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成果主義の行き着く先

2015年03月08日 21時38分09秒 | 職場人権レポートVol.3


 久々の「職場人権レポート」記事です。今回は山内さんと信田(のぶた)君の間に最近起こったトラブルについて書きます(登場人物はいずれも仮名です)。
 二人とも同じ物流センターの農産部門で働いています。パックセンターで加工されたカット野菜のケースを、スーパーの店舗別に台車に積んで出荷する作業に就いています(左上写真参照)。元々は二人とも同じ契約社員でしたが、信田君は社員登用試験に合格し、この春からは正社員として働く事になりました。
 正社員ともなると、ただ現場作業をこなすだけでなく、業務改善や作業効率の向上にも取り組まなければなりません。そこで信田君も、個人別作業日報から割り出した作業効率のデータを基に、作業が遅いといわれている山内さんに、「もっと早く作業するように」と発破をかけ始めたのです(右上写真参照)。

 その山内さんですが、確かに遅いのは遅いです。
 それは前述のデータにも現れています。毎日の仕分け物量(ケース数)を作業員の「のべ作業時間」で割った1時間あたりの「生産性」、つまり「1時間で何ケース仕分けできるか」の数値が、山内さんの出勤日と公休日(ピンク色でマーキングした日付)では、30~70ケースほども違うのですから。
 また、同じ様な物量の日同士で比較しても、例えば、山内さんが公休日の2月24日(火)には1193ケースをのべ5.83時間で仕分ける事が出来たのに対し、出勤日の26日(木)では1184ケースを仕分けるのに6.5時間と、0.67時間(約40分)も余分にかかっています(緑色のマーキング部分参照)。
 この作業に携わるのは、毎日午前中に山内さんも含め2~3名だけなので、余計にその差がはっきり出るのでしょう。
 (なお、2月20日以前のデータについては、契約社員の勤務シフト表が私の手元にないので、2月21日以降のデータで比較しています。)

 でも、山内さんにも言い分はあります。
 それは、まずデータ自体がはなはだ大雑把な物だという事です。もとより、この「生産性」データは、個人別に機械で正確に測って出した物ではありません。あくまでも、作業者の事後申告による、うろ覚えの記憶を基に書いた作業時間を、ただ単純に日付別に集計して、仕分け数量をそれで割った物でしかありません。
 このデータから分かるのは、「どの日の作業が遅くなっているか」というだけで、その原因については何も分かりません。例えば、この作業は、ケースをそのまま台車に乗せていたのでは容積がかさばるので、詰め合わす事の出来る商品は出来るだけ詰め合わせて、台車に乗せるケース数を少しでも少なくしなければならないのですが、その努力はこのデータには反映されません。うがった見方をすれば、詰め合わせをサボる事で時間短縮を図る事も出来るのです。
 おそらく、山内さんも自分が他人よりも作業が遅い事は自覚していると思います。でも、それは山内さんだけの責任でしょうか。例えば、先の詰め合わせの例で言うと、細かな葉物ばかりを先に持って来られて、後で大根や白菜などの大物を持ってこられたら、詰め替えにも時間がかかってしまいます。そういう諸々の要因も絡み合っているのに、そういう事はなおざりにしたまま、自分ばかりが槍玉に上げられたら、そりゃあ誰だって怒るでしょう。

 このトラブルが原因で、とうとう山内さんはこの3月20日で退職する事になってしまいました。既に副所長にも退職の意思表示を行ったとの事です。副所長からは、退職の理由も聞かれなかったそうです。そのくせ、未練たらしく「気持ちは変わらないか?また戻ってくるつもりはないか?」と聞かれた様です。そんな事を聞く暇があるなら、何故、山内さんが退職に至ったのか、再びこの様な退職者を出さない様にするにはどうしたら良いか、考えれば良さそうな物を。
 以上が、山内さんと信田君の間のトラブルの内容です。私は、午前中は別部門の作業に就いていて、山内さんや信田君とは一緒に作業していないので、両者の言い分のどちらが正しいのか、これだけでは判断しかねます。ただ、一般的に言わせてもらうならば、山内さんについては、午前中の作業が遅れると、それだけ午後からの作業にも支障をきたす訳ですから、早く正確にさえ仕分け出来るのであれば、詰め合わせはある程度省略しても良いのではないかと思います。そして信田君についても、ただ「早くやれ」と山内さんを急き立てるだけでなく、「普段は丁寧な作業を心がけてくれて有難う。但し、今日は物量が多いので効率優先でお願いします」と一声かける等していたら、少なくとも山内さんの退職は避けられたのではないでしょうか。信田君はまだ若いのですから、今回の事を教訓にして、今後の仕事に活かせてもらえたらと思います。

 しかし、この程度の事で済んでいたら、まだ可愛い物です。この「効率優先」が更に高じて、下記のアマゾンの様な職場になってしまったら、労働者の健康と生命すら危うくなります。
 以下、ハフィントンポストの記事「『アマゾン物流センターの過酷な労働』BBCが潜入取材」より引用します。

(引用開始)
英BBCは、ネット通販大手アマゾンの物流センターの労働環境について潜入取材を行った。23歳のアダム・リトラー記者が、派遣社員の「ピッカー」として入り込んだのだ。
同記者の取材によると、従業員たちは「想像を絶する」プレッシャーを受けており、「奴隷のように」労働させられている。1回のシフトで17キロメートルもの距離を歩かされ、「33秒に1つ」の割合で商品を集めなければならないという。
物流センターで働く従業員の話によると、その過酷さは「強制労働収容所」並みであり、従業員たちのプレッシャーは、「精神的および身体的疾患」につながりかねないほどだという。
取材対象になった職場は、英国ウェールズ南部の都市スウォンジにあるアマゾン物流センターで、広さは約7万5000平方メートルだ(約2万2000坪で、東京ドームの約1.5倍)。
同記者は、収集すべき商品の指示が表示される携帯端末を手に、台車を押して作業した。この端末には、各商品を探すための制限時間が表示され、カウントダウンされる。また、違う商品を収集すると、スキャナーが警告音を発する。
「われわれは機械、ロボットだ。スキャナーのスイッチを入れ、それを手に作業をしているが、むしろ、私たち自身にスイッチを入れているようなものだ」と記者は語る。「われわれは何も考えずに、ただ作業するだけだ。たぶんそれは、彼らがわれわれを信頼していないからだろう」
スキャナーは商品の収集スピードを監視しており、遅すぎると、訓練を受ける必要があると警告される。10時間半の夜間シフトを終えた記者はこう述べた。「足を引きずりながら、かなりの距離を歩いた。昨夜の歩行距離は17キロメートル弱というところだろう。もうくたくただ。正直言って、一番つらいのは足だ」
「まさに身を粉にして働くという感じだ。しかも、ねぎらいの言葉もなければ、ひと息つく暇も与えてくれない。こんな仕事は初めてだ。信じられないほどのプレッシャーだ」
(引用終了)

 ついでにこれも。
 Amazonの倉庫で働くときの知られざるルール10か条
 1.口紅は使用禁止。(単に風紀を乱すからでなく、口紅も商品として取り扱うから、盗難や横領の予防策として)
 2.原則としてガムも使用禁止。(社内に入る前に既に噛んでいた1粒だけは許可されるらしい)
 3.飲み物は水のみ許可。(実際にフロア監督がチェックするので透明の容器に入れて来る事)
 4.包装紙やテープを使い過ぎない事。(これも実際にフロア監督のチェックが入る)
 5.のろのろと働かない事。(携帯端末で歩行速度もチェックされるらしい)
 6.病気にかからない事。(インフルエンザにかかっても有休も使えないのか?)
 7.出勤・退勤の猶予は7分。(業務終了後7分以内にタイムカードを押して帰らないとダメ)
 8.私語は慎む事。(ただ黙って働けと言う事か)
 9.時計着用は禁止。(これも盗難防止の為だそうです)
 10.遅刻厳禁。(たとえどんな理由があろうとも。1時間の遅刻で1点、無断欠勤は3点減点)
 「上記の10か条は違反をするごとに1点減点され、6点減点になると(6回違反をすると)クビとなります。ちなみに、これら以外の違反についてはポイント減点はないものの、名前とバッジ番号が控えられるそうです。」

 アマゾンには他にも、「3ストライクアウト」(就業規則に3回違反すると即解雇)とか、「1フィートルール」(類似商品は目に届かない所に離して置く)等の独自の社内ルールがあるようです。それが純粋に作業の効率アップや負担軽減と結びついたものである限りは特に問題ないと思いますが、従業員をまるで犯罪予備軍であるかのように見なしたり、労働基準法や労働者の人権を踏みにじるような物であるなら論外です。
 その一方で、物流センター構内の除草用にヤギを飼い、ヤギにも社員証を付けさせて「エコ」だとうそぶいているのですから、どこまで「見てくればかり」取り繕うとするのか。確かに、物流作業にいち早く無人ロボットを投入する等、業務改革にかけるアマゾンの熱意については、私たちも見習わないといけないとは思いますが。


 左はアマゾン市川FC(千葉県)、右は同じく堺FC(大阪府)。FCはフルフィルメントセンターの略で、アマゾンジャパン・ロジスティクス株式会社が運営する物流拠点の事。

 企業経営の立場で言えば、アマゾンほど効率の良いシステムはありません。在庫は全てバーコードで管理され、棚に雑然と並べられてあります。全てバーコードで管理されているので、ジャンル・品目別に整理する必要もないのです。ピッカー(集品作業者)は、携帯端末を見ながら、指示された最短経路で所定の場所に行き、指示された商品を次々と台車に入れていくだけです。しかし、ひたすら歩かされるので、毎日作業していると足が水ぶくれのようになるそうです。
 私が以前働いていたのも、実はこういうアマゾンの様な職場でした。業種は今と同じスーパーの物流センターで、その下請けの契約社員として働いていたのですが、広い構内の中で、ひたすら出荷に追われていました。試しに1日の移動距離を万歩計で測ったら、毎日3万歩以上になっていました。私の場合も、アマゾンほどではないにしても、毎日仕事が終わると、足がパンパンにふくれ上がっていました。


 ちなみに上記が、その当時の職場の同僚が自分のガラケーに保存していた万歩計のデータ。左から順に1日の歩数、歩行距離数、消費カロリー数。これを見ると、前述の記事に出てきたアマゾンの歩行距離とも余り変わらないじゃないか!

 今、安倍政権が、「アベノミクス」や「規制緩和」でやろうとしている事も、こういうアマゾンの様なブラック企業の後押しに他なりません。
 まず、「残業代ゼロ法案」で、労働者をいくら働かせても残業代を払わなくて良いようにします。「対象を年収1075万円以上の労働者に限る」と言っているのも今のうちだけです。そのうちに、適用対象となる労働者の下限年収を、600万、400万と切下げにかかって来るに違いありません。現に、今の派遣労働も、最初はごく限られた業種だけにしか認められていなかったのに、今ではほとんどの業種に認められるようになりました。
 そして、「派遣労働法改正」で、正社員をどんどん派遣社員や請負社員に置き換えようとしています。私が今働いているのも、この業務請負の会社です。私はそこの契約社員として、前述のスーパーの物流センター業務に携わっているのです。スーパーが命令した事はどんな理不尽な事でも聞かなければなりません。業務請負会社にとっては、スーパーはあくまで「お客様」なのですから。労働条件改善を要求するなぞ、もっての外です。かくして、労働基準法はどんどん骨抜きにされていきます。
 そして、きわめつけが「TPP」です。「TPP」とは「環太平洋経済連携協定」の略です。「貿易にかかる関税を全て撤廃しよう」と言うのが、その協定の中身です。どんなに輸入しても関税がかからないので、農薬まみれの輸入農産物や、アフラックやアリコなどの外国の医療保険が、どんどん日本に入って来ます。
 入って来るのは農産物や医療保険だけではありません。ブラック労働を規制する為の労働基準法も、企業活動の邪魔者として、関税と同じ様にどんどん緩められてしまいます。それに対して、TPP加盟国が労働基準法強化で対抗しようとしても、協定違反の名で国際裁判にかけられ敗訴させられてしまうのです。それと言うのも、協定の目的はあくまでも企業利益の保護であって、労働者や国民の生命・財産の保護ではないからです。安倍政権が加盟を推進する「TPP」と言うのは、簡単に言うと、そういう協定なのです。


 今でも日本の年平均労働時間は米国と並んで(悪い意味で)世界のトップクラスなのに。

 その際に、「残業代ゼロ法案」や「派遣法改正」、「TPP」導入の口実として使われるのが、「これからは労働時間にではなく、成果に対して給与を払う様にしよう」という理屈です。これは、先の山内さんたちの例で言えば、「同じ時間だけ働いても、1時間200ケース以上仕分けできる人もいれば、170ケースしか仕分けできない人もいる。170ケースしか出荷できない人も、200ケース以上出荷できる人も、同じ給料なのはおかしいではないか。これからは、作業にかかった時間ではなく、仕分けしたケースの数に見合うだけの給料を支払うようにしよう」と言う事です。
 そんな事になれば、職場は一体どうなるでしょうか。まず職場のモラルは確実に下がります。「時間当たりの作業量」や「作業時間」と言った目に見える数字でしか評価されないので、数字には表れない「丁寧な商品の扱い」や「掃除、後片付け」等は誰もやらなくなります。
 モチベーションは確実に下がりますから、やがて出荷先の店舗や商品を買った客から、出荷間違いや商品破損のクレームが殺到するようになります。こちらはミス率としてちゃんと数字に出ますから、防止対策が取られるようになります。でも、職場全体のモチベーションが低下しているので、根本的な改善策は打たれずに、その場しのぎの対策でお茶を濁す事になります。実際に、私がずっと前にいたハンバーガーの物流センターでは、自分の後輩がハンバーガーショップの店長をしている事を良い事に、わざわざその店長に電話して、「俺の出荷ミスで違う店の商品がお前の店に行ってしまったけど、後でこっそり返せよ。会社に告げ口なんかしたら承知せんからな!」と、口封じの圧力をかけている契約社員の猛者(もさ)がいました(これは本当の話です)w。

 そうなると、バイトの給料も確実に引き下げられます。だって、いくら1時間170ケースしか出荷できなかった人が180ケース出荷できるようになったとしても、他の人がもっと出荷できるようになれば、人件費の総枠は決まっているので、給与は下がりこそすれ上がる事はまずありません。180ケース出荷できるようになった人が、他の人より余計に給料を上げようとするなら、自分が努力するよりも、他の人の足を引っ張る方が、はるかに手っ取り早いです。かくして、社員同士の足の引っ張り合いが、職場全体に蔓延する事になります。現に、成果主義賃金制度を一旦導入した企業も、そういう理由で、次々と見直しに着手せざるを得なくなりました。
 私は何も「効率なんてどうでも良い」と言っている訳ではありません。いつまでもチンタラ仕事していたら、いつまで経っても仕事が終わらず、いつまで経っても家へ帰れなくなります。そういう意味では、作業効率や生産性の追求も、もちろん大切です。でも、そればかりに汲々としていると、最後には「自分で自分の首を絞める」結果にしかならないと言う事も、頭に中に入れておいた方が良いでしょう。
コメント (2)
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