脳機能からみた認知症

エイジングライフ研究所が蓄積してきた、脳機能という物差しからアルツハイマー型認知症を理解し、予防する!

「前頭葉機能」がリエゾンしてる―エカテリーナさんのライブ

2023年08月11日 | 前頭葉の働き
友人からお誘いがありました。
「備屋珈琲店のライブに行きませんか?日曜日と月曜日の15時から伊豆高原在住のエカテリーナさん(ロシア人の歌姫)がエレクトーンを弾きながら、レパートリー豊かな音楽を届けてくださる。語りも素敵なの」と聞けば喜んで行くに決まっています。
ここ2回、前頭葉機能について語ってみましたが、ライブでエカテリーナさんの歌声を聞いて、今回また別の視点から前頭葉機能について考えることになりました。

元々は斎藤真知子さんの「第37回音の宝石箱(二胡の演奏会)」に行って、二胡の大きさの違いやオクターブの差で受ける印象が全く違う…当たり前のことですが、実際に耳で聞いてその比較ができたことが面白くて、身近な生活のなかで前頭葉機能が発揮された具体的なシーンを改めて「比較」してみたのでした。
「比較」の先には「選択」「決断」「軌道修正」と続きます。私たちの生活は、小さい事柄であってもこれらの段階の繰り返しで成り立ってることから、話はポーンと飛んで、小ボケ(前頭葉機能だけがうまく機能できていない状態)の人たちの生活指導の具体的状況をまとめてみました。前頭葉機能が日常生活の中でどのように働くかを並べて、前頭葉機能の理解をしていただくためでした。そして今日は前頭葉を理解してもらう別の切り口でお話してみます。

前頭葉機能が「脳の司令塔」という表現はとても適切です。
人柄の違いを表すときによく言われる「十人十色」ということばがありますね。この色の違いは、前頭葉の違いそのものから生まれるということはどうでしょうか?想像できますか?

以前勤務していた病院で短い間対応した患者さんのことを思い出します。職業は結構有名な歌手です。
事故の後、前頭葉だけにダメージを受けた状態でした。運動麻痺はないし、通常使われる知能検査では合格。つまり左脳は効いているので普通に話したり読んだり書いたりはできるし、右脳も問題がないので着衣食事入浴トイレなど日常生活上にも何の支障もありません。
ただ何かちょっと変…なのです。
私が脳の機能検査をしている時のエピソード。
腕時計を見せて名前を言ってもらう時に「Watch(とても正確な発音)」と答えたので「そうですね。英語で言うとウオッチ(日本式発音)ですね。日本語では…」と言いかけたら「No,no!ウオッチじゃなくてWatch」と言うのです。テスト最中ですよ。やりとりとしていくら正しくても、状況判断は間違っているとしか思えません。こういうシーンが何度も繰り返されました。

脳リハビリの一環として、持ち歌を歌ってもらいました。あの時の衝撃は前頭葉機能を考える時にはいつも蘇ってきます。
音程もリズムも正確。もちろん歌詞も間違えてない。なのに、その人らしさが全然ないのです。
昭和の時代の話ですから、歌手にはそれぞれ持ち歌があって、歌を聞くと歌っている歌手が見えてくるものでした。たとえ、その歌手が他の歌手の持ち歌を歌ったとしても、その歌っている人は誰であるかは当然のようにわかるものでした。
歌詞でもメロディでもなく、歌手の持っている個性が全面に出てくる。これは歌だけでなく、楽器演奏でもプロになるとその人らしさが表現できるものだと思います。むしろそのレベルに達さなければ、どんなに正確に演奏できてもプロとは言えない…

歌に戻って、こういうことを考え始めると、ボーカロイドは避けて通れません。初音ミクの歌を聞いたときに、いかにも作られたものという感じで「まあ、お遊びとしてもすごい時代になってきたものだ!」というのが正直な感想でした。
ところが、美空ひばりが「新曲」を歌うという、AIを駆使したプロジェクトが展開され、その過程も詳しくNHKで放映されましたからご存じの方も多いでしょう。賛否両論。コアなファンは涙を流し、ある人はこれは冒涜だと怒りました。
開発者たちは本当に真摯に「美空ひばりの声」を追求し、結局のところ正確な「声」を再現できても「歌」の再現にはさらなるいくつものステップが必要だということを強調していました。
「歌」を再生するためには、音源としては「歌声」ではなく「話し言葉」の方が適切ということにも興味を惹かれました。「歌声」には多くの美空ひばりさんの技術というかテクニックというか、その時その時にどうしても表現したい、彼女にしか出せない揺らぎがあるのでしょう。その揺らぎを生むのがまさに前頭葉!だから再現には気の遠くなるようなステップが必要だということですね。このプロジェクトは検索してみたら2019年のことでした。

さてエカテリーナさんの歌に戻りましょう。
一曲目の歌声を聞いたときに、「この歌声には秘められた人生がある。多分どうしようもない状況を切り抜けてきたというような…」
二曲目「You raise me up」の後、「皆さんに助けられました」という語り(見事な日本語です)を聞いたとき、「私の感じたものは多分間違っていない」と思いました。
45分間のライブは、バラエティに富んだもので、演じているエカテリーナさんも聞いている私たちも、それこそあっという間の充実した時間を過ごしたのです。
「3か月のつもりで始めたこのライブが、もう2年を超えているのは、すばらしいこと。人とのご縁としか思えません」というようなお話もありました。

エカテリーナさんの「歌声」からはテクニックというより生きてきた人生の悲しみや喜びがにじみ出てくるようでした、
そのことそのものにも感動し、実はそれをキャッチできた私の前頭葉にも、ねぎらいの言葉をかけてやりたくなりました。前頭葉は実際に生活して、その行動や感想を通じて自分で評価して、初めてその経験を自分のものにすることができるものですから。長く生きてきたかいがあったとちょっと思ったのです。
by 高槻絹子








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