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飛田新地だけを規制しても何も解決しない

2013年06月21日 22時31分48秒 | 都構想・IRカジノ反対!
さいごの色街 飛田
クリエーター情報なし
筑摩書房


 井上理津子・著「さいごの色街 飛田」を読み終えてから大分経っても、なかなか書評を書く事が出来ませんでした。かつて飛田新地料理組合の顧問弁護士だった橋下徹の慰安婦正当化発言が、嘘と居直りに終始したトンデモな内容なのは、この本を読んで改めて思い知らされましたが、では、そんな「嘘と居直り」にまみれた飛田新地を警察の浄化作戦で壊滅に追いやれば、それで万事解決するかと問われれば、また別の場所で第二の「飛田新地」が生まれるだけで、「いたちごっこ」にしかならないと思うようになったからです。

 「今時の風俗嬢は大半が自由意思の選択によるものだ。昔の様な借金のカタに売られてきたような人は殆どいない。だからもっと積極的に風俗を活用すべきだ」と、橋下徹は言いましたが、それが如何に実態からかけ離れたものであるかは、本書を読めばよく分かります。足かけ12年に及ぶ現地取材を、最初は料理組合幹部へのインタビューから始め、「写真撮影禁止と書いているやろ、せっかく目立たんように商売してんのに、あら捜しみたいな事せんといて」とつっけんどんだった幹部や、最初は疑心暗鬼の目で見ていた近隣の商店主と、長い日数をかけて人間関係を作る中で、著者は徐々に飛田での暮らしや生き様を聞き出し始めます。

 ある時は、人買いのヤクザの噂を聞きつけて、実際に組事務所にコンタクトを取って乗り込み、ヤクザの親分から「飛田に女性を斡旋していたのは昔の事、今は警察の浄化作戦が奏功して手出し出来なくなった」「今は周辺のファッションヘルスや、ホストやパチンコで出来た借金のカタに流れて来る子が多い」との発言を聞き出すや、次はヘルスの経営者にインタビュー。
 またある時は、料亭の求人に形だけ応募して貰うよう知人の女性に頼み込み、若し「客を実際に取るまで帰さない」と言われたら、著者が身代わりに接客するとの交換条件で、面接の現場に潜入。売上は店と女の子で折半だが、客がつかなければ無収入、稼ごうと思えば客を延長に持ち込まなければならない仕組みや、客も使用する和式の共同トイレの蛇口についているホースをビデ代わりに使い回しさせ、年増の風俗嬢ともなれば生理日も脱脂綿で凌いでコンドームなしの営業に勤しまなければならない現実に驚愕。
 時には抱きつきスリの被害に遭いかけたり、酔客に「やらせろ」と絡まれたりもしながら、取材を続けます。

 ところが、肝心の料亭で働いている女の子には、なかなかアプローチが出来ない。そりゃあそうですよね。訳ありでこの仕事を選ばざるを得なかった女の子にとっては、決して自慢できるようなものではない、寧ろ恥でしかないような自分の生い立ちを、どこの馬の骨かも分からないフリーライター風情に、自分から話す気には到底なれないでしょう。
 とうとう著者は、「本にして出したいので、貴方の生い立ちをお聞かせ下さい」と書いた手書きのビラを、飛田中に撒くという奇策に打って出ます。そのビラを料亭に置かせて貰うのですが、「アホちゃうか?」と鼻であしらわれたり、ビラを目の前でビリビリに破かれる店も少なくない中で、ようやく数人とコンタクトを取る事に。そこから元経営者のブログにたどり着く事にも成功。

 そこで分かったのは、誰も好き好んで飛田の風俗嬢になったりはしないという事。親のDVや借金で、中学や高校もまともに出れずに、田舎から出てきて、最初は喫茶店のウエートレスになるも、それでは食って行けずに、スナックやヘルスの風俗嬢に。そこでホストや変な男に巡り合い、子供を産んでも男に逃げられたり、またDVに遭ったりして、最終的に流れ着いたのが飛田でした。或いは、無店舗ヘルスの風俗嬢になったものの、客に首を絞められたりするのが嫌で、まだ警察のお目こぼしもあり身の安全だけは保障される飛田に逃げてきたり。
 そういう女の子にとっては、遅刻や無断欠勤が当たり前で、普通の会社勤めが出来ない子も多い。そんな事にいちいち怒っていたのでは、飛田の経営者は務まらない。そういう女の子を相手にしているので、経営者も勢い「飴と鞭」で女の子を管理しようとする。女の子には高級マンションをあてがい、たまには海外旅行もさせる一方で、客がつかない嬢は人間扱いせず、売上をくすねる女には容赦なく鉄拳制裁を加える。日本国憲法や労働基準法なぞ、どこ吹く風の世界。

 そんな飛田に対して、警察は、店に従業員名簿が常備されているか、ヤクザや麻薬取引が絡んでないか見張るだけ。飛田の目と鼻の先に西成警察があり、新地の入口に交番までありながら。警察が飛田を見逃しているのは、より悪質な派遣ヘルスなどの取り締まりに精一杯で、飛田にまで手が回らないのもあるでしょうが、それ以上に、どうせ取り締まっても「いたちごっこ」になるだけならと、料理組合を通して飛田を監視下に置いた方が、何かと便利だからでしょう。昔の公娼制度と同じ発想です。名簿さえ常備されておれば少々の酷使には目をつむる形式主義も、形さえ合法ならブラック企業でも容認される日本社会の縮図のような。

 結局、風俗の問題も最後は貧困問題に行き着いてしまうのです。一番根っ子にある貧困問題を放置したまま、その上に仇花として咲いた飛田新地だけ規制しても、また別の場所に第二の飛田新地が出来るだけではないか。ちょうど、公園からホームレスだけを幾ら排除しても、根本にある貧困問題がなくならない限り、別の場所にホームレスを押しやる結果にしかならないのと同様に。
 その中で横行する、「ホースをビデ代わりに」とか「生理日も脱脂綿で凌いで」などの人権無視や、それが飛田の中でも大門通りから南の通称「年増通り」「妖怪通り」により顕著に現れているという、風俗内部の差別構造や、その「飴と鞭」の上に胡坐をかく橋下の「合法風俗活用」発言は、決して許されるものではありませんが、では、それを飛田壊滅作戦だけで解決できるのか。他に潰しがきかない子は一体どうやって食って行けば良いのか。

 そう考えると、もう何も言えなくなってしまいました。私ごときが飛田の中に入って「労働組合に入ろう」とアジった所で、多分誰も耳を貸さず、つまみ出されるのが関の山でしょう。「名義貸しの横行で雇われ店主が増えたせいか、女の子を大事にしない店が増えた」と、新地の寄合で漏らしただけで、他の店主の逆鱗に触れ村八分にされて逃げ出さざるを得ないほど、閉鎖的な世界なのですから。その中で、釜ヶ崎以上にガイドブックも避けて通る飛田新地を、ここまで活写できたこの著書は凄いと思うし、そんな、ある意味「反動と奴隷根性の吹き溜まり」の様な「ブラック地域」の料理組合の会館にポスターまで張り出して、毎年新地の中でコンサートを行っている反貧困ラッパー「SHINGO★西成」も、正直言って凄いと思います。

 
SHINGO☆西成 PV 飛田新地


SHINGO★西成 とHOTな仲間たちin飛田新地 pt.1

 この「~in飛田新地」シリーズの動画には、「pt.2」以降の続編もYouTubeに上がっているが、街中の練り歩きシーンは「pt.1」で終わり。西成暴動に敏感な警察が、騒擾を警戒して練り歩きにストップをかけたからとの後日談も。
コメント (3)
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