脳機能からみた認知症

エイジングライフ研究所が蓄積してきた、脳機能という物差しからアルツハイマー型認知症を理解し、予防する!

慢性硬膜下血腫で初笑い

2015年01月10日 | これって認知症?特殊なタイプ

お正月に行った伊豆シャボテン公園の写真と一緒に笑ってください。

岩手県のT葉さんからお電話「せんせい・・・」
いつもの声ですが、でも、あれっ何か違う!?
予感的中。
「実は・・・暮れから入院して・・・退院したところ・・・」

びっくりする私に続けられた説明には、またまたびっくりさせられました。

去年11月にお会いした時に、「慢性硬膜下血腫」の話をしていたのです。なんとその「慢性硬膜下血腫」で入院治療を受けていたといわれるのです!

「いやあ。まったくおかげさまでした。あの時よくよく聞いていなかったらこんなに簡単なことじゃすまなかったはず。なんとお礼を言っていいか!」
「命の恩人」とは言われなかったような気がしますが、とにかく大絶賛されました(^^;

 

 

 

 

 

 

 


実は最初の心配は、説明の慢性硬膜下血腫の言葉を聞いたとたんにどこかへ飛んで行ってしまってました。
「なあーんだ。それは暖かくていいお正月でしたね」とのんきに答える私の声に、ちょっと戸惑い気味のT葉さんを感じたものですから
「脳外科では一番簡単な手術って言いましたよね。ちょっと穴を開けて、洗うだけですもの」と続けました。
するとT葉さんも
「そういえば、手術台の上でもうよくなった気がしたなあ。スタスタ歩いて帰ってもいいかって思ったもんな」
このあたりから、いつものT葉さんの闊達な話し方になってましたよ。

「『慢性硬膜下血腫』は頭を打って3か月後ってよく言われるんですよ。1か月後って早いですねえ。ということはT葉さんの脳が若者並にピチピチなので少しの血腫でも脳を抑えたってことかな?」

「あっ、それいただき。ボクはかっこつける方だから、気に入った!」
ほとんど漫才・・・

11月に話した「慢性硬膜下血腫」の説明です。
「頭を打ったその時には、特別何の症状もないのです。CTやMRIを撮っても正常。それがしばらくたった後で、急に変な困った症状が出てくるのです。
例えば、手足に運動障害が起きてくるとか言葉がうまく繰れなくなるとか。もちろんボーとしているとか記憶障害の場合もありますから、『急にボケた』なんて言われることもあります 」

「脳は、頭皮と頭蓋骨で守られています。
そのうえに、頭蓋骨のすぐ下に張り付いている脳硬膜という硬い膜、脳に張り付いている軟脳膜、その間のくも膜という3層の膜で包まれて脳脊髄液に浮いている状態です」

「頭を打った後、血液やら脳脊髄液やらが脳硬膜の下側に少しずつたまって、頭蓋骨があるので外に出られないため血腫を作って行くことがあります。大体3か月程度たったころが多いのですが、ある程度の大きさになると脳を圧迫して、その部分の働きが障害されます。
血腫の大きさが、脳機能を障害してしまうほどになるとドンドン症状は進んでいきます。つまり急に症状が出るといわれるわけです」

「突然症状が起きるから、まさか3か月前に頭を打ったことが原因と思いつかないことはよくわかります。急にボケて恥ずかしいからと受診を先延ばしにすることがないように気を付けてください。
頭を打ったら、3か月後のカレンダーに印をつけておくことが大切ですね」
このようなことをお話ししました。

「ところで、どういうことだったんですか?」

「12月30日。押し迫って、急に足が上がらなくなって。ほんとにその朝から変になったものだから、これは急がないといけないと思って病院へ急いだら、年末なのにうまく連携プレーしてくれて、とんとん拍子に手筈が整って当日すぐ手術。手術台の上で治ったって感じたのはもう言ったでしょ」

「頭を打ったのは?」

「11月末、トイレで気持ちが悪くなって倒れて頭も打ったので、すぐ受診。MRIまで撮ってくれて正常と言われて帰ったけど、妻と一緒に『頭を打ったことは忘れないようにしよう』と言ってたので、12月30日に受診できたんだね」

「今回の事件はもう完全解決。脳の病気をしたから生活を控えめにしようなんて考えないでくださいね。
今までどおりが一番。楽しく皆さんのリーダーでいらっしゃってください」

最近、手術で治る認知症と取り上げられることが多くなったのが、この『慢性硬膜下血腫』と『正常圧水頭症』です。

確かに手術で劇的に治るのですが、注意事項が二つ。
ひとつは、その頻度です。例外中の例外ですから!
「劇的回復と喜び過ぎないでー正常圧水頭症」参考にしてください。
世の中で問題になっている認知症のほとんどが『アルツハイマー型認知症』ということはとても重要なことです。

もうひとつは、家族が「手術で簡単に治る」ことに飛びつく傾向が生まれることです。
認知症の大部分を占める『アルツハイマー型認知症』は、高齢者が何かのきっかけから、生きがい、趣味、交友なく運動もしないナイナイ尽くしの生活を続けるうちに、脳が老化を加速してしまって起きるものです。
つまり生活のあり方そのものが、認知症を作り上げるし、軽いものであれば改善も図れるということを忘れないようにしましょう。

 


若年性認知症の定義

2012年05月20日 | これって認知症?特殊なタイプ

また、新聞記事についてのコメントです。
5/10の日経新聞「らいふプラス」は「若年性認知症 支援徐々に」という見出しのもと、高齢者と区別した若年性専門の支援施設やディサービスが登場。社会参加の場を提供する動きについての記事でした。

今日は「白」をテーマに
2012_0425_135500p1000215私の夫は、法律が専門ですから、いつも「定義は?」と聞かれます。
「人間が対象なので、差が大きすぎて定義なんかできない」と答えると
「定義なしでは、話し合いにならないよ。
だってこの人の言ってることと、あの人の言ってることが、言葉だけ同じ言葉を使って、意味していることがまったく違っている状態だってあることになる。
それじゃあ、意味がないだろう」
と、あきれられます。

厚生労働省研究班のまとめ(2009年)が別枠で解説されていましたので、表にしてみました。
1

1はいいでしょう。
2012_0506_133400p10000192から問題があります。
一応世界のスタンダードとされるアメリカDSMⅣの認知症の定義だと「いったん完成した脳機能が、全般的に衰え・・・」となっています。

脳卒中などの血管障害は、そのほとんどが脳の片側に起こりますから、どんなに大きな障害が残ったとしても、それは後遺症であって、その血管障害が認知症を起こしたのではないということになります。

後遺症を抱えたその後の生活が「ナイナイ尽くし」になれば、二次的に脳機能全般的な低下が起こって、認知症は完成しますが。
血管性認知症の定義をもう一度確実なものにしておかないと、議論も施策も徹底しえないですよね。2012_0506_133700p1000021

さらに記事を読み進むと、疑問がわいてきます。
「65歳以上に多いアルツハイマーと合わせると、全体の3/4を占める」
つまり脳血管性が40%、アルツハイマーが35%だと言っているのですが、アルツハイマーの定義が、またまたはっきりしません。

アルツハイマーは人の名前です。
「アルツハイマー
型認知症」と「アルツハイマー病」は、一昔前までは厳密に使い分けられていました。

2012_0506_133400p1000020「アルツハイマー病」は遺伝子異常による不可避の認知症。このタイプこそ若年発症を特徴とし、さらには進行が早くて2年もたつと寝たきり、意思疎通にも欠ける状態になります。
生活実態がどれほどイキイキとしていても、生きがいを感じながら生きていても、遺伝子異常を持って生まれてきてしまえば、必ず発病するのです。

脳の使い方と認知症の発病には大きな関係があると、このブログで強調していることとは、大きな差があります。でも、アルツハイマー病は非常に稀で、だからこそ世間では認知症は高齢者の病気という認識があるのです。

経過から言ってもこのタイプは、今回の日経の記事にあるような社会参加や就労などは、絶対に無理なのです。

2012_0506_135400p1000024アメリカでアルツハイマー病を「アルツハイマー病早発型」、ふつうのアルツハイマー型認知症と呼ばれていたものを「アルツハイマー病晩発型」という表現に変えてから、余計ややこしくなりました。

本来の若年性認知症は、遺伝子異常のタイプアルツハイマー病を意味しています。

アルツハイマー病は、今回の記事のように社会参加や就労を問題にしてあげたくとも病気の進行が速すぎて、なりえません。
その意味では、この脳血管性認知症でないという意味の「アルツハイマー」は、あいまいさゆえに間違っていないということになりますね。

2012_0220_142000p1000050このブログ右欄のカテゴリー「これって認知症?特殊なタイプ」をクリックしてみてください。
側頭葉性健忘や感覚性失語症や左脳や右脳に限局された変性疾患(アルツハイマー病よりも稀)や、いわゆる手術で治るとされる正常圧水等症や慢性硬膜下血腫などの二次性痴呆の例がいくつか挙げてあります。
この中の「若年性アルツハイマー型認知症」は去年の伊東市主催の講演会でした。このような病名をつけられていても、実際は記憶障害だけの側頭葉性健忘であって「認知症」ではないのです!

定義をはっきりさせないと、世の中の混乱を招きます。テレビ番組の認知症の特集でもこの特殊なタイプ(特に側頭葉性健忘)が取り上げられていることが多く、ふつうの認知症のお年寄りを介護している家族の心境を思って、いつも心を痛めています。




ちょっと残念。ほんとに「うつ病」か???

2011年10月11日 | これって認知症?特殊なタイプ

久しぶりに、N保健師さんから電話がありました。

N:「ちょっと気になることがあります。『最近どうしても意欲が出ないんです。畑仕事をしていても途中から帰ってしまうんです』という訴えで相談にみえた方がいるのですが・・・」

私:「意欲低下は、脳の老化が加速されていくときに一番最初に自覚される症状ですよね?」
(つまりボケはじめは物忘れではなく意欲低下です)

N:「はい・・・。それが・・・。」

私:「テスト結果は?」

N「:「MMSは合格。想起はマイナス2点でした。前頭葉テストは、かなひろいはすれすれ合格。立方体模写は描けていましたが、動物名想起が5個だけだったんです」

私:「それで、30項目問診票の結果は?」

N:「それが1~10に2個だけ・・・」

私たちの右脳訓練に東京へ行きました。まずはお台場2011_0925_130500p1000032 2011_0925_144100p1000036        メキシコフェア開催中

私:「そうすると、脳機能検査も生活実態も正常ということになりますね。でも、なんとなく違うと思ったんですよね?」

N:「はい。どうしても小ボケのようでしたから、生活歴を聞いたんです。そうしたら去年の春、お姑さんを亡くされていて・・・」

私:「それで生活がどう変わったのかがカギですねえ。楽しめるようになったの?」

レインボーブリッジの間から見える東京タワー2011_0925_134400p1000033 2011_0925_134400p1000034             スカイツリー

N:「それが、もともとこの方はまじめでがんばり屋で世の中のお手本みたいな人なんです。

当然、お姑さんには尽くすべきだから、後ろ指さされることがないようにしっかりやってきて無事に見送ったわけです。
そうしたら、することがない!
趣味とか遊ぶとかはこの人の辞書にはないのです。することが思いつかないので何もしなかったとご自分で言っていました。
ご主人の話だと、暇があれば寝ている。家事はできるんだけど自分が代わりにやっている。多分あまりにも手際が悪いんだと思います」

私:「生活歴から言うと、ボケ始めてもおかしくないと思ったのですね」

N:「それと、なんとなく全体的な印象もちょっと覇気がないというか、しゃっきりしていないというか。聞かれたことには答えてくれますが、打てば響くような感じがないというか。もとがしっかりした人だっただけに違うんです」

夕映えのお台場2011_0925_174500p1000039_3
私:「こういう風には考えられませんか?

脳機能検査結果が正常(下限)と安心するよりも、もっと高いレベルからそこまで落ちてきた。

30項目問診票には、防衛的な傾向がある。
普通は、意欲低下で自主的に受診してきたのですから正直に申告しそうなものですが、いざとなるとなかなか赤裸々にできない人もいるでしょうね。
動物名想起が一分間に5個だったら、30項目問診票の「発想がわかない」にはチェックが入らなくては変ですね。発想がわかなければ、自由自在には計画が立てられません。それで1~10に4個丸がつくことになります。

脳機能検査結果と生活実態は限りなく小ボケレベル。生活歴にも納得できるナイナイ尽くしの期間があるとなると、ごく普通の認知症の最早期、生活改善指導の対象と考えるのでいいんじゃないですか?」

N:「そう思ったんですが、念のためにと思って専門医に受診を勧めてしまいました」

私:「あら!病名がついてしまうと生活指導がしにくくなりますよ」

N:「そうなんです。『うつ病』の診断で、薬と何もさせないようにと言われてしまったんです」

私:「夜眠れるかどうか確かめてみましたか?」  

N:「はい、よく眠れるそうです。日内変動(朝の方が具合が悪く、夕方の方が少しは気分がよい)もないし・・・」                   再度、スカイツリー2011_0925_174500p1000040

私:「そこまで確認しているのなら、Nさんは『うつ病ではない』と思ってたということですね。

脳機能検査結果と30項目問診票による生活実態と生活歴の意味するところが一致する場合には、受診を勧める必要はありません。

その理由は、
①生活改善指導の実をあげる
②医療費の削減
③生活改善指導ができる小ボケレベルの患者さんを送って、ドクターを煩わせないなどがあげられます。

もう少し自分の手技や判断に自信を持っていいのですよ」


劇的回復!と喜びすぎないで。正常圧水頭症

2011年08月24日 | これって認知症?特殊なタイプ

この記事は2011年8月にアップしたものです。(レイアウトのずれが直せません)
昨夜フェイスブックを読んでいたら、お母さんが正常圧水頭症からある程度回復した方の投稿がありました。関連していますので再投稿します。

N県T市のK池保健師さんから電話があったのは、夏の直前だったでしょうか。検査は6月16日実施でした。
「急激な変化なんです。娘さんもおかしいっていってます。MMSも変と言えば変だし・・・得点と30項目も合わないようだし・・・とにかく、変なんです」
2011_0824_103400p1000246
言いかえれば、いつも強調している

   A:脳機能検査
   B:生活実態
   C:生活歴

この三つの関係が
「Aもおかしいし、Bとも合わないみたいだし、とにかく急激な変化だって家族が言ってるんです!」

私の回答

「MMSの低下順がおかしいというけれど、たまたま間違ったんじゃなくて実力としても本当にできないのですか?その確認はしてありますか?」
私たちはAの低下順がおかしい時は、まず「検査上の不備があったのではないか」と考えます。再確認やその他の方法を駆使してもなおその項目が本当に能力的にできないのかどうか、確認しなくてはいけません。

→テストの再確認
「30項目と一致しないみたいというけれど、家族関係はチェックしてありますか?ご本人が難しくて関係性が悪いことだってありますね。そうするとより悪い結果になるんですよ」
生活実態とのずれがある時には、「本当に正しく申告されている」ことを確認しなくてはいけません。

→生活実態の再確認
「急に変になったと言うけれど、本当に急なんですか?K池さんがその人をよく知っていて、ほんとに直前まで普通に元気にしていらっしゃったことを知ってるんですか?」
とくに家族は「今までは大したことはなかったのですが、急に変になりました」といういい方をよくします。迷子や不潔行為などちょっとした大ボケに相当する事件が出来した時に、その前にはそれほどのことが起きてなかったという意味で、「急にこんなことになってしまって」というのです。

2011_0824_103400p1000245_3

 

 

 

 

 

 

 


→生活歴の再確認                                   
私たちが高齢者の方から相談を受ける時には、

   A:脳機能検査
   B:生活実態
   C:生活歴

この三つの意味するところがA=B=Cになるというつもりで事を運ばなくてはいけません。
当てはまる確率は95%くらいだと考えていいでしょう。                                                                                       

とにかくA=B=Cになるはずという姿勢が必要です。そのことを私は強調しました。ですから、K池さんの大きな疑問に対して水を差すような言い方を続けたのです。それでもK池さんは「やっぱり、変なんです」と強調します。そこで説明を促してみました。
ツバキの実

2011_0824_103900p1000247_2

 

 

 

 

 

 

 


K池さんの話です。
「家庭訪問しました。
まず、A脳機能検査ですが、前頭葉は全滅で、これはいいですよね。
MMSは15点。時の見当識は1点でした。でもカレンダーを見て答えようとしたりA4版白紙には6月って書けたり、実力がわかりませんでした。もっとおかしいと思うのは想起が1点。しかもヒントを出すと直ちに満点になるんです」

「様子を見ると、うまく歩けないみたいだし、失禁がひどいんです(これは後から聞きましたが、部屋中にパンツが干してある状態だったとか)。ボーとしてるし、春ごろお会いした人と同一人物とは思えませんでした」

「近所に住んでよく行き来のある娘さんとご主人から30項目をつけてもらいましたが、二人で話し合いながら付けてくださった結果は、1から18まですべて当てはまる。さらに25(食事をしたことをすぐに忘れる)27(家庭生活に会場が必要)30(大小便を失敗)に丸が付きます。30はわざわざ小を丸で囲んで小便だけの失敗であることを訴えていました。生活実態とかけ離れてはいないと思います」
「ほんとに急激な変化で娘さんは『何が起こったんだろう?』と泣いていました」
 2011_0824_104100p1000248

「Aの低下順がおかしい。一応A≒Bとは言えるけど、良く検討すると、この点数では失禁は早すぎます。そのうえ、それを説明できるCがない。そうすると二段階方式では、次に何をすることになってますか?」と私が促すと

「受診です」

「そうですね。もう一度ご家族に確認して急激な変化というのが本当に確実になったら、脳外科の受診を勧めてあげてください」

翌々日に脳外科を受診して「正常圧水頭症」との診断が下ったという報告がありました。さっそく入院、少しして髄液を抜くことになったそうです。

先日いただいたK池さんのメールです。
「さて、○○さんですが、今は、以前の生活に戻りつつ、夫も本人も笑顔が見られております。
7月7日 髄液を抜きました。主治医からすぐに効果はでないと言われたということでしたが、『帰りには、なんとなく足の上がりが良くなったように思った』と夫が言われていました。
デイの送りだしに行っているヘルパーさんからも日が過ぎるごと歩行・物忘れが改善されてきたと報告を頂きました。
7月21日、約一カ月ぶりに 訪問して驚きました。杖なく歩け、庭の草取りもしていました。顔の表情明るく、物忘れも感じないようになり感情コントロールもしっかり出来ていました。味付けも前に戻りました。失禁も少なくなりました。本人からも夫からも『脳外科に行って良かった。良い人達と出会えたことを感謝している』と喜ばれました。
現在、転倒防止からリハビリを取り入れたデイを利用しています。
先生には、感謝しております。
髄液を抜いた後、どんどん症状が消えていったので、私もびっくりしています。良い、勉強をさせて頂きました」


2011_0816_142100p1000238_2
最近マスコミでも、手術で治る認知症ということで、今回のような正常圧水頭症や慢性硬膜下血腫が、センセーショナルに取り上げられていますが、知っておかなくてはいけないことが二つあります。

まず最初に知らなくてはいけないことは、その頻度は非常に低いことです。
考えても見てください。このT市で、もうすでに数百人の脳の健康チェックが行われていますが初めてのケースですよ!

もう一つ心しておかなければいけないのは、このように簡単に劇的に改善すると、「どうにかして、うちのおばあちゃんも劇的に改善させたい」と思ってしまう家族が出てくることです。

認知症の大部分を占めるアルツハイマー型認知症(脳の老化が加速されたもの)は、地道な脳リハビリしか改善の道はありませんからね。
それはそれとして、今回のケースは本当に良かったですね。
AもBもCも同じように大切な情報であることがわかっていただけたでしょうか?

 

 

改善とみるか・低下と見るか

2010年06月06日 | これって認知症?特殊なタイプ

質問が来ましたので、皆さんも考えてみてください。
Img_0003_2

脳機能テスト結果は
H21.10 :MMS: 25/30(計算-3・想起-2)
       かなひろいテスト:正答数=0 内容=不可
       立方体模写=不可
H22.4:MMS: 23/30
      かなひろいテスト:正答数=0 内容=完璧
      立方体模写=可

Img_0002

今日は岩月先生が花のPhoto写真を送ってくださったのでご紹介します。

二枚目を読むと、MMSの低下順のおかしさに気付いていますね。
何しろ想起3/3ですよ。
それなのに時 3/5。
正常な老化や、単純な老化の加速ではないことになります。ここが一番おかしいことがわかりますか?

想起が満点の場合は、低下してもおかしくない下位項目は「計算」だけです。(例外的に「三段階口頭命令」で「机上」があります。MMS=29点で出現率7%)
もしこれが実力だとしたら、どう予測を立てていくことになるのでしょうか。Img_0001

質問された方は
「A4版用紙を左側しか使ってない→右側が見えてない→左脳の障害。計算も1/5だし。
ついでに立方体模写=可なので右脳はOK」と推理しました。

A4版用紙の使い方に注目したことは良いことですが、「左側しか使わない」と考える場合は、ほんとに左だけにしか描いてなくて、このように真ん中の立方体・右上の日付がかかれることはありません。

また、左脳障害を考える場合には、テスト項目からだけでなく、検査中の応答まで含めて言語の障害はないのかどうかを考慮しなくてはいけません。

以下の説明はちょっと難しいのですが、頑張って読んでみてください。
脳が見るとき、左視野のものは目に入った時は右側に入ります。
そして左眼の右視野(に入った現実の左視野)の情報と右目の右視野(に入った現実の左視野)の情報は「視交叉」というメカニズムを経て右後頭葉視覚野に到達するのです。つまり今見ている左視野の情報はすべて右後頭葉視覚野に入るということです。
(右視野の情報は、左後頭葉視覚野に入ることになります)Photo

図形を処理するのは、右脳の分担ですから右脳に入った情報の方が処理されにくいのです。右脳障害の時に左半側空間無視はよく見られる後遺症です。(左脳障害の時に右半側空間無視が起きることはとても珍しいです)
古くなりますが、2008年3月14日から「右脳障害後遺症ー右脳が壊れるということ」として続けてブログに書いてありますから、興味がある人は再読してみてください。

MMS下位項目の低下順がおかしい時は、脳の老化が加速されたものではないという観点から解釈していきます。なぜ「時」が3点になるのか?ここが突破口になります。
マニュアルA44Pに解説してあるように、「時」が想定外の低下を起こす時には①心理的な要因は考えられないか(神経症のような場合も含めて)②失語症はないか、この二点の可能性を考えます。
A4版用紙の使い方にはちょっと変わったところが見受けられますが(書き順)、それが神経症レベルまでとは考えにくいでしょう。
失語症もなさそうです。Photo_2

1/20のブログ「テストができないということは・・・」に書いたように、正答でなかった場合には、その理由を考えなくてはいけません。
①テスターが悪い
②テスティーの前頭葉が悪い
③テスティーの脳機能に問題がある
④神経症レベル

①か②か・・・
今回のテスト結果をよく見てみるとテスト実施日は22年4月12日だったのですが、「4月17日?」「平成なんか気にしてない」ということで「時」が3/5になったのです。A4版もかなひろいテスト用紙も30項目質問票までもすべて22年4月12日と書かれています。
「時の見当識」がわからないのではなく、ちょっとあいまいにはなっているが、前頭葉が集中を掛けると正答できるレベルということです。限りなく5点に近いということになります

上記の理由②に相当するわけですね。

テスターが、MMSの下位項目の低下順を知っていれば、もう少し丁寧に「時」を尋ねることができたでしょう。Photo_4

二段階方式では、正確に検査をするように皆さんに伝えますが、「正確」というのはその人の本当の実力を知ってあげるという意味です。
今回はより良い点数が実力であったと思いますが、よりよく見てあげなさいというのではありません。

「時の見当識」はどういう風に認識されて生活しているのかを知るために、私たちは検査をするのです。

さてこの方は、前回の検査がMMS=27点、今回がMMS=22点ということで低下と判定することになりますが、「時の見当識」を実力レベルで判定したら限りなく5点になり、そうすると模写のみ減点のMMS=29点。
これではMMS下位項目低下順がおかしいことになりますが、質問にも書かれていたように、一方が六角形で立方体模写ができるという状態なら再挑戦で合格は間違いないでしょう。
つまりこの方のMMS得点は、満点に近いということになります。Img

左が前回のA4版用紙です。
立方体を比較してみてください。
単に「不可」が「可」になったというだけではなく、形も線もきれいになったこと、図形のサイズが大きくなったことまで含めて改善と理解するのです。

前述してありますが、かなひろいテストは前回も今回も正答数=0でした。
内容把握を見てみると前回は「おじいさんとおばあさん・・・・」だったのに対して、今回はパーフェクト!

実態はみごとな改善例ということになりました。
S田さん、よかったですね!(この項続きます) 


 


知的な障害があると・・・

2010年02月10日 | これって認知症?特殊なタイプ

エイジングライフ研究所の二段階方式を用いると、知的な障害を持った高齢者も見つけることができます。

実務研修会を受講してまだ間もないM市U田保健師さんからの質問です。このケースが何例目かを聞き忘れましたが、まだ初心であることは間違いありません。でもよく記録されていましたよ。

近所に咲いている椿の数々2010_0127_115500p1000374 
質問は以下の通りでした。

1.わからない・やれないと感じた問題は、テスターが励ましてもやろうともしない。計算・文を書く・模写・前頭葉テストに関しては
「そういうのはわからん」
「難しいからやれません」
「わからんよう」
を多発されて、A4版白紙には名前だけしか書かれない。
MMS得点は17/30点

2.説明が伝わりにくく「理解できているのかな」と感じることが多かった。

以上の2点が特に気になったとのことでした。2010_0127_115000p1000367

また同行の娘さんの話として
「母は小さいころから奉公に行っていたため ほとんど学校にも行っていなかった。学歴も小学校のみ。読み書きができないから結婚後は父がすべてやっていた。だからできなくて当たり前」と記載されていました。

2010_0127_115400p1000372 さらに、
「母は農業と自動車部品の組み立ての内職もやってきた。今でも、調理などの家事はやれており、家族も困ってはいない。
平成14年に父が脳梗塞で要介護状態になり母が介護してきた。
平成18年に父が亡くなったら外出もせず閉じ込もり状態になっていて、楽しみがない。
こういう生活を続けることはよくないと思うので、どこかに通所をさせたい」という希望があっての面接だったのです。

     本題から外れますが、書かずにはいられません。
     一般の人たちは、認知症の本質を知っていて、
     「これだけ何もしないとボケてしまうかも」と思うのです。
     実に正しいことですよ!

U田保健師さんは、
「勉強をしてこなかったためにMMSが低いと判断していいのでしょうか」と書きながら、どこかでひっかかるものがあったと思います。だから質問してこられたのですね。2010_0127_115300p1000370                               

6年生は、「100-7」ができないでしょうか? 
文が書けないでしょうか?
図形の模写ができないでしょうか?

ちょっと考えればわかることです。
相手(今回は娘さん)の言われたことを大切にそのままに受け取り過ぎると、「勉強をしなかったから」脳機能検査がができなかったことになってしまいます。
今日の日本に住んでいれば、基本的に文盲の方はいないと考えていいのです。
「開拓時代に小学校2年までしか行ってない」人でも、その後の生活の中で、ふつうの読み書きには問題がなくなるものです。
2010_0127_115200p1000369
脳機能検査で正答にならない時に考えるべきことについては
「テストができないということは…」にまとめましたね。

①テスターのやり方が悪い
②被検査者が集中できていない
③被検査者の脳機能に問題がある
例外的に被検査者がふまじめだったり拒否的だったりする場合もあります。

今回は①②③のどれでしょうか?

6年まで学校に行ったのに「できない」のです。「わからない」のです。「難しい」のです。
③ですよね。2010_0127_115400p1000373

私たちは③脳機能に問題があるというときには、「脳に器質的な変化が最近起きた」と考えがちですが、このように生来的に知的な問題があることもあります。
とくに自分の身辺のことはできても社会的な場では、だれかの指示や庇護のもとでないと行動できないレベルのごく軽い知的障害の方は、面談だけではなかなかわかりませんがテストをすれば一目瞭然です。

もっと確実に「生来的」を確認するには、幼い時から学習面での問題があったことや職業歴や家庭生活の状態などを聞きとって、大人になってから前頭葉機能障害があることが分かれば、十分です。

知的な障害がある時の特徴は、「見当識」や「想起」がいいのに、より簡単な下位項目での失敗が目立つと言い換えてもいいのです。
下位項目の低下順が違うときには、脳の老化が加速したとはとらえません。

2010_0127_115600p1000375

この人の場合 、時の見当識は
「平成?・・・わからんよう・・・」でしたが他は満点。
A4版白紙には書けませんが。

想起は2/3。

まさに典型例といえます!

「今後は生きがいディサービスなど定期通所できるように支援していきたい」とU田保健師さんは方向性を示してくれました。
そうですね。関係者にこの方の特徴をよく理解してもらうことが、適切な支援に繋がる必要条件になります。
            


TGA(一過性全健忘)

2009年12月11日 | これって認知症?特殊なタイプ

私が教わっているベトナム料理のNORI先生に起きたことです。
先生は伊東の駅前のレストランのオーナーシェフ(男性)。
ご自身がベトナム料理に関心を持たれて、横浜に勉強に行かれながら私たちに教えてくださっています。2009_1208_144100p1000263

「先日、記憶がなくなって・・・。映像が映らないんですよ。とにかく、まっしろ!」といかにもびっくりした様子でお話ししてくださいました。

もちろん、この辺りの中核病院である順天堂大学病院での診察も済まされていて、「脳は器質的になんともありません。心配しなくてもいいです」と言われたということで、「格別心配はしていない」とおっしゃりながらも、怪訝な顔はうかがえました。

以下は先生のお話です。

・土曜日のこと。夜、お友達からの誘いがあって出かけて、お店をハシゴさせられて(先生はお酒は飲まれません)帰宅はけっこう遅くなった。
・翌日曜日。起床したときなんだか変。
・その状態が「何も映らない。とにかくまっしろ。考えるっていうことは脳にイメージが見えることだとわかった。それが見えないんだから!」

冬桜2009_1128_133100p1000240

同席なさっていた妹さんが言葉を足してくださいました。

「まったくもうどうなってるんだか。びっくりしましたよ」

「でも、お料理はできたでしょ?」という私の質問に

「それがめちゃくちゃ。あっ、そうか料理はできたんです。
ただお客さんの注文の順番がグチャグチャになってたらしく、一番の人の料理が最後になったり、この料理のソースはマスタード、それはトマトソースとか言ってあげないとわからなくなってしまったり。でも確かに料理はちゃんとできましたねえ」

                                  オキザリス2009_1128_132500p1000237
先生。
「その日はパーティが入っていたんだけど、ちょうどレシピを調理台に用意していたので、それを見ながらどうにかこなしたんだなあ。レシピがなかったらもっとパニックだっただろう。何度も何度もレシピを見たらしい」

いつもなら、スイスイと手際よくお料理をこなされる先生なのに・・・
どんなお気もちだったのか。いま一つ聞き取れませんでしたが、実はこのときの気持ちを伝えることができる人はいないのです。(この項、最後に訂正してあります)
オキザリス2009_1128_132600p1000238

Transient Global Amnesia
(一過性全健忘)というのは、前触れもなく突然起きます。
私は、お葬式の後帰宅してという方が二人。パーティの最中に突然、それから洗い髪で電話していて冷たい風が吹いてきたときに突然という方しか知りません。
発作中は、記憶はまったくできませんから、何度も同じことを聞きます。「ここはどこ?」とか「なぜここにいるのか?」「あなたは誰?」
何度教えても「覚えられない」のが症状ですから、何度も聞くことになります。

記憶以外の高次機能には問題がないので、話し方がへんとか、こちらの言っていることが分からないとかはありません。もちろん麻痺などもありません。
ご家族から「お葬式から帰って、行動がいつものようでなかった」と言われたケースも、よく聞くと「いつものように行儀良くなかった」だけでした。
靴をそろえて脱がない。洋服を脱ぎ散らかす。着替えずに寝てしまう。
靴が脱げないわけでも、服が着られないわけでもありません。だから、NORI先生は料理ができて当たり前なのです。
                           イソギ2009_1128_133200p1000241
                           一晩寝たら翌日は治っているのです。本人も家族も「キツネにつままれたみたい」ということになります。
それから、発作の前のことを忘れる逆行性健忘があります。
これはだんだんに回復してきます。
先生の場合も
「土曜日のことははっきりわかるところとあいまいなところがあった。火曜日に友人と話していたら、突然土曜日の絵が見えてきた」と逆行性健忘からの回復をお話ししてくださいました。
キャットテール2009_1128_133200p1000242
もうひとつのエピソード。
・土曜日、ハムを頼まれて仕入れ、冷蔵庫に保管した。
・日曜日、そのお客さんが来店したので渡した。
・月曜日、ハムを仕入れたことは覚えていたが、冷蔵庫にしまったことは思い出せなかった。(逆行性健忘)
・月曜日、お客さんに渡したことを全く覚えてなかった。
・月曜日、冷蔵庫を見るとハムがない!どこにしまったか(ということは仕入れたことは覚えている)わからずに、そこらじゅうを探しまわった。
・今も、ハムを渡したこと自体は思い出せない。

患者さんの言葉に耳を傾けることで、病気の理解は深まります。
医学書の解説はあくまでも左脳の理解を促すものであって、それを実際のケースに適用しようと思えば、より具体的なイメージがなければ躊躇します。
体験することが最上ですが、病気はなかなかそうもいきませんので、患者さんの言葉に耳を傾けて、どのような状態を伝えたがっているのかをわかろうと努力しなくてはいけません。
CT・MRIがない時代は、いかに症状を的確に理解できるかが脳の病変の個所に到達する方法だったそうですよ。

もうすぐ88歳の先生のお母さま。ビーズづくりはプロ級2009_1208_144000p1000262
TGAは後遺症を残しません。
発作中だけ、ちょうど記憶のざるの底が抜けてしまった状態と言えばいいかもわかりません。
NORI先生は「それはわかりやすい!そんな感じ!」と言われました。
繰り返すことはゼロではないそうですが、そのたびに記憶力が衰えていくものでもありません。
つまり、過ぎれば終わり。

もし、まんいちTGAの方に出会ったらそのことを良く伝えてあげないといけませんね。

ここからはブログを読まれた先生からのコメントです。
「発作の最中は、大変なことが起きている。これからどうしよう。という気持ちでいっぱいだった」
(この感情の記憶ははっきりと刻み込まれているということになりますね!)
「発作中にバイクに乗って肉をとりに行ったのに、途中で落としてしまった。何をしに行ったんだろうかと一生懸命考えるのだけど、朦朧としてなかなか考えがまとまらない。そのうちにあっ肉屋だったとわかったけど、そんな時も何が起きているのだろうと不安感が押し寄せた」
「本当に、普段は考えるときには映像が浮かぶのにその映像が消えてつかみどころがなくなってしまって、考えようと思ってもそのすべがない感じ・・・」

発作中の出来事はあいまいでも、その時々の感情は十分に刻み込まれていることを教えてくださいました。
NORI先生ありがとうございました。勉強になりました。


癡狂→癡呆→痴呆→認知症→?

2009年04月09日 | これって認知症?特殊なタイプ

何と読むのかしらと思ったでしょ?癡狂(ちきょう)です。

明治になって、第三期梅毒などで知能が障害され、脳の高次機能が荒廃した状態を表す言葉Demenz(ドイツ語)を「癡狂」と訳した。大正に入って「癡狂」という言葉はあまりにもひどい言葉であるという反省が生まれ「癡呆」に改められた。癡が新字体の痴にかわって最近までずっと使われて来た。

痴呆という言葉もひどい言葉である、差別用語であるとの反省が生まれ、2004年に厚生労働省が、行政用語としての「痴呆」は「認知症」に改める事を決定、学術用語としての「痴呆」は各学会の判断にゆだねることとした。

以上は「アルツハイマーワクチン」田平武著からの引用(一部略)です。また再読中なのです。

田平先生は、国立長寿医療センター研究所所長をなさっていらっしゃいますが、前職国立精神神経センター時代にしばらくの間親しくさせていただいた事があります。
私が浜松医療センター「高齢者脳精密検査外来」に勤務していた頃、当時は年間2000人を超す外来患者さんが受診なさっていた、名実ともに日本で突出した「ボケ外来」でしたが、丁度その頃のお付き合いでした。

遺伝子に原因があると思われる「若年性アルツハイマー病」の患者さんの遺伝子検索を、田平先生にお願いしたのです。
田平先生は、珍しい患者さん達の連絡を差し上げると、またとない患者さん達に会えるので喜んでいらっしゃったものです。
お話の端々からご自分の研究の成果が上がるということは、社会のためになるという基礎医学者らしい熱い思いを感じたものでした。
そのなかから、「従来日本人には発見されていなかった遺伝子異常が確認され、アルツハイマー病を引き起こす遺伝子には人種の差はない」という報告もなされたと聞きました。

でも、今日は感想文ではなくて、「認知症」という用語のことをちょっと書いておこうと思います。

厚生労働省が用語を改めたのは、上述の理由は勿論あると思いますが、ボケの早期発見、早期治療。出来ればボケさせたくはない。などの理由があると思います。膨大な老人医療費、介護費を考えると当然でしょう。

さて「認知症」ですが、田平先生の御本からの引用を続けます。

認知症という言葉遣いは日本語として正しくない事は多くの人が指摘している通りである。すなわち臓器に「症」をつけてその臓器の病気をあらわす使い方がある。脳症、筋症、関節症などである。また、貧血や高血圧といった状態につけて病気を表す場合もある。しかし、認知や判断、思考などの機能に「症」をつける例はない。

まさにその通り!日本語として変です。
それにも増して、二段階方式を理解している人たちならば、どうしても気が付かなくてはいけないことがあります。
脳の老化が加速されていく事がボケの本態であり、その時最初に障害される脳機能は、前頭葉機能ですね。
「認知機能」は、脳機能から言えば、いわゆる後半部の機能なのです。これは中ボケになってはっきりと低下が明らかになるのです。
つまり「認知」にこだわっていたら、ボケの早期発見は出来ないということになります。
せっかく言い換えたのに...

以上が私の講演会の演題に相変わらず「認知症(ボケ)は防げる治せる」と表現してもらう理由です。

田平先生は面白い事を言われています。
「ぼけ」というのは物事の状態や輪郭、境界がはっきりしないこと、曖昧(あいまい)であることを言う。「曖(あい)」も「昧(まい)」も暗い、はっきりしないという意味であるから、これに精神や神経の機能をあらわす「神」をつけると「曖神(あいしん)」または「昧神(まいしん)」という言葉ができる。...略...「昧神」ということばを使うことを提唱する。

 

 

 


北海道便りー岩見沢市(緩徐進行性失語発見!)

2007年10月24日 | これって認知症?特殊なタイプ

久しぶりに北海道に行ってきました。(今日の写真は旭山動物園のものです
.まず、新千歳空港から岩見沢市へ。
ちょうど脳のイキイキ検診の当日に当たっていました。
ふたりいらっしゃっていて、今日始めての方のところに同席しました。娘一家と二世代住宅に住む70歳過ぎの女性でした。
相談のきっかけは、コーラスサークルの仲間が、「一回保健師さんに相談してみたら?私も一緒に相談を受けるから}と勧めてくださったというのです。
P1000007 結論を言いましょう。
見事に小ボケレベルの方でした。
いくつかの会社の経理の仕事を一手に引き受けてやっていたのに、会社の事情もあり、ご自分の年齢のこともあって、次々とやめてしまわれたというのです。それが3年前。
ご主人が亡くなられた後始めたダンス(こういう生き方に注目)も、ずーと続けていたのですが、昨年末から足が痛くなって中止。
検査→30項目→生活指導と順を追ってすすみますが、「お仕事やめてダンスもやめて、脳の元気がなくなってますよ」という言葉に対して「やっぱり。これではいけないと思っていたんです。そうですよねえ」
脳リハビリとして絵手紙教室と水中ウオーク、この二つは保健師さんが具体的参加方法まで話してくれました。それに札幌へのショッピングを勧め一件落着しているところに、もう一人の方が、「半年前に時=5点だったのに今日は0点」という情報が飛び込んできました。
P1000009_2 これまた結論を言います。
緩徐進行性失語。マニュアルCを参照
今ひとつ「失語」という確信は持てなかったようですが、半年前の指導でも、「専門医受診」となっていました!
今まで私の係わった緩徐進行性失語のかたは、全員が入力障害のパタンをもっていましたが、この方はとてもしゃべりにくく(発語障害)、ほんとに言いたいことが言えないのです。
にもかかわらず、「現在、兄弟または親戚(このあたりははっきりしません)が今にも死にそうなので、妻への説明はもう少し先にしてください」ということを一生懸命伝えるのです。
その気配り振りに、居合わせた保健師さんたちは「MMSの点数が低くてもボケじゃない・・・」と顔を見合わせていました。
岩見沢到着が2時半。出発が6時前。あわただしかったのですが充実した時間でした。

保健センターを飛び出す際、書類を忘れて、石井さんにお手数をかけてしまいました。m(^。^)m


さようなら、Hさん

2007年08月29日 | これって認知症?特殊なタイプ

Hさんの訃報が届きました。
「ほんとうに、お疲れ様でした。どうぞ安らかにお眠りください」と、ご逝去を知らせて下さっている電話の声を聞きながら心から祈りました。

200708291604000 初めてお目にかかったのは平成14年、場所は地区公会堂、ボケ予防教室の会場でした。
その町の保健センターは、「地区を選定して、それぞれの地区にひとつずつ教室をたち上げていきたい。そして自主的に継続していくようにしたい。ボケ予防は正常者から!」という大きな夢を持っていました。
その最初のモデル地区でした。

エイジングライフ研究所として指導したことは「まず脳機能テスト。そしてテスト結果を基にした生活実態の確認や生活歴に言及した生活指導が不可欠。テストなしでは、単なるお楽しみ教室になって、自主活動は夢のまた夢」ということでした。

その教室の開講式の日、何しろ「テスト」を実施するのですから、保健センターのスタッフの皆さんも、緊張感が隠せません。
私も、テスト結果を基にして生活指導を手伝っていました。

テストの担当者が「なんだか普通ではありません」と結果を持ってきました。その時一緒に私の前に現れたのがHさんと奥さんでした。
お二人ともセンスのよいおしゃれな服装でした。それから、全体的に漂う雰囲気も上品なもので、純農村地区でしたから、それはちょっと違和感を覚えるほどでした。

MMSを一読して「これは失語ですね」とテスターに小声で説明しました。
時の見当識は正答なのですが、どうもやり取りがギクシャクしています。
一番の特徴は三段階口頭命令が零点。一文ずつ言っても理解できない点でした。
もちろん模写は完璧です。

活実態は、奥さんは「前とは何か違う。何か起きている」ことは十分に承知していました。
「耳が遠くなったように思えませんか?」という問いに
「そういえば、なんだかトンチンカンなことが多くて」
もともとおしゃれな方だったことを確認したあとで
「今でも、おしゃれでしょ?」と問うと
「ハイ。着るものも気に入ったものがちゃんとあります。ヒゲも丁寧にそります」
MMSの成績が悪いのに、それに比して生活実態がよいときに一番に想定
するのが失語症です。
ピッタリです。
失語症は脳の器質障害ですから、病気かケガをしなかったかどうかを確認していきます。どんなに確認しても何もなかったというのです。

200708291606000 脳に病気かケガによるダメージを受けていないのに、脳機能に異常が起きる。こういうこともあるのですよ。
皆さんが一番わかりやすいのは、遺伝子異常によるアルツハイマー病でしょう。
左脳の言語野に特定した変性疾患による失語症を「緩徐進行性失語」といいます。
詳しくはマニュアルC94P

Hさんはまさにこのタイプでした。
ところが、Hさんは2年ほど前に退職なさっていました。
ちょっと前に、会合での挨拶で見当違いがあったとのことで、なんとなく「あんなに立派な方でも退職したら・・・」の声がささやかれ始めていたようです。

ところが実際は、退職後にもボランティア活動に精を出し、趣味も楽しむ毎日だったのです。穏やかな性格で皆からも慕われていたそうです。
退職後にこういう生き方ができる人たちにとって、脳の老化は加速されるはずがありません。

なんというタイミングの悪さでしょう。退職なさった頃から、言語野の支障が徐々に出始めてきたのでしょう。
私がかかわった緩徐進行性失語の方は、そのすべてが「感覚性失語」のパタンを持って発症していました。
詳しくはマニュアルC95P
「何を言われているのかがわからない」のですから、日常生活には大きな支障をきたします。
一方で話す力は、まだまだ大丈夫ですから余計にトンチンカンが目立つことになります。
もちろん、専門医受診を勧めました。勧めながら、このように指導
してくださるドクターはいらっしゃるだろうかと不安にもなりました。
そのくらい稀なケースといわれています。
(ただ、二段階方式を導入している町の保健師さんで、この緩徐進行性失語を見つけた方が何人もいることを付け加えておきます)

「世間の人は、『退職後、ボケた』というかもしれませんが、退職後ボケたのではなく、言語に支障が出る非常に珍しい病気になったのです。生き方が悪いのでも、家族の対応が悪いのでもなく・・・」と説明しながら、進行していく病気ですから、早く治療法が確立して欲しいものと痛切に思いました。

あれから5年たったのですね。

5454aa8bbeaa6fda9688b0de91ee1caf
by うーさん(伝説の伊豆高原日記


ブログ村

http://health.blogmura.com/bokeboshi/ranking_out.html