随筆 成長した S.Yさんの作品です
娘と孫たちが久しぶりに我が家に来た。
彼らはかつて近所に居たのだが、一昨年念願の家を建てて守山区に引っ越していた。ところが引っ越して一年も経たないというのに横浜へ転勤になってしまった。やむなく娘家族は、婿さんだけが行くという単身赴任を選択した。
それからが大変。娘は自身も転職したばかりで研修期間中である。簡単には職場を休めない。孫たちも転校して、学校や地域の環境にもまだ馴染めていない。以前は何かと面倒を見てきた私たちも、娘宅へ駆け付けるには遠すぎる。一切が娘の肩にのしかかってきた。
娘は頑張ったようだ。研修中の一カ月半、早朝から子どもの夕食を準備して出勤し、帰宅は夜八時になる。その間、上の四年生の女の子が入学したばかりの下の男の子をトワイライトに迎えに行って二人で下校する。そして子どもたちだけで夕食を食べるのが日課となった。一カ月半という期限付きで先が見えているので、とにかく「やるしかない!」と娘は腹をくくって乗り切ったそうだ。
そんな期間が無事終わり、私はねぎらう意味もあって娘と孫を心尽くしの料理で歓迎したのだ。デザートやケーキも終わり、お腹も満たされて満足感でいっぱい。みんなで久しぶりにくつろいで談笑していたとき、孫たちが何でもないことで口喧嘩を始めた。そのうちヒートアップしたのか弟が姉の頭か顔を殴った(ように見えた)。すると突然、娘がブチ切れた。「なんてことをするんだ!」叫ぶと、弟の頬をビンタした。当然六歳の男の子は「わーん」と大泣き。「何回同じこと言わせるの!」娘は尚も乱暴な口調で男の子を叱っている。はた目には怒り狂っているようにもみえる。さっきまでの和やかな場が修羅場と化した。
ニコニコと晩酌を楽しんでいた夫も、娘の突然の怒鳴り声に驚いて「まるで瞬間湯沸かし器だなあ」と呟いた。娘は気まずさもあってかその場を離れた。「ママ、怖いね」私が姉のほうに言うと「うん! いつもよく切れるよ」と答える。ずうっと、張り詰めていたからだろうか………。少し気まずさを残して娘と孫たちは帰っていった。
そして夜遅く娘からメールがきた。ご馳走になったお礼と、怒りにまかせて雰囲気を壊したことを謝ってきた。そうだよ。いくら姉弟喧嘩が度を過ぎたとはいえ、あの怒り方はよくない。子どもたちも、パパもいない、ママも夜までいない寂しさを我慢して頑張ってきて甘えが出たのだろうから、もう少し優しく接してやってよ。そんな思いがあふれた。
「いいよいいよ、そんなこと気にしなくて。子育て中はどこも一緒だよ。みんな子どもを怒鳴り散らして、そうやって子どもは大きくなっていくからね。あなたは今、父親役と母親の両方やって、仕事も家事も大変だよね。あんまり無理しないで、自分を大事にね」と、思いとは違うことを返信した。説教じみたことは言わずに娘に寄り添った言葉を選んだ。
私って成長したのかも。それにしても瞬間湯沸かし器は父親譲りだと思っている。