先日の記事の件で、国際人権団体アムネスティも抗議の声を上げました。今までアムネスティが人権侵害の対象にしてきた国と言えば、北朝鮮やミャンマーなどでしたが、今回の声明で、日本もそれらの国々と同列に取り上げられるまでになってしまいました。幾ら平和主義や基本的人権尊重を謳った憲法があっても、現実には憲法に反する政治が戦後ずっと行われてきたのですから、当然の帰結と言ってしまえばそれまででしょうが。以下転載。
(転載開始)
2013年2月22日 [日本支部声明] 国・地域:日本 トピック:女性の権利
アムネスティ・インターナショナル日本は、日本軍性奴隷制の問題に関わる市民団体の事務所に対し、憎悪行為を続ける団体の主張にもとづいて家宅捜索が行われたことに対し、重大な懸念を表明する。
アムネスティは、日本軍性奴隷制を生き延びた生存者に対して正義を与えるように、長年、日本政府に求めてきた。国際社会もまた、日本政府に対し、生存者に対する公式かつ適切な謝罪と賠償を求めている。しかし、日本政府がそれに充分応えないまま、政治家らによって、歴史的事実の否定、歪曲、生存者たちに対する非難などが横行し、放置されているのが現状である。
日本軍「慰安婦」制度の生存者の一人、金福童さんを韓国から迎えて2012年9月23日に行われた証言集会は、橋下大阪市長による日本軍性奴隷制の問題を否定する発言をただす趣旨で開催された。しかし、平和的に開催されたその集会に対して、在日朝鮮人など在日外国人の人びとを攻撃し、暴力の扇動や差別的発言を行うことで知られる団体「在日特権を許さない市民の会」(以下、在特会)による妨害行動が行われた。その後、在特会側は、その行動の最中に傷害の被害を受けたとして被害届を警察に提出した。(注1)
集会から半年近くたった2月13日、大阪府警察本部公安部第三課は、この在特会側からの被害届を理由として、日本軍性奴隷制の問題に取り組む市民団体「日本軍「慰安婦」問題・関西ネットワーク」(以下、関西ネット)の事務所など、6カ所に対する家宅捜索を行った。しかし、何ら押収物を得ることなく引き揚げた。翌日、さらに1カ所、家宅捜索された。
国や警察が、差別行為の扇動を助長してはならない
日本は、人種差別撤廃条約の締約国ではあるが、同条約の委員会からの再三の勧告にもかかわらず、条約第4条a)、b)の留保を撤回しておらず(注2)、依然として差別の扇動を処罰するための国内法整備を行っていない。そのため、こうした在特会の行為など、人種差別を助長し扇動する活動の禁止、処罰に向けた対応策を講じる条件が整っていない。国連の人種差別撤廃委員会は2010年に、第4条の留保を撤回することや、同条の差別を禁止する規定を完全に実施するため、日本国内の法律の欠如を是正するよう、日本政府に勧告している。
今回の捜索は、人種差別撤廃条約第4条a)、b)で禁止されている行為を日常的に続けている団体の主張にもとづき、その意図を実現する形で警察が市民団体の活動に対して示威的な介入を行ったと判断されてもやむを得ない。これは、人種差別撤廃条約第2条b)および第4条c)が禁止している、政府当局による人種差別の支持や助長に該当する可能性すらある(注3)。なお、第2条b)および第4条c)については、日本は留保を行っていない。
さらに、日本政府は、自由権規約第19条に基づき、表現の自由についての権利を行使する人びとを封じることを目的とした攻撃に対し、有効な措置を講じる国際的な義務を負っている(注4)。当局が、平和的な集会への妨害行動に対して有効な措置を講じない一方で、国際的な人権問題を否定する政治家の発言に対し平和的に抗議を行っていた市民団体に恣意的に介入することは、表現の自由を脅かすものであり、国際的にも重大な結果を引き起こす可能性のある措置である。
差別禁止法がない現状では、差別行為や扇動を日常的に続ける勢力に対する実効的な対応には限界がある。しかし、人種差別撤廃条約で規定されているように、国や警察が、そうした扇動を助長することはあってはならない。日本政府は、市民が平和的に集会を行う権利を保障し、差別や憎悪を扇動する活動に対して国際人権基準に基づく対応を取るべきである。
アムネスティ日本は日本政府に対し、事件の捜査にあたって、日本が遵守すべき国際人権基準に基づいた適切かつ慎重な対応を取るよう、強く要請する。さらに、自由権規約ならびに人種差別撤廃条約を遵守した職務を行うよう、各警察本部、現場捜査官に徹底するよう求める。また、人種差別撤廃条約第4条a)、b)の留保を撤廃するための検討を速やかに開始し、適切な国内法整備を行うことを要請する。
そして、日本軍性奴隷制をめぐる問題に対して、ただちに国際的な責任を果たすよう、日本政府に強く求めるものである。
注1:同団体はこれまでも、小競り合いを行う中で、たびたび自ら被害届を出し、平和的な主催団体側に対する示威行為を繰り返している。2月に新大久保で行われた、同団体が協賛したデモにおいても「良い韓国人も、悪い韓国人も、みな殺せ」などのプラカードを掲げ、公然と民族間憎悪を扇動して行動する姿が見られた。同団体の活動ではこれまで、京都の朝鮮学校に対する嫌がらせや暴力行為により、有罪判決も出されている。
注2:人種差別撤廃条約第4条a)、b)の条文は、以下を参照
http://www.nichibenren.or.jp/activity/international/library/human_rights/race_convention.html#04
注3:人種差別撤廃条約第2条(b)および第4条c)号の条文は、以下を参照
http://www.nichibenren.or.jp/activity/international/library/human_rights/race_convention.html#02
注4:自由権規約委員会 一般的意見34「19条:意見及び表現の自由」パラグラフ23
http://www.nichibenren.or.jp/library/ja/kokusai/humanrights_library/treaty/data/HRC_GC_34j.pdf
2013年2月22日
公益社団法人 アムネスティ・インターナショナル日本
(転載終了)
http://www.amnesty.or.jp/news/2013/0222_3835.html
(転載開始)
2013年2月22日 [日本支部声明] 国・地域:日本 トピック:女性の権利
アムネスティ・インターナショナル日本は、日本軍性奴隷制の問題に関わる市民団体の事務所に対し、憎悪行為を続ける団体の主張にもとづいて家宅捜索が行われたことに対し、重大な懸念を表明する。
アムネスティは、日本軍性奴隷制を生き延びた生存者に対して正義を与えるように、長年、日本政府に求めてきた。国際社会もまた、日本政府に対し、生存者に対する公式かつ適切な謝罪と賠償を求めている。しかし、日本政府がそれに充分応えないまま、政治家らによって、歴史的事実の否定、歪曲、生存者たちに対する非難などが横行し、放置されているのが現状である。
日本軍「慰安婦」制度の生存者の一人、金福童さんを韓国から迎えて2012年9月23日に行われた証言集会は、橋下大阪市長による日本軍性奴隷制の問題を否定する発言をただす趣旨で開催された。しかし、平和的に開催されたその集会に対して、在日朝鮮人など在日外国人の人びとを攻撃し、暴力の扇動や差別的発言を行うことで知られる団体「在日特権を許さない市民の会」(以下、在特会)による妨害行動が行われた。その後、在特会側は、その行動の最中に傷害の被害を受けたとして被害届を警察に提出した。(注1)
集会から半年近くたった2月13日、大阪府警察本部公安部第三課は、この在特会側からの被害届を理由として、日本軍性奴隷制の問題に取り組む市民団体「日本軍「慰安婦」問題・関西ネットワーク」(以下、関西ネット)の事務所など、6カ所に対する家宅捜索を行った。しかし、何ら押収物を得ることなく引き揚げた。翌日、さらに1カ所、家宅捜索された。
国や警察が、差別行為の扇動を助長してはならない
日本は、人種差別撤廃条約の締約国ではあるが、同条約の委員会からの再三の勧告にもかかわらず、条約第4条a)、b)の留保を撤回しておらず(注2)、依然として差別の扇動を処罰するための国内法整備を行っていない。そのため、こうした在特会の行為など、人種差別を助長し扇動する活動の禁止、処罰に向けた対応策を講じる条件が整っていない。国連の人種差別撤廃委員会は2010年に、第4条の留保を撤回することや、同条の差別を禁止する規定を完全に実施するため、日本国内の法律の欠如を是正するよう、日本政府に勧告している。
今回の捜索は、人種差別撤廃条約第4条a)、b)で禁止されている行為を日常的に続けている団体の主張にもとづき、その意図を実現する形で警察が市民団体の活動に対して示威的な介入を行ったと判断されてもやむを得ない。これは、人種差別撤廃条約第2条b)および第4条c)が禁止している、政府当局による人種差別の支持や助長に該当する可能性すらある(注3)。なお、第2条b)および第4条c)については、日本は留保を行っていない。
さらに、日本政府は、自由権規約第19条に基づき、表現の自由についての権利を行使する人びとを封じることを目的とした攻撃に対し、有効な措置を講じる国際的な義務を負っている(注4)。当局が、平和的な集会への妨害行動に対して有効な措置を講じない一方で、国際的な人権問題を否定する政治家の発言に対し平和的に抗議を行っていた市民団体に恣意的に介入することは、表現の自由を脅かすものであり、国際的にも重大な結果を引き起こす可能性のある措置である。
差別禁止法がない現状では、差別行為や扇動を日常的に続ける勢力に対する実効的な対応には限界がある。しかし、人種差別撤廃条約で規定されているように、国や警察が、そうした扇動を助長することはあってはならない。日本政府は、市民が平和的に集会を行う権利を保障し、差別や憎悪を扇動する活動に対して国際人権基準に基づく対応を取るべきである。
アムネスティ日本は日本政府に対し、事件の捜査にあたって、日本が遵守すべき国際人権基準に基づいた適切かつ慎重な対応を取るよう、強く要請する。さらに、自由権規約ならびに人種差別撤廃条約を遵守した職務を行うよう、各警察本部、現場捜査官に徹底するよう求める。また、人種差別撤廃条約第4条a)、b)の留保を撤廃するための検討を速やかに開始し、適切な国内法整備を行うことを要請する。
そして、日本軍性奴隷制をめぐる問題に対して、ただちに国際的な責任を果たすよう、日本政府に強く求めるものである。
注1:同団体はこれまでも、小競り合いを行う中で、たびたび自ら被害届を出し、平和的な主催団体側に対する示威行為を繰り返している。2月に新大久保で行われた、同団体が協賛したデモにおいても「良い韓国人も、悪い韓国人も、みな殺せ」などのプラカードを掲げ、公然と民族間憎悪を扇動して行動する姿が見られた。同団体の活動ではこれまで、京都の朝鮮学校に対する嫌がらせや暴力行為により、有罪判決も出されている。
注2:人種差別撤廃条約第4条a)、b)の条文は、以下を参照
http://www.nichibenren.or.jp/activity/international/library/human_rights/race_convention.html#04
注3:人種差別撤廃条約第2条(b)および第4条c)号の条文は、以下を参照
http://www.nichibenren.or.jp/activity/international/library/human_rights/race_convention.html#02
注4:自由権規約委員会 一般的意見34「19条:意見及び表現の自由」パラグラフ23
http://www.nichibenren.or.jp/library/ja/kokusai/humanrights_library/treaty/data/HRC_GC_34j.pdf
2013年2月22日
公益社団法人 アムネスティ・インターナショナル日本
(転載終了)
http://www.amnesty.or.jp/news/2013/0222_3835.html