大西洋を渡るのに何週間かかったか覚えていない。
来る日も来る日も島陰一つ見えない大海原の航海は大人にとっては退屈な日々
だったに違いない。
子供たちにとってそれはそれは「毎日が日曜日」だった。
海が荒れても凪いでも朝から晩まで遊びと仲間に事欠かなかった。
アフリカ大陸の南端「喜望」峰は大航海時代の幕開けを告げる命名だったが
わたしには特別の感激はなかったようだ。
いや海鳥が飛び交い鳴き交わすさまはやはり心なごむ光景だった。
船はなぜか接岸せずケープタウンの湾内で船荷の積み下ろしを続けた。
湾の左手に頂上が平らなテーブルマウンテンが遠望できた。
アザラシが1頭毎日船の周りで愛想を振りまき乗客を喜ばせていた。
男たちが釣り糸を垂らしてアジを釣っていた。
大きなアジが簡単に釣れたので刺身にして食べた。
船が処理しないで垂れ流す汚水のことが頭に浮かんで美味しく感じなかった。
当時アフリカ大陸は列強の植民地統治下にあり黒人たちは非道い差別を受け
て貧しかった。
だが船室には外の状況を反映するラジオも新聞もなかった。
情報に関するかぎり船は動く孤島に過ぎなかった。
日本が負けるはずがないという「勝ち組」の思いを載せて船はインド洋に発った。
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