たわっているマクロ問題と、問題の大枠について、そしてそれを克服して行くために必要となる施策について取りあげる。第三章では、特に金融システム不安定化の原因とは何かという問題と、あらゆる経済システムへのその影響について取り上げる。同時に、個別の金融機関のレベルで、またシステミックなレベルで、金融の安定性を確保するために取り上げるべき施策について検討する。第四章では報告は現存する国際金融機関が適正かどうか、どのようにそれらは変革されるべきかを評価し、更にはシステムをより安定的なものにし、発展途上国のニーズにより役に立つために作られる新しい機関について検討する。最後に第五章は国際金融革新について取り上げる。これらの施策は21世紀のグローバル化した世界のニーズに応える国際金融アーキテクチャーといわれる分野に導入される施策である』
ここまでお読み願えた方々、どうも有り難うございました。また、お疲れ様でした。上の最後にまとめたこういうスティグリッツ報告内容に興味がおありでしたら、是非読んでみて下さい。2011年発行「スティグリッツ国連報告」で、本屋さんが探してくれます。】
報告要約を終わるにあたって
この報告にあるとおりで、リーマンショックによって中進国以下の国の金も多く奪われ、それらの国から国際金融も引き上げていったということが、特に深刻な問題になっていると説かれている。僕の知る限りこの日本、愛知県でさえ、2つの金持ち大学がそれぞれ100億というようなその将来に向けての蓄えを同じく奪い取られているのである。このことこそ、その後の世界の格差、(若者)失業者の群れ、世界的な有効需要の欠如ゆえバブル株価(GAFAバブル、日本の日銀ぐるみバブル)を作るしかない景気の後退などなど世界経済悪循環の原因なのである。
というような問題を検討してきた国連機関があるというだけでも、この世界は19世紀までと全く違っているということを、僕は示したかった。国連の今がいくら無力に見えても世界の民主主義的な将来に向けてその役割は大きいと主張したかった。
ちなみにリーマンショックによって世界をこれだけ不幸にした暴力国アメリカでさえ、戦前の日独のように国連を抜けないのは、世界にそれだけ国際民主主義という「大義名分」が生まれ、育ってきた事が示されていると強調しておきたい。