自分史 物怖じしない国際人を育てるヒント集

近現代史に触れつつ自分の生涯を追体験的に語ることによって環境、体験、教育がいかに一個人の自己形成に影響したか跡付ける。

敗戦の記憶

2010-07-31 | 家族>社会>国家

金の成る木 6歳-3.jpg終戦の年撮影  6歳「金の成る木」の前で】
1945年5月  
日本の同盟国ナチスドイツの降伏を祝って市民が街頭に出て騒いでいるそうだ。わが家にはラジオも新聞もなかったので口コミによる。
1945年8月
日本降伏のニュースはわが家では話題に上らなかった。
皇国=軍国主義一色の日本人社会は敗戦を信じることができず敵のデマとして封印したらしい。だからわたしには一切記憶がない。
母親が畑でわたしにつぶやくように「日本は神国だから負けるはずがない」と言ったのは数年後のことだった。
日本人社会も終戦は即受け入れた。ただし祝うべき勝利の終戦として。
父母の行動は迅速だった。
日本に凱旋するために苦労の結晶であるコーヒー園をガイジンに即売してしまった。
故郷に錦を飾る。これが移民共有のメンタリティだった。
帰心矢の如し。これが父固有のメンタリティだった。
父は長男でありながら弟妹のために13歳で志願して苦労を重ねた末農場主になったので他人よりも望郷の念が強かった。
だから、これから収穫のヤマを迎えようとする宝の山をみすみす手放してしまったのだ。
買い手が喜んだのは言うまでもない。
わが家は頂上を見誤って中腹で峠を下り始めた。
わたしの人生もとつぜん激動、転変に向かってスタートを切った。