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これでは何の為の新幹線か分からない

2015年03月18日 22時12分49秒 | 身辺雑記・ちょいまじ鉄ネタ


 さる3月14日に北陸新幹線が金沢まで開通しました。今まで長野止まりだった新幹線が金沢まで伸びたのです。この事により、今まで越後湯沢から北越急行(通称「ほくほく線」)経由でも4時間以上もかかっていた東京・金沢間が、長野新幹線経由で約2時間半で行けるようになりました。新幹線の終着駅となる金沢ではホームの支柱に金箔の装飾が施され、中間駅の富山も高架工事で様相を一変しようとしています。この2つの県都では、既に新幹線開通による観光客増加を当て込んで、ビルの建設ラッシュや地価高騰の兆しが見られると言います。
 しかし、その一方で、並行在来線のJR信越・北陸本線は、この3月14日を境にJRの手から離れ、県境で次の4社の第三セクターに分割されてしまいました。長野県内の「しなの鉄道北しなの線」、新潟県内の「えちごトキめき鉄道」、富山県内の「あいの風とやま鉄道」、石川県内の「IRいしかわ鉄道」の4社です。(上図参照)
 これにより、かつては北陸本線経由で大阪から「北陸」「雷鳥」「サンダーバード」、東京から上越線や信越本線経由で「あさま」「日本海」「つるぎ」等、多くの特急列車が乗り入れていた在来線から、特急が殆ど姿を消す事になりました。大阪から特急「サンダーバード」は金沢止まりとなり、越後湯沢から「ほくほく線」経由で乗り入れていた特急「はくたか」も無くなりました。まだ需要の多い金沢・富山間にはそれに代わる列車が走る事になりましたが、富山より東ではほとんど全ての列車が、富山・新潟県境近くの泊駅止まりとなってしまいました。

 このままでは、かつて東北新幹線が青森まで開通した時と同じ事が起こるでしょう。在来線にはJR貨物も走るので線路自体はなくなりませんが、旅客輸送は最悪なくなるかも知れません。以下、当時の私のブログ記事「鉄道も企業も大都市ネオリベ市民だけのものではない」から引用します。

(引用開始)
 昨年12月の八戸・新青森間開通により、東京から青森まで新幹線で結ばれるようになった一方で、並行して走っているJR東北本線については、盛岡から終点の青森までが、JRから切り離されて、岩手県内は「IGRいわて銀河鉄道」、青森県内は「青い森鉄道」と、それぞれ第三セクターに移管される事になりました。その為に、沿線では下記のような事態になっているというのです。

>開業から3日目、初の平日となった12月6日の朝、駅に入ってきたのは、JR時代の4両編成ではなく、たった2両編成の列車。車内は通学の高校生ですし詰め。病院へ通うお年寄りが列車に乗れず、ホームで立ち往生するほどだった。運賃も大幅に値上げされた。通学定期は据え置かれたが、普通運賃はJRの1・37倍、通勤定期は1・65倍となった。
>「当面は車両や運転本数をできる限り少なくして、輸送効率を高めるしか手がないのでは」(鉄道関係者)というように、縮小均衡以外の改善策は見あたらない状況だ。(引用元記事は2011年1月3日付産経「整備新幹線開業の陰で…どう守る地元の“足”苦悩する沿線自治体」より、リンク省略)

 これが所謂「並行在来線問題」というやつです。これは東北本線だけでなく、信越本線(軽井沢・横川間廃止と、軽井沢・篠ノ井間の「しなの鉄道」への移管)や、鹿児島本線(八代・川内間の「肥薩おれんじ鉄道」への移管)など、全国各地で起こっている問題です。
 何故こんな事態になってしまったのか。それは、1990年の政府・与党合意によって、それ以降に開通した整備新幹線の並行在来線については、不採算区間は全てJRから切り捨て第三セクターとする事で、沿線住民に赤字の尻拭いを押し付けるようにしてしまったからです。しかも、同じ並行在来線でも、まだ比較的採算が見込まれる線区についてはJRにそのまま留め置くという、JRによる「エエとこ取り」まで認めてしまっているのです。沿線住民には自己責任の名でとことん犠牲を強いておきながら。こんな不公正・不公平な話はありません。
(引用終了)

 今回の北陸新幹線金沢延伸に関しては、並行在来線全てが第三セクターに移管され、「JRによるエエとこ取り」は起こらなかったように見えます。しかし、全体的に見れば、JRによる在来線から新幹線への乗り換え自体が「エエとこ取り」に他なりません。新幹線延伸区間のうち、長野から上越妙高までがJR東日本、上越妙高から金沢までがJR西日本の管轄になります。JR東日本やJR西日本にとっては、並行在来線自体が「お荷物」なのです。それは、既に過去にも、JR幹部がゆくゆくは津幡・高岡間や魚津・直江津間の廃止を匂わせるような発言をしていた事からも明らかです。

1990年11月29日
JR西日本が、高岡~津幡間、魚津~糸魚川間を廃線、または経営移管を検討していることが明らかになる。その理由についてJRは、赤字が見込まれることをあげ、第三セクターによる経営を考えてもらいたいとした
12月7日  
県が並行在来線のJRでの継続経営を求めたのに対し、JR西日本角田社長は「並行在来線の経営分離は会社の経営方針であり、継続経営には応じられない」と述べる
(以上「公共交通をよくする富山の会」HPの参考資料年表より)

 しかし、JR幹部にとってはたかが「お荷物」かも知れない並行在来線も、沿線住民にとっては貴重な足であり、地域の大事な資源なのです。
 例えば、富山市には富山地方鉄道と富山ライトレール(旧JR富山港線)、高岡市には加越能鉄道から第三セクターの万葉線に移行した路面電車がそれぞれ走っています。どちらの路面電車も、地元商店街の活性化にとっては必要不可欠な物です。その為に、両市とも、低床式の新型車両投入を支援し駅前広場の整備も図って来ました。ところが、高岡では新幹線は従来の高岡駅前には乗り入れずに、1.5キロ離れた南の郊外に新駅を作る事になりました。新駅と従来駅の間はJR城端線で連絡が取れる事になりましたが、 それでも高岡駅前の客離れは避けられないでしょう。このままでは万葉線も、東北新幹線開通によって在来線の駅に特急が止まらなくなった事で廃止に追い込まれた十和田観光電鉄(青森県)の二の舞になるとも限りません。

 既にその兆候は現れています。北陸本線の三セク(第三セクター)分割化で、JRの「青春18きっぷ」が沿線の支線(七尾線・氷見線・城端線)で使えなくなってしまったのです。これについては、金沢・津幡間と富山・高岡間に限り、途中下車さえしなければ従来通り使えるようになりましたが、今後は整備新幹線の延伸に伴って、このような事態がどんどん広がるでしょう。そしてついには、せっかくの「青春18きっぷ」も、ますます使い勝手が悪くなり、どんどん利用が低迷して行く事になるでしょう。

 それでも、都市部の富山や高岡はまだ良いです。同じ旧信越・北陸本線の第三セクターでも、より人口の少ない過疎地帯を走る「えちごトキめき鉄道」の場合は、JRからの切り離しによって、在来線の存続すら危ぶまれる事になります。同鉄道は、旧信越本線区間(妙高高原・直江津間)の通称「妙高はねうまライン」と、旧北陸本線(直江津・市振間)の通称「日本海ひすいライン」に分かれますが、どちらの区間も冬季は豪雪や強風に悩まされてきました。特に親不知(おやしらず)の難所を抱える後者の区間については、JRから切り離される事で、更なるコスト削減で安全輸送までもが危ぶまれる事態になっています。

 そこまで無理してまで、なぜ新幹線を作らなければならないのかと思います。元々、新幹線は、在来の幹線だけでは輸送需要に対応できなくなったから、新たな幹線鉄道として作られるようになったのではないですか。東海道新幹線や山陽新幹線がそうであるように。それが、整備新幹線として北海道や九州にまで作られるようになるにつれ、当初の輸送量増加(より多く)への対応から、スピード競争(より速く)への対応に、より重点が置かれるようになって行きました。
 しかし、新幹線が作られ始めた頃のように、今まで目的地に着くまで一昼夜や半日近くもかかっていたのが、4~5時間で到着できるようになったと言うなら、まだ作るだけの値打ちはあるでしょう。でも、今やこれだけ新幹線網が広がった中で、残る4時間を3時間に、3時間を2時間にする為に、わざわざ並行在来線を切り捨ててまで、スピードを追求するだけの価値があるでしょうか。それ以上に早く行きたいのであれば、鉄道ではなく航空機を使えば良いのです。その為に安全がないがしろにされるようでは、もはや本末転倒です。
 それに、そこまでしても、新幹線で早く着く事が出来るのは乗り換えなしで行ける金沢だけで、富山や高岡、直江津では、乗り換えの待ち時間まで入れると、次に紹介するように、大して変わらないか、逆に遅くなる場合もあるようなのです。

富山から新大阪へは始発でも間に合わなくなる
これまでは始発のサンダーバード2号に乗れば8時17分に新大阪に着いていたが、このサンダーバード2号が金沢始発となり富山⇒金沢でこれに間に合う電車は現在予定されておらず、始発から乗って間に合うのはサンダーバード4号でもなければ6号となって新大阪への到着は9時19分となってしまう。
つまり、9時からの打合せには間に合わせようと思えば、前乗り、金沢駅までの自家用車に移動してサンダーバード2号に乗車、高速バス等となる。
(以上「ごにょごにょブログ」の「北陸新幹線開業による並行在来線問題に思うこと」より引用)

1.時間短縮効果は限定的
(要旨)東海道新幹線開通以前の「こだま」は東京―大阪間を6時間40分かかっていたそうです。新幹線が開通した翌年の1965年には3時間10分になり、半分以下で3時間30分の時間短縮が実現しました。一方、北陸新幹線は東京―金沢間でも1時間36分です。およそ従来の新幹線のような効果は期待できません。
2.新潟と富山ではお荷物
(要旨)北陸新幹線の開業によって石川県はメリットがあると思いますが、新潟と富山では「お荷物」だと思います。金沢―富山間は59.4kmしかありませんので、新幹線による高速化のメリットよりの乗換時間の増大に伴う遅延の方が大きいと思います。高岡に行く場合はもっと悲惨です。金沢と新高岡で2回の乗換が必要です。結局は北陸の東西の交通は金沢で分断され、北陸の中心は「金沢」に移って行きます。
(以上「めげ猫「タマ」の日記」の「北陸新幹線、開業まで半年」より引用。当該記事にはダイヤから割り出した所要時間の具体的な数値比較も掲載されているので大変参考になります)

 結局、言う程早くはならないのです。それでいて運賃だけは確実に上がります。新幹線は元々割高だし、在来線も赤字必至で乗り換え毎に初乗り運賃が加算されるのですから。だから、前述の「公共交通をよくする富山の会」が、かつて沿線住民に対して行ったアンケートでも、新幹線延伸に必ずしも諸手を上げて賛成という訳ではなく、在来線の三セク分割に至っては大多数が反対という結果になっているのです。
 それでも新幹線建設を強行するのは、次に紹介するように、それが本当に住民の要望から出たものではなく、むしろ政治家や財界人などのゼネコンや地域ボスの思惑から出たものだからでしょう。

新幹線の及ぼす影の部分についてはなにも今に始まったわけではありません。在来線時代には特急が停車し賑わっていた町が新幹線ルートから外れたがために多くの人々の意識から消滅して行きました。一方、新幹線の駅はできても従来の中心地から遠く離れた場所になったため中心部の空洞化が進んでしまったというのも珍しくはありません。今回では高岡や、直江津駅周辺がダメージを受けるでしょう。こうして考えると、新幹線によって本当に光が当った地域ってどれだけあるんだろう、と思います。県庁所在都市の長野、秋田、青森ですら新幹線開業を機に中心部への来街者の減少が顕著になっているとか。いったい、何のための、誰のための新幹線なんだと思います。所詮は人、物、金、情報他ありとあらゆるものを東京に集めるための道具に過ぎないのではないか、と結論付けたくなります。オカミはことあるごとに「一極集中の是正」、「国土の均衡ある発展」などと唱えていますが、実際の政策は真逆を向いているようにしか見えませんね。
(以上、「ホテル&トラベルジャーナル」の「北陸新幹線の裏側から」より)

 「JRと言えども営利企業、採算を無視しては企業として成り立たない」と、よく言われます。でも、その営利企業も経営者の手腕や財力だけで成り立っている訳ではありません。地域の沿線住民あっての企業なのです。そうであるにもかかわらず、駅の無人化に反対する署名が数万も集まったのに、JR西日本はそれを一顧だにする事無く、北陸本線入善駅(富山県)の無人化を強行した事がありました。当時の入善町長がそれを指して、「枝も幹もあって初めて松の木が生い茂るのに、JRは幹だけ横取りして、枝だけを赤字だからと言って我々に押し付けるような真似をしている」と表現していました。幹だけ横取りするようなエゴイスティックな企業に、「住民だけで枝を支えろ」と自己責任論を偉そうに吹聴する資格はありません。
 そんな事も分からないようなブラック企業に、住民の命と暮らしを預ける訳には行きません。今すぐJRを元の国鉄に戻すべきです。並行在来線の存廃問題も、元はと言えば、たとえ儲からなくても国や国民の為に必要なら作らなければならないインフラを、企業の損得勘定だけに委ねてしまったから起こった事なのですから。
コメント (3)
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