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中国社会主義と民族自決権

2009年07月12日 18時27分56秒 | 北朝鮮・中国人権問題
中国の民族問題―危機の本質 (岩波現代文庫)
加々美 光行
岩波書店

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 現在、中国の新疆ウイグル自治区(東トルキスタン)全域で、中国支配に対するウイグル人の抗議行動が広がっています。それに伴い、自治区首都のウルムチでは、ウイグル人と中国人の衝突も起こっています。
 日本ウイグル協会などの情報によると、この事件のキッカケは、新疆よりずっと南方の広東省韶関市にある玩具工場で、6月26日未明に起こった中国人(漢人)によるウイグル人従業員寮襲撃事件が発端だと言われています。工場を解雇された中国人従業員が、恐らくウイグル人の低賃金労働者に職を奪われたと思い込んだのでしょう、その腹いせに「漢人女性がウイグル人従業員にレイプされた」とネットに書き込み、それが元で襲撃事件が引き起こされたと言うのです。

 中国筋の発表によると、この玩具工場での衝突では、漢人・ウイグル人双方に数十人の負傷者が出、2名のウイグル人が死亡しました。下記の映像は、ネットに流出した当時の現場映像の一つです。私も、それを幾度と無く見ましたが、「おぞましい」の一語に尽きます。数百人からの中国人が寄って集って、少数民族のウイグル人をなぶり殺しにしています。その少し前に、日本の埼玉県蕨市や京都で繰り広げられたネオナチ在特会の所業を、もっと凄惨かつ大規模にした様なものではないですか。或いは、大正時代の関東大震災での朝鮮人虐殺も斯くやと、思わせる様な映像です。

Race riot in China!!!Han VS Uygur!!


 そして、「内陸部に住むウイグル人が、何故沿岸部の広東省で多数働いていのたか?」という問題もあります。これも貧困対策・就職斡旋の名目で、経済後進地域の内陸部から成長著しい沿岸部へ、貧困人口を大量に移動して、奴隷労働に従事させていたと言われています。これなども正に「蟹工船」や「女工哀史」と同じ構図です。或いは、疲弊した就職難の地方住民の足元を見透かして、今まで盛んにトヨタやキャノンの工場に低賃金労働力を送り込んできた、日本の大手派遣会社の姿とも、よく似ています。いずれにしても、洋の東西や左右のイデオロギーを問わず、人間性を失った体制の姿は、どこも同じだと改めて思いました。
 この今回のウイグル人虐殺でもそうですが、「今でも表向きは全人民の平等を建前とする社会主義の中国で、何故この様な事が繰り返されるのか?」という事を、実はこの間ずっと考えてきました。此処で少し言い訳させて貰うと、今回のこの記事執筆が今頃になってしまったのも、偏にこの為です。

 ここで予め断っておきますが、この問題に託けても、一部ネオコン雑誌・識者・ネットウヨクによる安易な中国バッシングが流行していますが、私はこの手の論には一切与しません。その様な機会主義者の言動には、もういい加減ウンザリ来ています。
 この手の論者の中には、大企業の側に立って日本の「派遣切り」は露骨に擁護しながら、中国の「派遣切り」についてだけは、さも労働者の味方面して中国バッシングに興じる輩が後を絶ちませんが、自己矛盾も甚だしいと言わざるを得ません。ウイグルの人権問題についても、例えば中国・ロプノールでの核実験被災の実態を暴露しながら、日米の核軍拡や日本の原発政策を露骨に擁護する向きがいますが、これも唾棄すべき行為以外の何物でもありません。ウイグル・チベットに対する中国の同化政策には異を唱えながら、過去の台湾・朝鮮に対する日本の同化政策(創氏改名など)を擁護する田母神・靖国一派に至っては、正に噴飯モノという他ありません。

 その一方で、日中両党関係正常化以後の「しんぶん赤旗」に見られる、一見「喧嘩両成敗」的な及び腰の報道ぶりや、一部識者による中国社会主義美化論にも、違和感を感じています。この問題の背景には、中国人特有の排外主義(中華思想)が根源にある事は、ほぼ間違いないでしょう。その中華思想が、近代の中国革命を通しても払拭出来ず、近年はそれが更に酷くなっている所にこそ、この問題の一番の悲劇があると感じています。
 中華思想そのものは、中国に昔からあった考え方です。しかし、それが現代にも累を及ぼす様になったのは、近代の西欧帝国主義列強による中国支配に抗して、孫文などの民族運動指導者が、民族再興と革命のイデオロギーとして称揚する様になってからです。その展開の仕方は、日本幕末期における国学ともよく似ています。日本における国学との違いは、日本ではそれが尊王攘夷・王政復古の靖国思想となっていったのに対して、中国では倒満興漢の運動を経て共和革命の思想にまで発展した点です。
 その後に誕生した中華民国や、今の中華人民共和国の、国名の由来も其処から来ています。斯様に、当時としては一定の抵抗イデオロギーとして機能した中華思想ですが、中国人(漢民族)以外のウイグル・チベット・モンゴルその他の周辺諸民族にとっては、欧米や日本の帝国主義と同様の、侵略者の思想でしかありませんでした。

 また、これら中国周辺諸民族の居住地域は、国境を挟んで北は旧ソ連領のシベリア・中央アジア、南はアフガニスタンや旧英領インド、ネパールなどに接していたので、これら地域の民族運動には、旧ソ連・英国や、民族的・歴史的に繋がりの深かったトルコ・イランなどの思惑も、微妙に影を落とす事になります。そういう意味では、同じく周辺大国の思惑に翻弄され続けてきた、中東におけるクルド人の置かれた立場ともよく似ています。
 これら諸民族の中で、最終的に独立を達成する事が出来たのは、モンゴルの一部(外モンゴル=現在のモンゴル国)のみでした。それ以外の内モンゴルやウイグル・チベットでは、未だに独立への動きは抑えつけられています。ウイグルでも、1930年代と40年代の二度に渡って、東トルキスタン共和国の独立が宣言されましたが、いずれも当時の中国国民党政府・ソ連や、現地を支配していた省政府・軍閥との力関係によって、独立の動きは潰されてきました。

 そんな中国を反帝・反封建の新しい国に変えるべく誕生した中国共産党も、やはり中華思想との関係を断ち切る事は出来ませんでした。寧ろ、今の中国の「社会主義」は、過去の毛沢東思想全盛期や今の社会主義市場経済の時代も含めて、実は社会主義でも何でも無く、ただ中華思想が社会主義の形を装っただけにしか過ぎなかった、と言うべきなのかも知れません。
 党創設期・革命戦争時代の、連邦離脱権規定も盛り込まれた「中華連邦」構想は、次第に後景に退けられ、それに代わって登場してきたのが「民族区域自治」の考え方です。これは、自治区領域内での少数民族による自治(民族自治)と、自治区内での漢民族をも含む全民族の完全平等(区域自治)の、二本柱の考え方から成っています。その特徴は、あくまでも限定的な自治でしか無く、しかも平等や格差是正の名目で、漢民族への同化政策も同時に推し進められる、というものでした。
 しかし、これはウイグル人からすれば、民族語や文化の抹殺でしか無く、他方で漢民族にとっても、自らは実際は支配民族でありながら、表向きの少数民族優遇策(実際は格差是正を口実とした同化政策でしか無いのだが)によって、自分たちが逆差別されているかの様な感情を抱かせるものでしかありませんでした。それが、改革開放以来の中国における新自由主義の浸透、経済格差の拡大と相まって、次第に民族衝突が生まれる背景となっていったのではないでしょうか。そういう意味では、かつてのユーゴスラビア崩壊でも見られた現象が、中国でも進んでいるのではないでしょうか。

 この事態に終止符を打つのは、形だけの「民族区域自治」なぞではなく、名実ともに民主主義の原則に裏打ちされた、連邦離脱権をも含む完全な連邦国家に、中国が変わる以外に道はないのかも知れません。そして、民族独立を云々する以上は、それ以外の言論・集会などの市民的自由の保障や複数政党制の導入も、その段階では当然視野に入れなければならないでしょう。
 勿論、その道を選択するか否かを最終的に決めるのは、漢民族や周辺諸民族を含めた今の全中国の人民であり、それを応援する全世界の民主勢力の連帯です。それが何時どの様な形で実現するかは、私には全然見当も尽きませんが、将来的には、もうその方向でしか、根本的解決の道はないのではないでしょうか。

 但し、今盛んに中国バッシングに興じている勢力が、それを実現出来る事など、あろう筈がありません。未だに帝国主義・植民地主義を礼賛し、「遅れた国や民族を発展させる為に、鉄道や大学を作ってやった」と言い放ち、自分たちが過去に進めた同化政策を免罪する様な輩に、中国の今の同化政策を非難する資格なぞあろう筈がありません。それは、民族自決・人権・民主主義を擁護する、中国人民をも含む全世界人民の世論によってしか実現出来ないと思います。
 以上、今回の中国ウイグルにおける事態に際して、自分にとっては荷が重すぎるのも承知の上で、聊か大仰なテーマで筆を進めて来ましたが、私は斯様に考えます。そういう思いで、記事冒頭に掲げたアフェリエイトの著書もぼちぼち読み始めています。

(参考資料:追記有り)
・民族抑圧に抗議するウィグル人民への弾圧を許さない(虹とモンスーン)
 http://solidarity.blog.shinobi.jp/Entry/536/
・広東省韶関市でウイグル族と漢人との間で発生した悲惨な事件に対する声明(日本ウイグル協会、以下同上)
 http://uyghur-j.org/about_activity_090703.html
・7月5日中国ウイグル地域ウルムチで起きた事件の情報
 http://uyghur-j.org/urumqi_090705.html
・7月12日「中国政府によるウイグル人虐殺抗議デモ」
 http://uyghur-j.org/urumqi_demo_090717.html
・奇妙な発表「死者140人」・・・ウルムチで何が起ったのか(リベラル21)
 http://lib21.blog96.fc2.com/blog-entry-821.html
・王力雄『私の西域、君の東トルキスタン』を読む―新疆のパレスチナ化、或いはチェチェン化(集広舎:劉燕子さんのコラム)
 http://www.shukousha.com/column/liu007.html
・ 梁文道:中国も多民族国家だということを忘れてはならない(思いつくまま)
 http://blog.goo.ne.jp/sinpenzakki/e/306768a506fc3dc2eff6fe475c8c8be9
・中国西域マイノリティリポート 少数民族ウイグル人決死の抵抗(米流時評)
 http://beiryu2.exblog.jp/9961950
・ウイグル問題のこと(ものろぎあ・そりてえる)
 http://barbare.cocolog-nifty.com/blog/2009/07/post-b0ed.html
・東トルキスタン共和国(ウィキペディア)
 http://ja.wikipedia.org/wiki/%E6%9D%B1%E3%83%88%E3%83%AB%E3%82%AD%E3%82%B9%E3%82%BF%E3%83%B3%E5%85%B1%E5%92%8C%E5%9B%BD
・東トルキスタン独立運動(同上)
 http://ja.wikipedia.org/wiki/%E6%9D%B1%E3%83%88%E3%83%AB%E3%82%AD%E3%82%B9%E3%82%BF%E3%83%B3%E7%8B%AC%E7%AB%8B%E9%81%8B%E5%8B%95
・東トルキスタン共和国(世界飛び地領土研究会)
 http://www.geocities.co.jp/SilkRoad-Lake/2917/syometsu/higatoru.html
・中国少数民族地域の民族教育政策と民族教育の問題-内モンゴル自治区の民族教育を中心に-(哈斯額尓敦)
 http://www.lang.nagoya-u.ac.jp/tagen/tagenbunka/vol5/hasu5pdf.pdf
・水谷尚子著「中国を追われたウイグル人―亡命者が語る政治弾圧」(文春新書)
 http://www.amazon.co.jp/gp/product/4166605992/hatahata-22/ref=nosim
・東トルキスタン(新疆ウイグル)について(1)資料編(ブログ旗旗)
 http://bund.jp/md/wordpress/?p=2459
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