このごろの僕は、日に何度も庭全体が見える廊下、大きいガラス窓の所に立つ。一月中旬過ぎから咲き始めた二本の梅を観るためだ。この花が今年は、急な寒さで咲き渋って、香りも含めて長く楽しめるのである。
向かって左真横の白いのは、2メート四方ほど、花の厚さ一メートル弱と、横に広がっている。正面の紅梅は五メートル近く、中の立ち枝を剪定した茶筅型。この両方が、2月16日の今日、正に満開。先っぽまでやっと花開き始めたピンクの枝の間を、メジロとミツバチがいつも飛び回っている。さっきは、ジョウビタキの雄が見えたが、今は姿を消している。
古代日本は、「花」と言えば梅のことと聞いた。楚々とした白い梅が、日本人好みなのだろう。古今集のころから桜が「花」になって今に至っているようだが、早咲きの河津桜というのもあって、我が家の紅梅はあの色に近い。それが、厚ぼったく花塊になるのではなく、すくっと高く伸びた枝に一重の五弁がひとつづつ数珠つなぎになって枝先まで並び、中国人好みという華やかさである。
この地は、名古屋市中区の区境界線近く、大都会のど真ん中。昨日久しぶりに入ってもらった初顔の若い庭師さんと花を見ていた僕との間で、こんな会話があったのを思い出す。
「正に満開、これだけで酒が飲めますねー。ちゃんと手入れされた良い庭ですよ。最近のイギリス自然風というのかな。この前写真で見たウエールズのも、こんなふうだった」
「亡くなった母の好みで花木の多い庭ですし、この梅が咲いてからは特に日に何度も花見してます。僕は洋酒ですが、あそこに摘み残っている柚で作った柚大根をつまみながら。もっとも、奥さんが梅酒を作ってくれるのですが、一昨年辺りからブランディー梅酒に替えまして、これがまた美味いんです。」
「柚大根って、僕も大好きです。あれは、美味いもんですよねー。すると、この庭からの酒とつまみで、この梅の花見・・・いー老後ですね。」
「僕もそう思います。白い方は親が遺してくれたもの、両親にどれだけ感謝しても、し足りない。もっとも、この辺りの2代目,3代目は、相続後に皆売って出て行ってしまうから、もう庭も珍しいんですよ」
「そうですよねー、庭だけでざっと40坪、相続税だけでも、大変なもんでしょう。」
「実は、この29日に、敷地内東隣のあの貸家に20年住まわれた店子さんが引っ越しされるその後に、子どもがいない息子夫婦が越してくるんです。僕らがいる家の方は二世帯住めるようになっていて、やがて娘家族が来ることになってます。二人とも関東の学校卒でしたが、名古屋に就職してくれた。後の相続税対策ですが、一定の金額を用意しなけりゃ、ここもなくなるんで、次男の僕は墓なんかいらんけど、この梅、庭は残ってほしい。」
「今の話、これもまた今時いー老後ですよ」
「僕らも、初め連れ合いの母と、次にここで僕らの両親と同居しましたから、それを見て育ったから、3世代同居って、結構楽しい、そう思ってるんじゃないですか。」
ここで、玄関のベルが鳴ったので、出てみると、中一の女孫・ハーちゃんが「あー寒い」と言いながら、赤くなった手を見せてくれる。この曇り空の夕方近くに、自宅から一キロ以上の道を歩いて来たのだ。
「あーっ、あんなモクセイならすぐに登れるね?」
向かって左真横の白いのは、2メート四方ほど、花の厚さ一メートル弱と、横に広がっている。正面の紅梅は五メートル近く、中の立ち枝を剪定した茶筅型。この両方が、2月16日の今日、正に満開。先っぽまでやっと花開き始めたピンクの枝の間を、メジロとミツバチがいつも飛び回っている。さっきは、ジョウビタキの雄が見えたが、今は姿を消している。
古代日本は、「花」と言えば梅のことと聞いた。楚々とした白い梅が、日本人好みなのだろう。古今集のころから桜が「花」になって今に至っているようだが、早咲きの河津桜というのもあって、我が家の紅梅はあの色に近い。それが、厚ぼったく花塊になるのではなく、すくっと高く伸びた枝に一重の五弁がひとつづつ数珠つなぎになって枝先まで並び、中国人好みという華やかさである。
この地は、名古屋市中区の区境界線近く、大都会のど真ん中。昨日久しぶりに入ってもらった初顔の若い庭師さんと花を見ていた僕との間で、こんな会話があったのを思い出す。
「正に満開、これだけで酒が飲めますねー。ちゃんと手入れされた良い庭ですよ。最近のイギリス自然風というのかな。この前写真で見たウエールズのも、こんなふうだった」
「亡くなった母の好みで花木の多い庭ですし、この梅が咲いてからは特に日に何度も花見してます。僕は洋酒ですが、あそこに摘み残っている柚で作った柚大根をつまみながら。もっとも、奥さんが梅酒を作ってくれるのですが、一昨年辺りからブランディー梅酒に替えまして、これがまた美味いんです。」
「柚大根って、僕も大好きです。あれは、美味いもんですよねー。すると、この庭からの酒とつまみで、この梅の花見・・・いー老後ですね。」
「僕もそう思います。白い方は親が遺してくれたもの、両親にどれだけ感謝しても、し足りない。もっとも、この辺りの2代目,3代目は、相続後に皆売って出て行ってしまうから、もう庭も珍しいんですよ」
「そうですよねー、庭だけでざっと40坪、相続税だけでも、大変なもんでしょう。」
「実は、この29日に、敷地内東隣のあの貸家に20年住まわれた店子さんが引っ越しされるその後に、子どもがいない息子夫婦が越してくるんです。僕らがいる家の方は二世帯住めるようになっていて、やがて娘家族が来ることになってます。二人とも関東の学校卒でしたが、名古屋に就職してくれた。後の相続税対策ですが、一定の金額を用意しなけりゃ、ここもなくなるんで、次男の僕は墓なんかいらんけど、この梅、庭は残ってほしい。」
「今の話、これもまた今時いー老後ですよ」
「僕らも、初め連れ合いの母と、次にここで僕らの両親と同居しましたから、それを見て育ったから、3世代同居って、結構楽しい、そう思ってるんじゃないですか。」
ここで、玄関のベルが鳴ったので、出てみると、中一の女孫・ハーちゃんが「あー寒い」と言いながら、赤くなった手を見せてくれる。この曇り空の夕方近くに、自宅から一キロ以上の道を歩いて来たのだ。
「あーっ、あんなモクセイならすぐに登れるね?」
庭師さんの居る廊下に出て、枝を払いすぎたように見えるその木の元へ歩いて行った。そして、黒い置き石の辺りに散らばった紅梅の花びらの上を、そうっとそうっと、一歩、一歩。