アフガン・イラク・北朝鮮と日本

黙って野垂れ死ぬな やられたらやり返せ 万国のプレカリアート団結せよ!

ウクライナ問題を扱った映画の紹介

2022年03月02日 17時13分25秒 | 映画・文化批評

2004年ウクライナ大統領選挙における州別得票分布。親ロシア系候補ヤヌコーヴィチの票が多い地域を青、親欧米系候補ユーシチェンコの票が多い地域をオレンジで着色。この分断状況に乗じて後者による前者の追い落としが始まる。後者陣営のシンボルカラーがオレンジなので「オレンジ革命」と呼ばれる。

2014年ユーロマイダン革命発生時の首都キエフにある独立広場の様子。こちらは親欧米派(ユーロ)による広場(マイダン)占拠がきっかけなので「ユーロマイダン革命」と呼ばれる。いずれの図や写真もウィキペディアから引用。

興味深い映画を見つけた。「ウクライナ・オン・ファイア」というドキュメンタリー映画だ。「プラトーン」などの映画を手がけたオリバー・ストーン監督が総指揮して仕上げた作品だそうだ。Netflix(ネットフリクス)の動画を誰かがYouTube(ユーチューブ)に上げたものを私も偶然観る事が出来た。

違法ダウンロードの可能性のあるリンクを貼るのもどうかと思ったが、それでも「知る権利」保障の公益性の方が優ると考えたので、敢えてここにリンクを貼る事にした。全部観るには約1時間半もの時間を要するので、出来れば時間に余裕のある時に観た方が良いだろう。

今ウクライナを巡っては、ロシアの侵略ばかりがクローズアップされるが、この映画を観た後は、それが如何に浅薄な物の見方であったか思い知らされた。ウクライナでは2004年のオレンジ革命に続き、2014年にもユーロマイダン革命という政変が起きる。いずれも独裁化した前政権に対する反政府運動が発展したものだが、それを欧米諸国が支援していた。

「欧米諸国が民主化を支援した」と言えば聞こえが良いが、実際には米国CIA(中央情報部)がウクライナ国内のネオナチを扇動して、ロシア系住民に対する虐殺を引き起こしたと、この映画は主張している。この虐殺が引き金となり、ウクライナ東部地域の独立、ロシアのクリミヤ半島併合、ウクライナ東西分裂、現在のロシアによる「独立国家承認」と、ウクライナ侵略に連なる一連の事件を引き起こしたと。そして、ウクライナだけでなく、中東諸国に広がった市民革命の波「アラブの春」など、他国の騒乱についても、CIAが関与したと。

私は、少なくとも「アラブの春」については、そういう側面も必ずしも無きにしも非ずかも知れないが、それでも基本的には独裁反対の民主化運動だと思っている。何故なら、「アラブの春」は左派軍事政権の国(シリア、リビア等)だけでなく親米独裁政権の国(エジプト、サウジアラビア等)でも例外なく起こっているからだ。

しかし、CIAが民主化支援を装いながら、他国の内政に干渉して来たのも、まぎれもない事実だ。例えば、1970年代に南米チリで起こったアジェンデ社会主義政権打倒クーデターにも、CIAが裏で関与していたのは、もはや公然の秘密だ。21世紀に入ってからも、米国政府機関NSA(国家安全保障局)が個人のネット情報を自由に盗聴していた事を、スノーデンが暴露している。

私はこの映画を観て、ウクライナという国の悲哀を改めて思い知らされた。周囲に高山や海などの天然の障壁に乏しく、生じっか大草原の穀倉地帯に国があるばかりに、周辺大国の覇権争奪の場にされ、ずっと内政干渉に晒されて来たのだから。それは次のウクライナ国歌の一節にもよく現れている。

ウクライナの栄光も自由もいまだ滅びず、
若き兄弟たちよ、我らに運命はいまだ微笑むだろう。
我らが敵は日の前の露のごとく亡びるだろう。
兄弟たちよ、我らは我らの地を治めよう。

我らは自由のために魂と身体を捧げ、
兄弟たちよ、我らがコサックの氏族であることを示そう。(国家の引用はここまで)

ウクライナは、1991年のソ連崩壊で、ようやく念願の独立を勝ち取る事が出来た。しかし、その後も大国の干渉は続いた。長年に渡る諸民族興亡の歴史を反映して、ウクライナ国内には様々な少数派集団が地域に分立している。その代表的なものが、東部を基盤とするロシア系住民と、西部を基盤とするポーランド系住民の対立だ。狭義のウクライナ人は、あくまで後者のみを指す。

その住民対立によって、政治も親ロシアと親欧米に二分され、同じような顔ぶれの政治家に政治をたらい回しにされて来た。歴代の大統領・首相の一覧表を見るだけでも、親ロシアのヤヌコーヴィチや、親欧米のユーシチェンコ、ティモシェンコなど、ごく少数の政治家に、政治が私物化されて来たのが分かる。

これではロシア帝国の昔とさほど変わらない。政治は常に親ロシアか親欧米かで争われ、それ以外のテーマは全て蚊帳の外に置かれて来た。ウクライナには、チェルノブイリ原発事故の後始末も含め、早急に解決しなければならない問題が他に幾らでもあるにも関わらず。

勿論、私はこの一事を以てロシアの侵略を免罪する気は更々無い。ロシア政府も、女性ジャーナリストを拉致したり、英国に亡命した元KGB(ソ連国家保安委員会)スパイのリトビネンコを毒殺したりと、冷酷無比である点については、米帝やネオナチとも人後に落ちないのだから。

ウクライナに真の民主主義が訪れ、真の自由や公正、平和を人々が手にする事が出来るようになるのは、一体いつの日になるのだろうか?


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3 コメント

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Unknown (プレカリアート)
2022-03-06 21:28:21
三浦さん、お久しぶりです。お返事が遅くなり申し訳ありません。全然失礼な事はないですよ。だから三浦さんも、今まで通り遠慮なさらずに、ご自身の思った通りのコメントを書いて下されば。

このウクライナの記事については、いつもの「です、ます」調でなく「である」調の文体で書いたので、ひょっとしたら、その事で在らぬ威圧感を与えてしまったかも知れません。実は、最近パソコンの調子が余り思わしくなく、文章はスマホで取り急ぎ作成した為に、こんな文章になってしまったのです。誤解なきよう。

アフリカの独立ゲリラやエチオピアのメンギスツ政権の話題が出たついでに、三浦さんにもお聞きしたい事があります。それはエリトリアの件です。

3月2日の国連総会緊急会合で採択されたロシア非難決議に反対した国の中に、アフリカのエリトリアがあります。他の反対国は、ウクライナ侵略当事国のロシア・ベラルーシや、その友好国のシリア・北朝鮮なので、反対するのも分かります。しかし、エリトリアについては、反対する理由が全く分かりません。

だって、エリトリアこそが、かつて今のウクライナと同じ立場にあった国ではないですか。ウクライナは、ソ連・ロシアの圧迫に苦しめられ、苦労の末にようやく独立を勝ち取りました。それと同様にエリトリアも、エチオピアやそれを支援するソ連の圧迫に苦しめられ、苦労の末にようやく独立を勝ち取ったと言うのに。

ところが、エリトリアはその後、住民に支持されていた筈のイサイアス大統領が独裁化し、独立ゲリラのエリトリア人民解放戦線(EPLF)を御用政党の正義民主人民戦線(PFDJ)に改組してしまいました。そして、エリトリアを「アフリカの北朝鮮」と揶揄されるような独裁政権の国に変えてしまいました。

その上、かつてエチオピアからの独立を目指して共に戦った友党である筈のチグレ人民解放戦線(TPLF)とも袂を分かち、今や旧敵のエチオピア政府を支援するまでになってしまいました。

解放戦線のゲリラ戦士だったイサイアスが何故そんな独裁者に成り下がってしまったのか?そしてエリトリアも、何故そんな独裁国に成り下がってしまったのか?幾ら考えても分かりません。伝えられる情報も限られていて、詳細がさっぱり分かりません。何かご存じの事があればご教示をお願いします。
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後、この映画と (三浦小太郎)
2022-03-02 23:57:14
後、ウクライナに触れるとき、この映画にもストーン作品同様、紹介してくださればと思います

https://www.youtube.com/watch?v=SABgg2Mcjck
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お久しぶりなのに失礼だったとは思いますが (三浦小太郎)
2022-03-02 23:46:38
かって、プレカリアートさんが別名で掲示板をやっておられたとき、思想的立場が違っても寛容に受け入れてくださったことで、今回、ついつい失礼に書いてしまったのかもしれず、そのことはお詫びいたします。

ただここで確認しておきますが、私はソ連体制を全否定しておりますが、ある時期のアフリカ民族運動が、ソ連の支持、KGB、又キューバの支援なくしてあり得なかったことは事実として認めます。それまで、刀と石を武器に戦い、黙って殺されていったアフリカの独立ゲリラに、戦う技術と戦術、そして武器を与えたのはソ連でした。(中国ももちろん行ったんでしょうが)私もそれほど詳しくは知りませんが、アフリカ諸国の独立はソ連の支援なくして語れない面はあると思っています。

ただ問題はその後なんですよね。まあちょっと話外れますがエチオピアのメンギスツ政権なんかは典型で、勝ったあと、それ以前よりひどい抑圧体制になったら意味ないんですよね。

私が言いたいのは、勝つために他国の支援を受けることを100%否定してもしょうがないと思います。もし支援を受けたらそれで傀儡だとか、アメリカやソ連や中国の工作だとかいう、そういうことはあんまり意味がない。問題は、主体がどこにあるか、自分たちが勝利した後の成果ではかるべきなので。そして、私はオリバーストーンの映画がすべて真実とも思いません(もちろんプレカリアートさんもそうは思わないでしょうし)それは、フォーサイスの「悪魔の選択」でウクライナを語る気もないだけで(この小説の前半はウクライナ独立がテーマで、今思えば予言的かも)

お互い、かっては接点がありましたが、今はそれぞれもっと離れてしまったのかもしれませんし、それぞれ信じる方向で頑張っていきましょう。いきなり失礼いたしました。
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