ロシアが起こした戦争犯罪・ウクライナの泥沼はどこまでも続く様相になり始めた。それを示す出来事がいろいろ現れてきたのである。一旦大幅に値を下げたロシアルーブルは持ち直して、侵攻前以上にまで上がったし、一般市民を楯に製鉄所地下に立て籠もったマリウポリ・アゾフ連隊はすでに玉砕寸前に包囲されて久しく、クリミア半島とドンパスが繋がってしまった。製鉄所地下に残った一般市民とは以前の人道回路から敢えて出て行かなかった人々なのか、それとも強制的に残された人か、などと訝りたくなる。当面のこんな政府側敗勢を認め始めた証拠が、西欧が新たな重火器支援・拡大を加速させているとのニュース。この戦争が長期化する見通しになってしまった。
さて、次なる論文をまとめてみたい。月刊誌「世界」4月臨時増刊号の「続・誰にウクライナが救えるか」である。筆者はエコノミスト・西谷公明。早稲田の大学院を出て、長銀総合研究所、ウクライナ日本大使館専門調査員、その後トヨタロシア社長などというウクライナ通、異色の人物である。この論文の書き出しと結論とを最初に紹介して、その中間を占めるものとして、筆者が脚で稼いだこれまでのアメリカ工作の数々を並べて、要約としたい。
先ず書き出しである。
『最悪の戦争である。
あらゆる戦争は常に悲惨である。だがしかし、この戦争は憎しみの果てに起きたのではない。
この戦争が最悪であるのは、ロシアとウクライナが古くから兄弟国のような関係にあったためばかりではない。真の当事者が、実はウクライナとは別のふたつの大国、ロシアとアメリカであることが、戦火の中を彷徨える人々の悲惨さを一層際立たせている』
そして、結論は、
『最悪の戦争にも終わりは来る。ウクライナが戦いつづけることができるのは、強力で、かつ効果的なアメリカとNATO諸国による援護あればこその話である。(中略)
結局、この戦争を終えられるのはウクライナではない。なぜなら、冒頭で記したように、真の当事者はロシアとアメリカなのだから。ロシアはさらに深く傷つき、長く国際社会から孤立するだろう。バイデン大統領は2022年秋にひかえた中間選挙を見据え、同盟の結束と全体主義に対する民主主義の勝利を訴えてロシアを追い詰めようとするだろう。だが、アメリカはもはやかつての超大国ではない。西側世界のより大きな課題が強大化したもう一つの全体主義大国、中国への対処と、米・中の対立・競争にある点に変わりはない。その中国は静かなままだ。』
さて、日本マスコミの論調には観られないこの文章の最要点、ウクライナ戦争一方の真の当事者はアメリカだったというその著者例証を抜き出してみよう。
一つは、2014年マイダン革命が暴力革命に転化した時のスナイパーによるデモ参加者虐殺事件のこと。以下の内乱勃発に加えて筆者は、こんな数字も上げている。『(2014年から2019年までの)累計の死者数はその時点ですでに1万人を超えていた』。
『〝ユーロマイダン革命〟。いま、キエフ市民のあいだでそう呼ばれる政変は、数日間で警察官をふくむ80余名の血の犠牲のうえに遂げられた(正確な人数は報告によって異なる)。
「スナイパーの背後にいるのはヤヌコービッチではなく新政権の誰かだ」
デモ隊と警察隊が衝突して二週間が過ぎようとする頃だった。EUのアシュトン外交・安全保障上級代表(以下、いずれも当時)とエストニアのパエト外相が電話で交わした会話の録音ファイルが動画サイトに流出した(産経、2014・3・6)。』
『「ヤツェニュクには政治と経済の経験がある。クリチコが入るとうまくいかないだろう。国際的に信頼されている人物を招いて一役買ってもらえるといいが・・・」
政変のさなか、アメリカのヌーランド国務次官補とキエフ駐箚のパイアット大使のふたりが、この政変を支持し、暫定政権の人事について電話で話し合う様子がリークされたエピソード(BBC、2014年2月7日)も、いまでは忘れられた感がある。
果たしてその後、ふたりが描いた筋書きどおり、クリチコはキエフ市長になり(プロボクシングの元世界チャンピョンで、ロシア軍と戦う現キエフ市長である)、ヤツェニュクはマイダンで開かれた勝利集会で〝革命〟政権の暫定首相に指名される。』
アフガン、イラク戦争はもちろん、シリア内乱にもアラブの春・リビアにも、アメリカの画策があったというのは世界既知の事実である。侵攻したロシアがいかに悪いにせよ、ウクライナ問題がこれだけこじれたのにもアメリカの世界地政学に基づくウクライナ内乱激化工作があったのである。つまり、これがなければこの戦争は起きなかったということだ。こういうアメリカが今ウクライナ問題で新たに「平和をもたらす国」のように立ち現れ直していることを、今後の世界平和目指すまっとうな世界世論のためにこそ大変危惧するものだ。