九条バトル !! (憲法問題のみならず、人間的なテーマならなんでも大歓迎!!)

憲法論議はいよいよ本番に。自由な掲示板です。憲法問題以外でも、人間的な話題なら何でも大歓迎。是非ひと言 !!!

世界経済史の今を観る(7) 諸問題と解決の方向①  文科系

2013年03月31日 08時42分03秒 | 国際政治・経済・社会問題(国連を含む)
 さて、第3回から前回まで、70年代ポスト戦後世界以降の新自由主義的経済グローバル化の流れを観てきた。グローバリズムとはその思想のこと。実際に問題になるのは実体経済グローバル化の問題点であって、思想と実態は同じ物ではない。ちょうど市場主義と市場そのもののように。
 ここ以降は表題の内容で、以下三つのことを紹介してみたい。つまり、こう進むつもりでいるということだ。①まず、ここまで観た世界経済経過の構造的まとめ。これは、過去の理論が格闘した問題提起をも借りつつ、今をまとめてみるということになろう。②次いで、100年に一度の大事件リーマンショックを通して、今この構造に世界でどんな論争が起こっているかということを観る。真っ向から対立するような論争だらけなのである。なお、こういう論争で次第に増えてきた意見、国連などで他方が譲歩してきた解決方向なども観ておきたい。そして最後に③、②も含めて具体的課題を全体的にできるだけ羅列しておき、終わりとしていきたい。すべていろんな該当本のつぎはぎのようなものだ。が、特に次の本は今ここでおすすめしたいと思う。
 岩波ブックレット伊藤正直・東京大学大学院経済学研究科教授著「金融危機は再びやってくる 世界経済のメカニズム」。短いこの本が、題名のことについて重要な具体的事項をほとんど網羅していると、僕には思われた。僕が読んだ他の多くの本に書いてあることがほとんど入っているからだ。ただそれだけに、「広く浅く」ではなく「広く難しく」と言える。つまり、他の新書版2~3冊では到底すまないような広い事項に少ない分量で触れているから、説明が少なくなるということ。相当の予備知識がないと理解できない部分が多いということになる。ただ、金融危機の反省過程で国連レベルで起こっている論争とかその推移とかまでていねいに紹介されているのはとても公正なやり方でもあるし、自分でも考えを深め、まとめることも出来て、非常に有り難かった。この部分を紹介したくて上記②を書こうと思ったようなものである。

 さて、①、現在の世界経済構造である。これを、過去のケインズやマルクスの経済構造把握理論との対比でどういうことになるのかについては、ここまで折に触れて観てきた。要は、新自由主義が、『需要側でなく供給側つまり資本の自由に任せるのが、官僚任せにも等しい、怪しげな「マル公」国家まかせに比べればまだ上手くいくのだ』というやり方である。だが、需要を重視したケインズなどに言わせれば当然こういうことになるだろう。現に有効需要がおおいに不足しているではないか。それで現物経済はどんどん小さくなり、そこでの利子率はどんどん下がってきて、失業者をいっぱい出しながらだぶついた資本はマネーゲームに明け暮れることになってしまったではないか。資本が膨大に余っているほどにこんな豊かな世界なのに非正規労働者が溢れ、死に物狂いで働かなければ正規職もつとまらない世界というのこそおかしなものだろう。このようにケインズを読むのが、今話題の本、NHK出版新書、高橋伸彰立命館大学教授著「ケインズはこう言った」などである。
 基軸通貨ドルが変動相場制以降どんどん安くなって、世界がふらついているからマネーゲームが起こるのだが、いずれにしても、資本がモノ・実物経済から全く離れてしまったのは大問題である。この点は、金子勝とか浜矩子とかなんらか伝統を踏まえた経済学者のほとんどが指摘し、批判するところと思う。食料、水、エネルギー、地球環境など、人間はモノの中で生きるしかないのだから、確かにそうには違いないのだ。問題は、それらのモノがきちんと生産、確保されて、すべての人々に優しく行き渡る仕組みとして何が相応しいかということだろう。なのに食料は買い占められて世界のあちこちに反乱が起こるほどなのだし、中国の退耕還林政策は水問題で悪戦苦闘している有様だ。なお、金子勝のグリーンニューディール政策提起などなどのように、世界の実物経済の新分野で有効需要を切り開き、失業者などに普通の職を作っていくというように新たな道を開拓していくことに国家の命運をかけるべきだと語る論者も多い。少し前のオバマもそうだったし、イギリスの政治経済論者にもそういう人は多い。

 また、先進国の失業、非正規労働者問題をこのように「弁護」する論議はある。
「ブリックス諸国など中進国のキャッチアップで、市場を奪われたのだ。そちらの生活が向上しているという側面を観ないといけない。ただこれも、キャッチアップが一応成し遂げられるまでの十年程度の延命策だろう。その後の世界は、有効需要不足問題から難問噴出となるだろう」(岩波ブックレット「グローバル資本主義と日本の選択」で武者陵司・武者リサーチ代表がこういう内容を語っている)
これに対して、もちろん「資本主義の命運がつきたのだ」と、新しく言い出した人も多い。上にも観た、NHK出版新書、高橋伸彰立命館大学教授著「ケインズはこう言った」のように。
コメント (3)
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

世界経済史の今を観る(6)通貨危機の仕組み・タイの例  文科系

2013年03月29日 15時22分13秒 | 国際政治・経済・社会問題(国連を含む)
 24日の拙稿『随筆「退廃極まる政治」』を連れ合いに読んでみたら、この部分をもっと分かりやすく知りたいという。
『「投機家はタイに自己実現的通貨投機をしかけた。一ドル二五バーツに事実上固定していたタイ・バーツが貿易収支の悪化から下落すると予想し、三ヶ月後に二五バーツでバーツを売りドルを時価で買う先物予約をすると同時に、直物でバーツを売り浴びせた。タイ中央銀行は外貨準備二五〇億ドルのほとんどすべてを動員して通貨防衛を試みたが力尽きた。」(東洋経済「現代世界経済をとらえる VER5」二〇一〇年。一二一頁)』

 今日はタイのこの問題に最も詳しい専門家による解説をご紹介したい。なんせ通貨危機というのは、「1970年から2007年まで世界208カ国で起こり」、各国恐怖の対象とされてきたもの(岩波ブックレット12年刊 伊藤正直「金融危機は再びやってくる」P3)。世界金融資本の最大暗躍手段・場所の一つであって、世界各国から「通貨戦争」とも呼ばれている。なお、このタイ通貨危機は、97年の東アジア通貨危機の発端・震源地になった事件として非常に重要なものである。
 毛利良一著「グローバリゼーションとIMF・世界銀行」(大月書店2002年刊)243~244頁から抜粋する。

『通貨危機の震源地となったタイについて、背景と投機の仕組みを少しみておこう。タイでは、すでに述べたように経常取引と資本取引の自由化、金融市場の開放が進んでいた。主要産業の参入障壁の撤廃は未曾有の設備投資競争をもたらし、石油化学、鉄鋼、自動車などで日米欧間の企業間競争がタイに持ち込まれた。バンコク・オフショアセンターは、46銀行に営業を認可し、国内金融セクターが外貨建て短期資金を取り入れる重要経路となり、邦銀を中心に銀行間の貸し込み競争を激化させて不動産・株式市場への資金流入を促進し、バブルを醸成した。
 このようにして流入した巨額の国際短期資本は、経常収支赤字の増大や大型倒産など何かきっかけがあれば、高リターンを求めて現地通貨を売って流出する。投機筋は、まずタイ・バーツに仕掛け、つぎつぎとアセアン諸国の通貨管理を破綻させ、競争的切り下げに追い込み、巨大な利益を上げたのだが、その手口はこうだ。
 (中略)1ドル25バーツから30バーツへの下落というバーツ安のシナリオを予想し、3ヶ月や半年後の決済時点に1ドル25バーツ近傍でバーツを売り、ドルを買う先物予約をする。バーツ売りを開始すると市場は投機家の思惑に左右され、その思惑が新たな市場トレンドを形成していく。決算時点で30バーツに下落したバーツを現物市場で調達し、安いバーツとドルを交換すれば、莫大な為替収益が得られる。96年末から始まったバーツ売りに防戦するため、タイ中央銀行は1997年2月には外貨準備250億ドルしかないのに230億ドルのドル売りバーツ買いの先物為替契約をしていたという。短期資本が流出し、タイ中央銀行は5月14日の1日だけで100億ドルのドル売り介入で防戦したが、外貨準備が払底すると固定相場は維持できなくなり、投機筋が想定したとおりの、自己実現的な為替下落となる。通貨、債券、株式価値の下落にさいして投機で儲けるグループの対極には、損失を被った多数の投資家や通貨当局が存在する。
 投機を仕掛けたのは、ヘッジファンドのほか、日本の銀行を含む世界の主要な金融機関と、大手のミューチュアル・ファンドをはじめとする機関投資家であった。また、1999年2月にスイスのジュネーブで開かれたヘッジファンドの世界大会に出席した投資家は、「世界中を見渡せば、過大評価されている市場がどこかにあります。そこが私たちのおもちゃになるのです」と、インタビューで語っている。』

 以上につき僕の感想のようなことを一言。一昨年11月15日の拙稿に書いたことだが、日本の銀行協会の会長さんがこんなことを語っていた。「不景気で、どこに投資しても儲からないし、良い貸出先もない。だから必然、国債売買に走ることになる。今はこれで繋いでいくしかない状況である」。ギリシャやキプロスの危機を作っているのは、普通の銀行なのである。こんな状況で円安・金融緩和に走っても実体経済や求人関連にはほとんど何の影響もなく、株バブルや上記タイのような(通貨、株、国債などの)バブルつぶしに使われるだけという気がする。要は、それ以外の投資先そのものがないのだ。そこを何とかしなければ何も進まないと思うのだが。つまり、供給側をいくら刺激してもだめ、ケインズやマルクスが指摘したように、需要創造が問題だと言うしかないではないか。リーマンショックが起こった時に、心ある経済学者のほとんどから「ケインズ、マルクスの時代か」と言われたのは、そういう意味だったと思う。
コメント (6)
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

 随筆 「加齢の寂しさ、また一つ」   文科系

2013年03月28日 13時44分08秒 | 文芸作品
「ギター遊びの会」と名付けた宴会を、春夏秋冬と年に4回ずつ我が家を中心にやってきた。その18回目が、この17日に開かれた。男性4人女性2人が参加されたが、男女各1人の初参加もあって、嬉しかったこと。この会を僕が自由に持てるようにと、メニュを考え、買い物をして、料理・盛りつけまでをずっと一人でやってきたのだが、今回初めて最後の盛りつけ前後に連れ合いにもお出まし願ってしまった。新人二人のご参加がそれほどに僕を張り切らせて、かえってドジにさせ、時間切れに追い込まれたのである。ただでさえ気が利かない僕にこんなドジはどんどん増えている。会自身は、合奏、重奏なども入ったり、度忘れや失敗も笑い飛ばせたりがいつものこと。それも楽しみあえるような年のかたが中心である。加えて今回は、新人さんお二人がそれぞれ個性がしっかりした選曲、演奏だった。その一方、女性の方は、N大学経済学部のまだ3年生。若い方のご参加がとりわけ嬉しかった。
 この余韻にまだ浸っていたような昨日の昼下がり、寝耳に水のメールが届いた。
『ギター遊びの皆さまには、二年間でしたが、とても楽しい時間を過ごさせて頂き有り難うございました。今日、○○先生に、今月いっぱいでレッスンを終わりたい旨、お詫び方々話しをいたしました。止める決断は、集中力を維持出来なくなり、イージイミスが多く、年齢を考えると潮時と考えたからです。誠に皆さんの努力に、水を差すようなことになり、お詫び申し上げます。これから、少しギターと離れ、ゴルフなど楽しもうと思います。(以下略)』
 このAさんは僕よりも数歳上だが、大学のギターマンドリンクラブの出で、退職のかなり前から今の先生に通っておられる。とくにテクニックがアマチュア最高レベルのものをお持ちのうえに、完全暗譜でいつもかちっとした演奏をされる方だ。楽譜10頁などという長い曲でもそうなのだから驚く。17日当日も、バッハのリュート組曲をいつものように暗譜で弾かれた。定年後に習い始めた僕などには、挑戦する気も起こらないような難曲である。それが上手くいかなかったと落胆されたようだ。その落胆には確かになにか思い当たるところがあるが、それにしても。

『集中力を維持出来なくなり、イージイミスが多く、年齢を考えると潮時』って、僕なんかそんな時期はかなり前に通り過ぎてきたよ! それでも弾いてきたんだよ! 音楽演奏ってまず、自分自身が楽しむものだと思うけど! どんなに下手になっても音楽は楽しめるでしょう、たった一つの和音をボローンと弾き分け、聞き分けるだけでも。ましてやあなたなら。僕のように悟れないのは、高い望みを持ちすぎるからじゃないの。だけどそれって「水を流して赤子まで」って事じゃない?・・・・ などなどと、いろんな懇願、反論の言葉を頭によぎらせていた。なんとも虚しい気分を一生懸命かき消そうとしている感じなのだろう。
 ところで、このギター遊びを始めてからすでに、こういう人が三人目なのだ! 長年貯め込んだギターCDすべてを分配してほしいと、「この気持ち分かるでしょう?」との伝言まで付けて、この会に差し出してきた人もいる。人は何故そんなにすっぱりと止めてしまうのだろう? いや、僕が変わっているのかな。「発表会にすら一度も出ないのに、それだけ一生懸命やれるというのが分からない」と言われ続けてきたのだから。普通はやっぱり正式に人前で弾けなくなったらスッパリってなるんだろうか。だけどそれって、可愛さ余って憎さ百倍ということでしょう?おかしいよ!

 人生で、親しかった人が次第に亡くなっていく時、そう感ずる時ほど寂しいことはない。これは、周囲から度々よく聞かされてきたこと。僕にとっては、ギターの同行者たちが「赤子まで流し」たり、「憎さ百倍」のようになったりするのは、それと同じ意味を持つようだ。とにかく寂しい。


 注 音楽とかギターとかに関心のある方へ。ここに、この関連の小説、随筆を多く出していますが、次のものを読んでいただければ嬉しいです。小説「母の『音楽』」。ここの11年3月25~27日と3回連載になっています。出し方は二つあります。右下方の「年月選択欄」で11年3月をクリックしていただけば、今月分の欄外右カレンダーがその月の分に変わります。そこから、日を指定、クリックしていただくと、その日のエントリーに画面全体が変わります。そこからお目当てに行くいうやり方。また、カテゴリー欄で「小説、随筆、詩歌など」をクリックしていただくと、そのカテゴリーの投稿題名が新しい順に出て来ますから、そこから選んでいただくことも出来ます。よろしくお願いいたします。 
コメント (1)
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

随筆 「退廃極まる政治」   文科系

2013年03月24日 22時36分09秒 | 文芸作品
 退廃極まる政治

 去年の米大統領選挙で、この演説ほど話題になったものはあるまい。こう解説されて大評判になったものだ、「オバマは税を払わない奴のための政治。私は納税者のために働く」。
『九月二六日。ロムニー陣営の幹部らは米キニピアック大などが発表した世論調査に青ざめた。中西部オハイオ州で十ポイント、南部フロリダ州で九ポイントという大差でオバマ氏が支持率の優位をみせたからだ。数ポイント差の接戦とされていた両州でロムニー氏の劣勢が濃厚になった。(中略)
 支持率低下の最大の要因は相次いだ失言だ。
「オバマ氏に投票する四七%の国民は政府に依存し、自分は被害者で政府が面倒を見る必要があると考えている。所得税も払っていない」――。庶民感覚のない大富豪ぶりを指摘されてきたロムニー氏だが、その印象は決定的になった。弱者切り捨てと受け取られかねないだけに、共和党内部からも批判が集中した。(以下略)』(日経新聞)

 さて、選挙演説でこう話す感覚!?それが大統領有力候補の口から出るアメリカって、一体どういう国なのか。この演説のさわり部分は、日本なら明治時代にあった「制限選挙制度」の考え方と親類なのだから。「選挙権を持つのは、○○円以上の納税者男子とする」というあれである。こういう人を大統領候補に選ぶ政党が確か下院では多数党だった。訳が分からないが、こういう傾向がこの三十年ほどかの国に打ち続いた重大な政治変化に起因するのは明らかだろう。

 八一年に始まったレーガン大統領の政治は、なんと「画期的」なものであったか。大減税を行った。それも大金持ちには、特に。また、こう称して、法人税減らし、投資資金控除などにも邁進していった。「一般消費者の側ではなく供給側をこそ、これからは刺激していく。そういう景気対策をとる」。すると、凄まじい格差が生じた。だぶついたこれらの所得、資金でもって今度は、こんな画策が始まる。八〇年代急成長をとげた中南米、アジアなどで汗水垂らして蓄えた金が、九十年代には一夜にしてアメリカに奪われていくことになる。通貨危機という形で世紀の移り目に世界中で起こったマネーゲームがそれだ。全国の大学経済学部のために作られた教科書から、そのアジア通貨危機の発端、九七年のタイ国の一例を抜き出してみよう。
『投機家はタイに自己実現的通貨投機をしかけた。一ドル二五バーツに事実上固定していたタイ・バーツが貿易収支の悪化から下落すると予想し、三ヶ月後に二五バーツでバーツを売りドルを時価で買う先物予約をすると同時に、直物でバーツを売り浴びせた。タイ中央銀行は外貨準備二五〇億ドルのほとんどすべてを動員して通貨防衛を試みたが力尽きた。』(東洋経済「現代世界経済をとらえる VER5」二〇一〇年。一二一頁)
 これは、その五年前にヘッジファンドの雄ジョージ・ソロスがイングランド銀行を、空売りでもって完敗させたのとそっくり同じやり方である。ソロスは、東西ドイツ統一でイギリスからドイツへとマルクが還流していくと見越して、ポンドの空売りとマルク買い攻撃をしかけたのである。なお、空売りとはこういうものだ。間もなく安くなると見込んだ通貨、株などを大量に借り受けそれを売り、最も安くなった時を見計らった安値でこれを買い戻して貸し主に現物を返すことによって、その差額を取得するという手法だ。元金はその借り受け株や通貨などの総額の4%ほどを見せておくだけでよいから、25倍ほどの大ばくちが打てるというやり方でもある。

 このようにしてアメリカには、日本より遙かに激しかった超格差がもっと膨らんでいった。〇五年には、一%の国民が国民所得の二二%を占めるというように。この非人間的社会現象を前にしたら、こんな説でも流布させるしか自己防御術はないのだろう。「大金持ちの金は、サービス業などにも大いに流れていくのだ」と、これをトリクルダウン説という。トゥリクルとは、ぽたぽたと滴り落ちるという意味だ。「下」の人をバカにしていてふざけたような表現と僕は感じるが、確かに幾分かそうなるには違いない。が、何十億円ものボーナスが付く人々も多いこの超格差を打ち消す勢いでこんな喧伝がなされてきたというのが、いかにも今のこの国らしい。
 これらの出来事すべての間にも、アメリカの軍事費はいっこうに減らなかったのである。それまでの軍隊強化の口実、「冷戦」が終わったというのに。こういう「口実創造」、意識して国家の敵を作り出すやり口も含めて、これもお金持ち本位政治の国ということなのだろう。こうして八十年代以降のアメリカは「好景気に沸き続けた」のだそうだ。ただこの好景気も基本的には金融が儲けただけであって、ITバブルを除いてはアメリカの製造業はどんどん衰えていくことになる。貿易収支の大赤字がその証拠と言われ、この赤字を支えてきたのは日本や中国などだ。米国への輸出などで儲けた金をアメリカに還流させ、この金でアメリカがこれらの国の商品をさらに買い増し、アメリカの家計赤字などを増やしてきただけだったと、これも今や通説である。こんなやりかたも、ドルが基軸通貨だったから可能だったこと。次第にこんな手は使えなくなってきたから、ドルはどんどん安くなっていくはずだ。そしてさらに何よりの悲劇はこれ。アメリカのこの金融本位経済がサブプライム住宅バブル爆発で、一兆ドルを超える莫大な国家赤字を積み足したことだ。その分「軍事を削るか、福祉を削るのか」との国論分裂も激化したりしつつ、ドルはさらに安くなっていくのだろう。これではアメリカは、中国が怖いわけである。中国はどうも、作られた「強敵」ではないようだ。アメリカから儲けた金で大量のドルと米国債を所有し、その金で軍事力も強化してきた。嘘の理由でイラクに戦争を仕掛けたなど強面一本でやってきたアメリカ流儀も、中国にはどうも通じそうもない。元安をどうやって崩せるか。さもなくば、覇権の交代がおこるのか。とにかく日本だけは味方に付けておかねばならぬ。そして、あわよくば、アメリカの前衛部隊、楯になっていただけないものか。

 以上の間中、金融によって整理統合・合理化されるだけだったアメリカ現物経済は、失業者、半失業者を、つまり相対的貧困者をどんどん生み出し、国としての購買力をなくしているのだ。これでどうして景気が良くなるのだろうか。アメリカはもちろん、世界の景気も。いや、万一こういうやり方すべてを前提として「アメリカの株価にかぎって景気が良くなった」としても、人類にとってどんな意味があるというのだろう。憎しみの連鎖から、世界が滅びていくのではないか。

 ロムニーの発言は、この三〇年かけてアメリカがたどり着いた「到達点」なのでもあろう。
コメント (6)
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

新聞の片隅に載ったニュースから(84)    大西五郎

2013年03月22日 19時21分57秒 | Weblog
新聞の片隅に載ったニュースから(84)

東電「事故ではなく、事象」 (2013.3.21 中日新聞)

 東京電力は、福島第一原発で起きた停電事故のことを、発生当初から「事象」と呼び続けている。尾野昌之原子力・立地本部長代理は二十日の記者会見で「原子力の世界では、外部に放射性物質が出て、影響を与えるようなら事故だが、そうでなければ事故とは呼ばない」と言い切った。
 ただ、東電は東日本大震災で1、3号機の原子炉建屋で水素爆発が起き、放射性物質を撒き散らした際も「爆発的事象」と言い続けていた。
 「事象」は、原子力関係者が深刻な事態を小さく見せようとする言葉と受け止められることが多い。

□□――――――――――――――――――――――――――――――――――――――□□

 またもや東電の責任回避体質と反省のなさが表れましたね。
 今回の停電により、使用済み核燃料プールへ冷却水を注入できなくなった事故の原因は、建屋の外に置かれたトラックの荷台に積み込まれた配電盤でショートが起き、ねずみと見られる小動物の死骸が見つかったことから、ネズミが配電盤に入り込んだことが原因と見られています。
 3・11の事故で全電源を失ったため、核燃料冷却用の冷水を使用済み燃料保管プールに注ぐための応急措置としてトラックの荷台に配電盤を設置したというのですが、事故から2年間も応急措置のまま放置していました。しかも配電盤から電気ケーブルが出ているため配電盤の扉が密閉できず、シートを張って雨露を凌いでいたというのですから呆れます。その隙間からねずみが入り込んだのでしょう。
 しかも、事故が起きたてから3時間以上も事実を伏せていました。冷却ができなくなった場合、福島県内のかなり広い部分に避難の必要が生じたかもしれないというのにです。
 「事故」を「事象」と言い換えることも問題です。3・11の直後に原子炉でメルトダウンが起きていたことも直ぐには公表されませんでした。1号機と3号機で「水素爆発があった」と発表されていますが、専門家の間では「即発臨界」という一種の核爆発が起きたのではないかということも云われているそうです。放射性物質も東電が言う以上にかなり拡散したとも言われています。
 「原子力の世界では・・」ということは、原発では「事象」というような「事故」が起きることを前提に考えているということだと思います。いま全国的に「脱原発」の運動が起きているのは、原発が一度事故を起こすと取り返すことのできない被害を広い範囲に及ぼすということが分かってきたからです。先日NHKのETV特集でイギリスの原子炉廃炉作業の実態を報告していましたが、完全に、安全に廃炉を実現するのに100年はかかるだろと廃炉に取り組む公社の責任者が話していました。つまり原発というのはそのような危険なものだという認識を持つべきで、「事故」を「事象」などと言いくるめることは止めるべきです。

                                       大西 五郎
コメント (4)
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

新聞の片隅に載ったニュースから(83)   大西五郎

2013年03月21日 15時29分01秒 | Weblog
新聞の片隅に載ったニュースから(83)

イラク戦争過半数が「間違い」米国民対象の調査(2013.3.21 朝日新聞)

 イラク戦争開始から10年に合わせて米国で実施された世論調査で、国民の過半数が、対イラク開戦を「間違いだった」と考えている傾向が浮かび上がった。
 CNNが19日に発表した世論調査によると、イラクとの戦争開始を「賢明な判断」と答えた人は38%、「愚かな判断」と答えた人が59%だった。戦争の結果については「勝利」が26%、「行き詰まり」が55%、「敗北」が18%だった。
 また、米ギャラップ社が18日に公表した調査結果でも、開戦を「間違い」と答えた人が53%で、「間違いではない」の42%を上回った。戦争が始まった2003年には、7割以上が「間違いではない」と答えていた。
 一方、米国のオバマ大統領は19日に声明を発表し、「米国は引き続きイラクの安定と平和促進のためのイラクのパートナーと共に取り組み続ける」とした。イラク戦争に従事した軍人や家族をたたえる一方で、自らが反対したイラク戦争の是非には言及しなかった。
 ホワイトハウスのカーニー報道官は「オバマ大統領はイラク戦争に反対し、戦争を終らせるという約束を実行した」と話した。

□□――――――――――――――――――――――――――――――――――――――□□

 イラク戦争が始まった頃のアメリカ人は、「イラクは大量破壊兵器を持っている」「フセイン大統領はアルカイダと通じている」という政府の発表で戦争の「大義」を信じ、町中に星条旗が溢れ、新聞の紙面にも、テレビの画面にも、星条旗が出てくる様を私たちも見せられました。
 大量破壊兵器が無かったことをアメリカ政府が認め、戦争の「大義」が揺らぐ一方、アメリカ兵の死傷者が増え、アメリカ兵がイラクの人に残虐な行為をしている映像も流されました。こうしたことが10年たった今、アメリカの人たちに「イラク戦争は間違いだった」と気付かせているのだと思います。
 今日の毎日新聞によりますと、「イラク攻撃を決断したブッシュ前大統領は現在、公の場に姿を見せる機会はほとんどない。民主党のクリントン元大統領が今なお国民の間で根強い人気を誇り、米メディアにしばしば登場するのとは対照的だ」そうです。
 翻って日本はどうでしょう。ブッシュ大統領の「敵か味方か」という呼びかけに、世界中で真っ先にアメリカ支持に手を上げたのは自民党の小泉政権でした。イラク特措法まで作って自衛隊をイラクに、あるいは隣のクエートのアメリカ空軍基地に派遣し、アメリカを中心とする連合軍の武装兵士を前線基地に運ぶ任務まで引き受けました(名古屋高裁で憲法違反の判決)。
 しかし、政府として、日本のイラク戦争への関与が正しかったのかどうかという検証が行われていません。2007年にイラクへの航空自衛隊派遣を2年延長する特措法改正の際、衆院特別委で「政府は検証を行う」との付帯決議がなされた時の首相は安倍晋三氏(第一次内閣)です。是非ともイラク戦争開戦10年の機会に、イラク派兵が正しかったのかどうか、検証すべきです。

                                       大西 五郎
コメント (3)
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

NHK堀潤アナウンサーの退職                あんころもち

2013年03月20日 17時19分49秒 | Weblog
 NHKのなかで良心派として頑張ってきた堀潤アナウンサーが、局内のさまざまな迫害のなかで、ついに懲戒処分の声が出るにあたって、先手を打って辞表を提出しました。
 退職の直前に、氏がツイッターに述べているのが以下です。
 下の二項目はそれへの感想で最初のものはNHKにもよく出ている評論家の津田大介氏です。
 NHKの体質は、安倍内閣の出現により、ますます政府広報機関の色彩を強め、それに従わない人物を排除し始めたようです。


<以下ツイッターからの引用>
 
 震災から2年。原発事故発生のあの日私たちNHKはSPEEDIの存在を知りながら「精度の信頼性に欠ける」とした文部科学省の方針に沿って、自らデータを報道することを取りやめた。国民の生命、財産を守る公共放送の役割を果たさなかった。私たちの不作為を徹底的に反省し謝罪しなければならない。
8bit_HORIJUN 2013-03-11 14:29:50
 パニックを抑え社会の均衡を保つための判断であったとしても、統制された情報によって福島県をはじめとした近隣住民の皆さんへ長年に渡る不安を与えた事実を正面から受け止め、償いを続けそれだけに市民に寄り添った報道を徹底しなければいけない。僕は頭を下げながら一生この原発事故の取材を続ける。
8bit_HORIJUN 2013-03-11 14:36:28
 自らあの日ニューススタジオにいながらそうした事実をきちんと伝えられなかったことに対し、心から謝罪します。福島の皆さん。取材でそれまで沢山お世話になっていたにも関わらず、役にたてなくて本当に申し訳ありませんでした。
8bit_HORIJUN 2013-03-11 14:49:43
 反原発だと思想的にレッテルを貼る人がいますが僕はそうは思いません。取材をすればするほど原発の安全対策が不十分であることがわかります。事故が起きた時の交通インフラや避難誘導の仕組みも今は不十分です。徹底的にこの問題と向き合い課題解決に知恵を絞らなければ世界の何処かでまた犠牲出ます。
8bit_HORIJUN 2013-03-11 14:55:17
 僕がUCLAで作った映画が局内で大問題になり、ロスで米国市民の皆さんが企画した上映会も中止に追い込まれました。「反原発と言われるものは困る」と指摘を受けましたが、事故が起きたことによる不条理な現状を描いているに過ぎません。市民が共有し未来に活かさなくてはならないものです。
8bit_HORIJUN 2013-03-11 15:04:19
 米国市民からは突然の上映中止の通達に「日本ではこれが日常なのか?」と怒りを通り越して驚き理解ができないという声が上がっています。僕が学生の時に研究し太平洋戦争下の状況と本質は変わりません。公共メディアは誰のものか?知る権利を有する市民のものです。表現の自由を有する市民のものです。
8bit_HORIJUN 2013-03-11 15:08:30
 メディアに関わる一人一人がそれらの権利を常に最優先に掲げ、発信に努めなければなりません。あの日犠牲になり、そして今も情報が届かなかったことで不安と向き合う日々を過ごしている皆さんのことを想い。亡くなった方々への哀悼の意を示し、黙祷を捧げます。
8bit_HORIJUN 2013-03-11 15:13:45



 堀潤さんがNHKに退職届出して受理されたらしい。いろいろNHKはもったいないことしたと思うけど、堀さんが今後やることにも注目ですね。
tsuda 2013-03-18 16:22:20
 NHKの堀潤アナウンサーの退職。事実のようです。堀さんの発信がNHK局内で問題に。国会議員からの圧力もあったようです。これからは外から頑張れ!堀さん!
返信 RT お気に入り
sugiyamamasa 2013-03-18 18:29:46
コメント (1)
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

世界経済史の今を観る(5)08年バブル破綻と救済の構造   文科系

2013年03月20日 04時29分21秒 | 国際政治・経済・社会問題(国連を含む)
 1970年代初頭の金本位制、固定相場制崩壊以降には、小さなバブルとその破裂は無数に起こっているという。IMF(国際通貨基金)の08年調査によればこのように。
『1970年から2007年までの38年間に、208カ国で通貨危機が、124カ国で銀行危機が、63カ国で国家債務危機が発生しています。金融危機は、先進国、新興工業国、開発途上国を問わず、アジア、ヨーロッパ、南北アメリカ、アフリカを問わず起こっていたのです。これに対し、第二次大戦後1970年以前の時期には、国際金融危機や大規模な一国金融危機はほとんど発生していません』(岩波ブックレット12年刊 伊藤正直「金融危機は再びやってくる」P3)

 また、08年のような史上かってなく大きなバブル崩壊について、必ず起こるとも予言されてきたのである。経済学者からはもちろん、高等数学が分かる人からも。例えば、数学者である藤原正彦・お茶の水女子大学教授はその著作「国家の品格」(新潮新書 06年4月第24刷分)でこう予言していた。
『新聞等ではなぜかあまり騒がれておりませんが、このデリバティブの残高が、国際決済銀行の発表によると2004年時点で1兆円の二万五千倍と言われています。二万五千兆円ですね。わずか三年前の残高の2.2倍です。ここ10年では25倍という恐るべき急増です。多分、京(きよう)だか京(けい)だか知りませんが、2京五千兆とでも言うのでしょう。・・・・リスク率を4%と仮定しても、一千兆円です。銀行やヘッジファンドはデリバティブの主役ですから、大規模デリバティブが一つでも破綻すると、その瞬間に資金の流れが止まり、連鎖的に決済不能に陥ります。一千兆円という数字は、銀行のリスク許容能力である自己資金の総額の数倍にも達しているのです。・・・・いつ世界経済をメチャクチャにするのか、息をひそめて見守らねばならないものになっています。しかもなぜか、これに強力な規制を入れることも出来ない。そもそもマスコミはこれに触れることすら遠慮している。』(p32~34)
 上の「デリバティブ残高」と「リスク率4%」というのは、レバレッジ、証拠金取引ということに関わっている。通貨、債券、株式などの先物買いなどのデリバティブ(金融派生商品)取引は、「想定元本」の取引を、その4%ほどの証拠金でもって行うことができる。つまり手元資金の25倍ほどの梃子を利かせる大ばくちが出来るのである。逆を言えば、儲ける場合の金額も大きいけれど、自己責任が負えないような大損もあるということだ。

 こういうものが爆発して、さて世界はどうなったか。今は、どうなっているのか。こんな重大なことが、藤原氏も言うように、その後のマスコミで追跡調査や反省などほとんど社会問題として正しく反省されたようには見えないのである。全く不思議なことだ。アメリカ政府資金だけでも1兆ドル遙かに超えるほどに使ったはずの公的出来事なのに。こんな不思議な事態は、金をもっている権力者たちが政府ぐるみでその権力をフルに使ってあらゆるマスコミ社会に対して口止めをしているとしか僕には思えない。新自由主義社会の最大の恥部をみんなして隠しているわけである。これほどにおかしい問題処理をしておいて、「アベノミックスの超株高!」とか「アメリカ株価、リーマン以前に戻す!」とかを今叫んでいるのでは、世界が今回と同じ政府資金投入という社会主義的不公正・弥縫対策を何度も繰り返すことになるのは、必然だと思う。上記伊藤正直氏著作の題名「金融危機は再びやってくる」とは、そういう意味である。

 この間、根本的に「正しく」景気、購買力をよくするべく、失業者に職を与えるとか臨時、パートを正規職に変えるとかは、世界で何も進んでいないのである。世界の失業者たちになんの変化もない「景気」に、どんな意味があるのか。だからこそ資本で物を作っても何も売れないから、資本がどこでも、何度もマネーゲームに走るしかなかったのではないか。その元凶連中は100億とかのボーナスをもらって食い逃げしていくのにである。彼らに騙されるようにして家を買わされ、数年で高い利子に替わって払えなくなり、その虎の子の家までを取り上げられたうえに借金漬けにされたサブプライムローンの人々は、その一生をめちゃくちゃにされたのである。これは戦争と同じだ。
 数百万のサブプライム家庭を殺したにも等しい投資銀行幹部たちは大儲けをした「英雄」のまま。対するに、たった一軒の家のローンが払えなくなった人々はその人生を殺されたにも等しいということだろう。こんな事を何度繰り返すというのか。なんと不思議な世の中なのだろうか。
コメント (1)
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

世界経済史の今を観る(4) ポスト戦後社会の経済の流れ②  文科系

2013年03月19日 08時51分07秒 | 国際政治・経済・社会問題(国連を含む)
ポスト戦後社会の経済の流れ② サブプライムローン証券化商品バブルの破綻経過

①この問題の難しさ
 この問題はいろんな本を読んでみても、とても難しいと感じた。まず、この問題性、犯罪性について賛否が真っ二つに鋭く分かれるからだ。特に、学会と実践世界とが分かれていると感じた。マクロの経済学会などがモラルハザードを追求するのに対して、実践世界では世界的法律がなかったり、自己責任など吹っ飛んで「大きくて潰せない」とするであろう政府に力ずくで乗っかってきたように見える。この問題性をはっきり言ってウヤムヤにしようとする力さえも感じられる。例えば「株価が世界的には高値を更新した現在から観れば、あれは大きな問題ではなかったのだ」というように。次いで、CDO(債務担保証券)、ABS(資産担保証券)とか、デリバティブ、空売り、レバレッジとかの用語の難しさがあり、そこから全体の構造が分かりにくいということもある。
 バブルとは「偽の信用がどんどん膨らんでいく」ということだ。ところが、その急成長中には、偽だとは実践世界の誰も振る舞っていないから問題なのである。世界のカネがそこにどんどん集まってきている。信用できない低所得者のローン支払い絡みなのに格付け会社からトリプルAの信用が付いている。こういう「信用」社会では、信用破綻は必死に先延ばしされ、起こった後には隠されたり小さく見せられるということだろう。例えば、投資会社、証券会社は自らの「デリバティブ」商品を、自らはデリバティブと呼ぶのさえいやがるという風潮が存在する。それだけに、起こったことをしっかりと記述し、後世に残しておくことは大事だと思う。


②全米5大投資銀行の全滅
 以前から指摘されてきたサブプライムローン組み込み証券問題が、誰の目にも明らかになったのは08年春のベア・スターンズ破綻だろう。ここが、アメリカ5大投資銀行のひとつだからだ。が、ここに至る徴候は既に1年以上前から現れていた。06年12月にはサブプライムローンを手がけていた米中小ローンの経営破綻が相次いでいたのだし、07年になるとこんな事も起こっている。3月13日住宅ローン大手のニューセンチュリー・フィナンシャルが、上場廃止になったこと。6月22日には、問題のベア・スターンズが傘下ヘッジファンド2社の救済に奔走したが果たせなかったという事件も起こっていた。このような07年の破綻徴候については、岩波新書「金融権力」(本山美彦京大名誉教授著)巻末に紹介されている。このように破綻への徴候は無数にあったのに、必死に隠して「信用」死守を図ってきた姿が目に浮かぶのである。こんな点にも、「信用」、超巨大バブルにトリプルAがつくという、それがきわめて人為的あるいは虚飾的なものだという、その事が示されているということだろう。ともあれ、ベア・スターンズ破綻以降もこんな事が相次いで起こっていった。

 08年夏には住宅金融機関の親会社的な政府系の金融機関、ファニー・メイとフレディ・マックがつぶれた。そして9月15日には、5大投資銀行の第3位リーマン・ブラザースが破綻すると、その同じ日に、第4位のメリル・リンチをバンク・オブ・アメリカが買収すると発表された。翌16日には、AIGの倒産があった。アメリカ最大の保険会社であり、金融商品の保険だけを扱ってきた会社であって、政府等が即座に8000億ドルの融資枠を設定したものだ。ただしこの額は1ヶ月で使い切ってしまい、以降も追加支援に走らざるを得なくなる。8000億ドルでも不足とは、この会社が保険金で補償すべきサブプライムローン住宅関連金融商品がいかに莫大なものだったかが分かるというものだ。それがないと、5大投資会社、銀行とその関連会社とが無数につぶれたということなのだろう。それでもさらに、1、2位の投資銀行も9月21日に銀行持ち株会社に転換するにいたったのである。ゴールドマンとモルガンがそれぞれの銀行に吸収されたということである。
 以上のこの部分は、岩波ブックレット、伊藤正直・東京大学大学院経済学研究科教授著「金融危機は再びやってくる」の要約を主内容としている。

 東洋経済新報社の「現代世界経済をとらえる VER5」(2010年)では、5大投資銀行の破綻をまとめた後に、こんな文章が続いていた。
『リーマン・ブラザース破綻の翌日、保険最大手のAIGがアメリカ政府管理に置かれ救済されたのは、あまりにも膨大なCDS(デリバティブ等にかけられた保険のこと。これがかかっているから、信用できない商品でもトリプルAの格付けになったということです。文科系)の破壊的影響への危惧からであった。一世を風靡したアメリカ型投資銀行ビジネスモデルの終焉が語られているが、健全に規制された金融モデルへの移行か、巻き返しのための変身なのか、ウォール街の戦略、西欧金融機関との競争を含めて、注視していく必要がある。』
 政府に補償してもらって、その上で「巻き返しのための変身」? これでは新自由主義者たちが非難してきた社会主義政策そのものではないか。新自由主義者が政府に命を救われる。そうでないと社会がめちゃくちゃになる! これをモラルハザード、力による救済のごり押しと言わずして、どう表現できるというのだろうか。こんな新自由主義社会は過去の社会主義社会と同じく、自立的には存在し得ないと証明したも同じ事である。
コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

新聞の片隅に載ったニュースから(82)    大西五郎

2013年03月18日 09時16分35秒 | Weblog
新聞の片隅に載ったニュースから(82)

「自衛隊を攻めない、内部で合意」駐留時のサドル師派(2013.3.17 朝日新聞)

 自衛隊の宿営地には2004年1月から2年半の(イラク)派遣期間中13回の砲撃があったが、死者は出なかった。スンニ派武装勢力の犯行声明などがあったが、反米強硬派のサドル師派の犯行との見方もあった。
 06年から08年にサドル師派のムサンナ州支部長を務めたカリーム・ハッサン氏(36)は取材に「駐留に反対はしていたが、武装部門による攻撃はしないことを当時、内部で合意していた」と明かした。
 サドル師派は当時「自衛隊は占領軍ではないように装っているが、米軍主導の多国籍軍に(組織上)加わっており、占領軍であることは明白」として、駐留に抵抗する立場をとった。武装闘争を主張する幹部もいたが、「州での活動は我々に敵対的ではない」「(かって米軍と戦争した)日本とは共有すべきものがある」とする意見が大勢を占め、デモで反対はするが、武力攻撃の対象としないことで合意していたという。
 ハッサン氏は「武装部門が組織的に攻撃していれば、自衛隊員に死者が出ていただろう」と語った。

□□――――――――――――――――――――――――――――――――――――――□□

 アメリカのイラク攻撃開始(2003年3月)から10年、朝日新聞の記者がかつて日本の自衛隊が駐留したムサンナ州サマワに入って現状を取材しました。4月に地方議会の選挙が行われるため、ポスターが街にあふれ、商店街は夜遅くまで買い物客らで賑わっていたと、17日朝刊1面で「イラク戦争から10年 選挙前サマワ安定の街」というレポートを掲載しました。
 それとの関連で、自衛隊が駐留したムサンナ州の反米武装勢力の責任者とのインタビューも行って報告したのが上の記事です。
 日本はアメリカに“Show the Flag”“Boots on the Ground”と嗾けられて、自衛隊をイラクに派遣することにしましたが、憲法九条との関係で軍事行動には参加せず、「イラクにおける人道復興支援活動及び安全確保支援活動の実施に関する特別措置法」(イラク特措法)を作って陸上自衛隊を戦闘地域ではない(比較的治安が安定していた)サマワに派遣しました。現地では給水、医療支援、学校等公共施設の復旧・整備、復興関連物資の輸送などに当たりました。
 つまり、武装勢力には「敵対的ではない」と思われたのです。だから武力攻撃を受けなかったのです。ハッサン氏の云うように「戦闘を行う部隊であったなら、武装勢力の攻撃を受けて死者も出ていたでしょう。まさに憲法九条の輝きです。
 なお、航空自衛隊も派遣され、イラクの隣のクエートのアリ・アルサレム空軍基地に駐留して国際部隊(事実上イラク占領軍)の物資輸送に当たるとされていましたが、武装した部隊を輸送していたことも明らかになり、戦闘行為の一環であるとして、名古屋高裁で航空自衛隊のイラク派遣は憲法9条に違反するという判決が出ています。

                                       大西 五郎
コメント (2)
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

TPPへの参加 その影響はもっと広範囲のはず       あんころもち

2013年03月16日 00時49分38秒 | Weblog
 予想されていたように安倍首相はTTP交渉への参加を表明しました。
 そして、「聖域なき自由化」ではなく、「聖域」を確保すると表明しています。
 後進参加国の日本が、そんなに美味しいところだけつまみ食いするようなことが出来るのかどうかは大いに疑問ですし、その美味しいところとは、参加に積極的な経団連加盟の各社にとってであって国民全体にとってであるかどうかは大いに疑問というべきでしょう。

 このTTPについては広く各分野での影響が懸念されます。しかしメディアは(とりわけNHKは)その影響の及ぶ範囲を農業のみに限定するかのような報じ方です。農業団体の抗議デモは取材するものの、その他の反対運動や反対グループについてはまったく取り上げようとはしません。
 ここには、農業以外にもさまざまな影響が出ることについては、あえて寝た子を起こさないでおこうとする意志のようなものすらうかがえます。
 さらには、農業には気の毒だが「国益」のためには参加は不可避なのだという将来のシナリオすら透けてみえるようなのです。
 おそらく自民党は、先の衆議院選挙での圧勝で、もはや農業を基盤とした党ではないとの自信を深めたのでしょう。

 TPPの及ぼす影響はむろん農業のみではありません。医療に絡んだ健保の問題、労働市場の問題、郵貯などを含む金融の問題、公共事業などの問題、海外からの投資の問題、遺伝子組み換え食品などの規制緩和の問題、それらを含んだ環境や生態系の問題などなどが目白押しなのです。
 これらの問題は未だ検証されていないといえるかも知れませんが、しかし、農業の問題を含め、参加してみればその結果がわかるというのでは遅いのです。
 そのときにはすでに、農業を始め、労働市場、金融市場、健保制度、環境問題などで決定的な事態に陥る危険性があるのです。

 私の主張は、この際、「農家のみなさんにはお気の毒ですが」といったお気楽な問題ではけっしてないということです。もちろんこれらの諸問題の全てにわたってどう転ぶかは不確定ですが、しかし、メディアがいうように「農業は大変だ」という問題に絞り込むことなく、あらゆる層に対してのその影響を慎重に検討すべきだということです。
コメント (5)
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

世界経済史の今を観る(3) ポスト戦後社会の経済の流れ①  文科系

2013年03月15日 14時00分34秒 | 国際政治・経済・社会問題(国連を含む)
 羊頭狗肉で「世界史」と言いながら「世界経済史」に絞るとのお断りは前に述べた。その上で、直接的には「ポスト戦後社会」から始めようと思う。この時代区分自身は歴史学によるものであって、70年代半ばを境とするものだ。岩波新書「日本近現代史10巻シリーズ」の第9「ポスト戦後社会」(09年刊)によれば、こういう特徴で始まるとか、逆にこういう特徴が見られ始めたからポスト戦後なのだと、述べられるということだ。
 戦後社会とポスト戦後社会との支配体制の違いとして、こんな風な規定があった。まず「世界秩序」は、冷戦からポスト冷戦へ。「国家体制」は、福祉国家から新自由主義へ。最後に「歴史的潮流」ということで、高度経済成長からグローバリゼーションへということになる。以下の拙稿を70年代から始めたのも、そういう歴史学的時代区分を意識しているということだ。
さて、そう狙いを定めた上で、最初はまず、以降40年ほどの世界経済の流れを概観しておくことにする。

 71年にいわゆるニクソンショックが起こっている。金本位体制を一方的に崩して、やがて世界的に変動相場制に移って行くことになる措置だ。直後には、対円などでドルが世界的に値下がりし、他方、73年原油価格暴騰が起こる。その直後に、戦後世界経済理論を最も騒がせたスタグフレーションという経済現象が強調され始めた。「景気の停滞下で物価上昇が続く」「物価上昇と失業率の上昇とは併存しない」という当時までの世界的経済理論ケインズ経済学では説明できない現象と言われたものだ。つまり、ケインズ的経済学、政策の破綻というわけである。今顧みて、その後の新自由主義経済とその理論の隆盛、それが08年にリーマンショックという形で100年に一度どころではない破綻を来したこと、その出発点がここにあったと言って良い。新自由主義として有名なサッチャリズムが79年に、レーガノミックスは、81年に始まっている。
 こうして、ポスト戦後社会の開始は、戦後の各国経済運営の指針となったケインズ理論の「破綻」とともに始まったと言っても過言ではないだろう。

 80年代は、「アジアの時代」とかジャパンマネーの時代というのが定説だ。79年の経済協力開発機構(OECD)レポートで初めてアジアが注目され、以下10国が新興工業国として「NICS」と呼ばれた。韓国、台湾、香港、シンガポール、ブラジル、メキシコ、スペイン、ポルトガル、ギリシャ、ユ-ゴスラビアである。ところが80年代に入るとこのうち南欧や南米が落ちていき、アジアNICSだけが急成長を遂げていくことになる。上のアジア4国に続いて80年代後半から90年代にかけては、タイ、マレーシア、インドネシアの仲間入りもあった。以上の80年代動向は同時に、アジア唯一の先進国であった日本が、「アメリカ」をも買いあさった「ジャパン・アズ・ナンバーワン」の時代とも重なっている。(以上の80年代部分は主として、東洋経済新報社「現代世界経済をとらえる VER5」2010年版の抜粋に近い)

 90年前後に起こった社会主義国崩壊から以降、民間資金が各国に流入して、様々な猛威をふるい始める。これまでの開発途上国などへの資金移入は社会主義国と張り合うように公的資金が主だったのに、90年代はそれが急逆転していくのである。しかしながら、民間資金はそれらしく利潤が目的。それにともなって各国に通貨危機が連続して発生していくことになる。94年メキシコ、97年東アジア、98年ロシア、99年ブラジル、01年にはトルコとアルゼンチンなどなどだ。いずれの国も、短期資金の突然の流出で資本収支の赤字から困窮しつくすという特徴を示したものだ。ちなみに98年世界決済銀行(BIS)の43カ国調査にこんな数字があった。市場為替取引高は1日平均1.5兆ドルで、年間500兆ドルと。95~6年の世界貿易高が5兆ドルであったのを考えると、もの凄い数字ではないか。マネーゲームとか「カネがモノから離れ始めた」とか指摘され始めたのも当然のことだろう。もちろん、こういうゲームの主人公たち自身の中からも破綻者が現れ始める。98年にロシア通貨危機でロングタームキャピタルマネージメント(LTCM)、02年にエンロンの倒産である。いずれもデリバティブ、金融派生商品の失敗、当て外れによるものだった。
 
 そして、06年12月に兆し始めたサブプライムローン問題の顕在化の道程を、次回には観ることにする。
コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

新聞の片隅に載ったニュースから(81)     大西五郎

2013年03月14日 19時45分20秒 | Weblog
新聞の片隅に載ったニュースから(81)

維新・西田議員「低線量セシウムは無害」予算委で発言(2013.3.14 朝日新聞)

 日本維新の会の西田譲衆院議員は13日の衆院予算委員会で、福島第一原発事故の放射能汚染について「低線量セシウムは人体に無害。医学を無視し、科学を否定する野蛮な『セシウム強制避難』を全面解除すべきだ」などと質問した。
 西田氏の質問に対し、党所属議員の事務所などに抗議があったため、小沢鋭仁国会対策委員長らが対応を協議。党執行部は西田氏の質問内容を詳細に把握していなかったという。
 西田氏は原発事故で飛散したセシウムは「微量」とし、被曝の影響は「問題にならない」と主張。安倍晋三首相に避難者の即時帰宅を認めるよう求めた。民間業者による農地の除染についても「田畑を破壊する。農作物、特に稲にとってセシウムの被害はほとんど考慮に入れる必要はない」と述べ、中止を求めた。
 安倍首相は「福島の方に理解を頂ける形で、出来る限り多くの方々が地元に戻れるよう努力したい」と答えるにとどめた。
 橋下徹共同代表は13日夕、西田氏の質問について「個人の意見として述べたんでしょう。表現方法に未熟さがあった」と話した。

□□――――――――――――――――――――――――――――――――――――――□□

 全く驚いた発言ですね。
 この人が放射能の問題に詳しいのかと思ってインターネットで西田議員のホームページを開いてみました。そこに書かれていたプロフィールでは、熊本県の出身で、熊本高校から慶応大学経済学部に進み、同大学を中退して政冶に携り、衆議院議員公設秘書から千葉県県会議員(自民党会派)を務めたとありましたから、放射能問題に専門的知識を持っている人とは思えませんでした。
 それにしても、「福島第一原発の事故で放出されたセシウムは微量(低線量)だから人体に悪影響はない」などと何を根拠に言っているのでしょうか。そのようなデータはどこからも発表されていないと思います。確か田母神元空爆長が「日本人は放射能で騒ぎ過ぎる」というようなことを言ったと記憶していますが、それに寄り掛かって云っているのでしょうか。
 橋下徹氏のコメントもひどいですね。西田氏は、国会で日本維新の会の議員として自分の見解を述べながら政府の考えを質問したのです。「個人の意見として述べたんでしょう」で済む問題ではありません。橋下氏も庇いようがなく、党の見解ではないということを云いたかったのだと思います。西田氏は維新塾に参加して党の比例代表の公認候補になったのですが、だとすると日本維新の会は「表現方法が未熟」な人間でも党の国会議員に適すると判断したことになります。
 先の総選挙では「橋下人気」とやらで結構沢山の票を獲得しましたが、こうなると、日本維新の会とはどういう政党なのかを見極める必要があるようです。この政党が憲法の改正、なかんずく9条を変えろといっているのですから、そら恐ろしくなります。

                                       大西 五郎
コメント (7)
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

「世界にはまだまだ、こんな人々が居る」  文科系

2013年03月12日 12時49分50秒 | 文化一般、書評・マスコミ評など
 「グレートジャーニー」という本をご存知だろうか。関野吉晴という医者でもある探検家が、世紀の移り目の足かけ10年ほどをかけて自転車とカヌーだけでほぼ世界を一周したその記録である。大西洋は除いて、太平洋はその上のベーリング海峡を渡るなどなどの旅が、写真をふんだんに使って報告されている。「グレートジャーニー」とは、人類がアフリカに誕生して南米パタゴニアの果てまで渡っていったその人類の拡散・進化?の足跡がグレートジャーニーと呼ばれてきたのだが、それを逆コースに辿ってみようとの発想から生まれたものだと述べられている。この元祖グレートジャーニーには、ユーラシア大陸の南回りと北回りがあったはずであって、その北回りコースを関野氏は(逆に)辿ったようだ。さて、そこには、現代アメリカ金融アナリストらが恥ずかしくなるような人類が無数に存在していることが伝えられてある。大好きな本であって、僕としては3度目の読了を昨日終えたのだが、この一部を抜粋してみよう。
 なおこの拙稿は、最近のコメントで「イスラム教徒や中世カトリックは、利子を禁止していた」とか、「強欲は恥ずかしいことだという人々はまだまだ多い」とかの論議がなされていたから、その延長という一興である。
 以下の前者はイスラム教徒、後者はキリスト教徒だ。

『(スーダン北部ヌビア砂漠で)基本的にテントを張って野宿をしたが、村がある時はそこに投宿した。村では人々が外から見えるところで食事をしている。旅人や食事がなくて困っている人に施しをするためだ。村に滞在する時は私はいつも村人にご馳走になった。・・・・・イスラム教徒にとっては、天国に行くためにはしなければならない五つの善行がある。そのうちの一つが「困っている人への施し」なのだ』

『エチオピア南西部、スーダンとの国境地帯には様々な少数民族がひしめいている。・・・・・彼らの村で医療行為をした。患者は頻繁にやってきた。一日の半分以上を診療に費やした。発熱した者、便に虫をもっていたり、血が混じっている者が多かった。子供の患者が多いのが特徴だった。
 そして、ここの患者たちは、診療しても特に私に感謝するふうでもない。治癒したり、軽快したりしても報告にも来ない。初めは抵抗を感じたが、彼らの「価値観」を知って次第に納得するようになった。彼らには「ありがとう」という言葉も無いのだ。
 彼らの特徴はモノを貯め込まないことだ。彼らにとって最も重要なことは「集うこと」と「モノをあげたり、もらったりすること」だ。私たちがモノを貯め込んで将来に備えるにの対して、頻繁に人間が行き来し、モノを滞らせない。』

 先進国が往時に、こういう人々と土地とを植民地にするのはさぞかし容易だったことだろうが、征服者と被征服者とどちらが人として品格があったと言えるのだろうかと考えてしまった。今のアメリカの金持ちは、部外者が入れない金持ち村に隔離されて住んでいる。いや、そうせざるを得ないのだ。上との対比で言えばつまり、莫大なモノを貯め込んで、仲間内だけしか行き来をしない。これらのアフリカの人々などとは正反対で、奪わなければ暮らせない人々を無数に生み出してきたからなのだ。例えば金融関係者などは確実に、彼ら自身がこういう人々を直接間接に生み出したといえるはずだ。


 このグレートジャーニーに関わって、余興をお一つ。これは僕のある同人誌小説の末尾の方に付けた拙文であるが、失礼して。
『ボスについて走り続けるのは犬科動物の本能的快感らしいが、二本脚で走り続けるという行為は哺乳類では人間だけの、その本能に根差したものではないか。この二本脚の奇形動物の中でも、世界の隅々にまで渡り、棲息して、生存のサバイバルを果たして来られたのは、特に二本脚好きの種、部族であったろう。そんな原始の先祖たちに、我々現代人はどれだけ背き果ててきたことか?! 神は己に似せて人を作ったと言う。だとしたら神こそ走る「人」なのだ。・・・徒に緩み、弛んだ尻・腿は、禁断の木の実を食べた人というものの、原罪を象徴した姿である』

 「人類拡散の時代」の特徴を色濃く残していると思われる上記アフリカの方々! 人類にこういう共同性がなかったら大型動物の狩りなどは不可能であって、その存続、拡散などはとうてい果たせなかったことだろう。こうした人類拡散の歴史的事実と比較する時、現生人類はその「支配的な」人々をそのままにしては、彼らによって滅ぼされるとしか思えなくなってくる。
コメント (4)
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

世界史の今を観る(2)方針変更と中間報告  文科系

2013年03月10日 14時10分54秒 | 国際政治・経済・社会問題(国連を含む)
 こんな過大な予告をする羽目になったこと自体が、頭が悪くなったという証拠。僕に出来るはずはないのである。でも相変わらずというか、ますます、歴史の「土台」であり続けているはずの「経済史の今」ぐらいは長期間かけてぱらぱらと短くて拙い物でも描いてみようというように方針変更して、いろいろと読んできた。その中でとても興味深かった中間報告を一つ今日はやってみたい。
 東洋経済新報社の「現代世界経済をとらえる Ver4」という本を手に取り、読んできた。娘が大学院時代に使った本であって、Ver4とはその03年版で、A5版びっしりの300頁近い本なのに明らかなロングセラー。娘に聞いたら全国の大学経済学部の教科書として版を重ねてきた本だという。全14章に執筆者14人、全国14の国公私立大学14校のそうそうたる(らしい)専門家がそれぞれを執筆している。新版が出ていないかとネット検索してみたら10年にVer5が出ていて、その目次を読んでみた。この5版が本屋から届くのは来週の中頃、それまでの繋ぎにこんな作業も余興となろうかと気づいた。2つの版の目次の比較である。この比較から最も分かることがこれだろう。03年から10年までの世界経済について、経済学者たちが最も激しい変化をどこに観ているか、と。10年足らずで世界の経済問題がこんなにも変わる時代に我々が生きているということなのだ。

 世界で最も強い連中が適切な世界法がないのを良いことにその力に任せて世界中を蹂躙してきたという、その足跡なのだ。通貨危機を、メキシコ、アジア、ロシア、ブラジル、トルコ、アルゼンチンなどと世界中に次々と引き起こして各国経済(の無数の人々の生活)に一大悲劇を作ってきた。そのくせ、ケイマンとかバ-ジンとかに籍を置いて税金を払わない。その成長期においてさえ、こんなに儲けていたのにである。
『これらのヘッジ・ファンドは全米で約500億ドルの資産を保有しているものとみられ、年間40~50%の利潤(配当率)をかせいでいるものもある』(有斐閣「現代国際金融論」2001年第4版338頁)
 それのみか、彼らを中心とした「闇金融」の実態さえつかむことができないのである。99人以下の出資者から集めた金の運用ならば、どこにも報告しなくて良いということらしい。かてて加えて、オフバランス取引というのがある。大銀行にさえ許された、貸借対照表に記載する必要がない取引のことだ。だからこそ田中宇氏が彼らを闇金融と呼んだのだが、その金融総額は今や67兆ドル、世界の金融総額の約半分だという。「大きくて潰せない」し「責任追及もないだろう」などとばかりに破裂すると分かっているバブルとその破裂とを重ねてきた。何度も何度も。その最後には。低所得家庭に半ば騙すようにして家を買わせ(格付け会社も含めて「肥大しすぎたという意味で偽の信用」を作り、初めは安い利子で、途中から突然高い利子に替わる仕組みである)、サブプライムバブル爆発以前にさえ、その家も取り上げた上に借金漬けにしてその人々の一生をめちゃめちゃにしてきた。その一方で、自分らは見事に勝ち逃げしている。そしてなによりも、それを規制する力はどこにも育ち始めているようには見えないのである。そんな無法の数々が次々と明るみに出され始めたこの10年だったと言えるのだろう。

 人間がこれを制御しうる時代が果たしてくるのだろうかと、そんな悩ましい思いにとらわれる。これほどの暴力は、それに対する反抗の暴力とそれへの弾圧をしか呼ばないのであって、その末に世界は滅びるのではないか。北アフリカに起こった事態や、今ギリシャやイタリアで起こっている事態やはその前触れではないのかと、そんな思いにもとらわれている。

    Ver4                  Vet5
1章  アメリカ経済                 グローバリゼーションをどうとらえるか
2章  中国経済                   日本・中国・アジア
3章  EU経済                    アメリカ経済
4章  IT革命と現代世界経済           ヨーロッパ経済
5章  国際貿易の構造と理論           国際貿易の構造と基礎理論
6章  多国籍企業とM&A・国際提携      多国籍企業と直接投資
7章  WTOと世界通商システム         金融グローバリゼーション
8章  国際収支の理論と現実           国際収支と国際投資ポジション
9章  金融グローバリゼーション         グローバリゼーションとWTO
10章  現代の国際通貨体制            国際通貨体制
11章  開発と援助                  低開発と貧困削減
12章  貧困・飢餓・ジェンダー           一次産品と資源・食糧問題
13章  地球環境と資源問題            国際環境政策
14章  国際政治経済学で解く現代世界経済  人の移動とグローバリゼーション
コメント (6)
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする