1940年代前後のブラジルは未開のアマゾンにつながるフロンティアのジャングルや「不毛」とされていたセラード、点在する無数の開拓地と近代的大都会で構成されていた。
野生と教養と二分するのは不適切である。
かつて紹介した文化人類学者レヴィ・ストロースは、アマゾンにも文明があった、と言う。『悲しき熱帯』でルポした私が生まれたころのインディオの孤立と零落と悲惨は、植民と開拓の結果だ、と喝破した。そして私の同時代人としての存在もそれと無縁でないのだ。
ジャングルの中にも大都会の中にも、そして家族の中でさえ、野生と教養が混在していた。
これから述べる狭い視野で目撃したものから、ブラジルやプリモ一家のイメージを創り上げないでほしい。
このブログの目的はそんなところにはない。
ナイロンが出現するまで絹がファッションの主要素材だった。N農場にもすでに利用されなくなった桑畑があった。
桑の木が伸び放題に伸びて畑は森に変わっていた。
わたしたちはそこで小鳥を射ったり木登りやターザンゴッコをしたりして遊んだ。
桑の実はおやつにもジャムにもなった。
事件は、いや未遂事件はそこで起こった。
プリモ家の兄が5,6歳ぐらいの妹に迫った。
兄はいきり立ち妹は号泣して抵抗した。
わたしは、けしかけるでもなく止めるでもなく、仔犬が飼い主に交尾の真似をするのを見るように、情動もなく、凝視していた。
当然兄は父から折檻を受けた。幅広の牛皮ベルトでしこたま叩かれた。
ガイジン社会は教会のミサで道徳を共有する。Nファゼンダは教会からも学校からも遠かった。
日本人社会は戦後なのに軍国主義の鎧を着けた儒教道徳に支配されていた。
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