ロジャース先生の円熟の歌唱と言えば、バッド・カンパニーの3rdにトドメを刺したい。
円熟ったって、まだ彼は20代だったワケだが。
シルバーのジャケット(CDはグレー)、狼の子供に混じって母狼の乳を吸う人間の赤子のイラスト。
原題は「Run With the Pack」。
以下、収録曲。
【バッド・カンパニーⅢ(Run With the Pack)】
1.リヴ・フォー・ミュージック
2.シンプル・マン
3.ハニー・チャイルド
4.ラヴ・ミ・サムバディ
5.ラン・ウィズ・ザ・パック
6.シルバー・ブルー&ゴールド
7.ヤング・ブラッド
8.ドゥー・ライト・バイ・ユア・ウーマン
9.スウィート・リトル・シスター
10.フェイド・アウェイ
――タイトル曲はシングルカットされて、確か「ロックでつっ走れ」とか言う迷邦題を付けられてスマッシュヒットに終わってたような(この頃は、The Whoの「不死身のハードロック」や「奴らに伝えろ!」とかの迷邦題多かったもんなぁ)。
まぁ、1曲目の「リヴ・フォー・ミュージック」も、シンプルなギターリフにファンキーなベースが被さるロックナンバーなのだが(当然、ロジャース先生のヴォーカルも冴え渡り)。後半のギターソロの手詰まり感が、バンドの過渡期を表わしているかなぁ。
2曲目の「シンプル・マン」は、アコースティック味付けのスロー曲。
「オレはシンプルな人間、土を耕し・・・」といったシンプルな歌詞のシンプルな佳曲。
3曲目の「ハニー・チャイルド」は、10代のコに惚れ込んだ歌詞で。
一転してテンポアップしたロックナンバー。
4曲目の「ラヴ・ミ・サムバディ」は、ピアノ弾き語りから始まる、失恋バラードの隠れた名曲。
作者はロジャース先生。特筆されるのは、非常にシンプルな歌詞。
「誰か僕を愛しておくれ、僕を誰か・・・」「ある処にトンでもない馬鹿野郎が居て、学校帰りに君を待ってて、『ハロー』と言えずに、言っても貰えずに、勝手に傷ついていたのさ・・・」なんちゅうモテない青少年期を送ったオトコにゃ泣けてしょうがない歌詞。
日本人嫁のマチさんや、後期フリーのベーシスト・テツ山内との交流で「英語圏以外のファンにも分かりやすい歌詞」を心掛けたのでは無いか?・・・と思わせる当アルバム。
同曲を歌い上げるロジャースの中低音・高域の声は圧巻で。
どの音域でも魅せてくれるロジャース先生の声には感服するしかありません。
ラルフスのギターソロも切なくて良い。
5曲目(レコードではA面ラスト)の「ラン・ウィズ・ザ・パック(ロックでつっ走れ)」は、乗り良いピアノから始まるスケール感あるロックナンバー。
途中から被さるストリングスも曲を盛り上げる。
「荷物をまとめてオサラバさ。振り返らないよ!」と歌い上げる、ロジャース作曲の しがらみ振り切りトンズラ・ソング。
これまたロジャース先生が甲高く歌う名唱が聴けます。
ここではラルフスも、ハードにバックを盛り立て、ご機嫌なギターソロを聴かせてくれます。
6曲目は、これまた隠れた名曲「シルバー・ブルー&ゴールド」。
美しいピアノの調べ、キラキラ輝くようなギターの旋律、安定した音程で聴かせるロジャースのヴォーカル。
微妙に変わる曲調(この辺は1曲に3曲分もメロディーを盛り込んだ全盛のマッカートニーさんに通じる)。
アルバムのハイライトとも言える同曲、これまた作者はロジャース。
今回の「クイーン&」で演奏しても、観客は曲の良さに驚いたんじゃないか?・・・なんて思わされる出来に感服。
7曲目は、黒人R&Bグループ・コースターズの曲「ヤング・ブラッド」。
余裕タップリのカヴァー。
ロジャース先生も、フリー時代の黒々とした歌声(ホントはアレが好きなんだよな)とは別の真っ当な歌いっぷり。
ただ、捻りの無いカヴァーっぷりには、やや物足りなさも・・・。
8曲目の「ドゥー・ライト・バイ・ユア・ウーマン」は、スローなテンポのHow To ソング。
「女には良くしてやりな、そしたら女も良くしてくれるさ」
・・・これまたシンプルな教訓ソング。
9曲目は、これまたロックンロール・チューンの小品「スウィート・リトル・シスター」。
レコード時代はA面の「ハニ-・チャイル」と対を成す構成(?)だった。
10曲目「フェイド・アウェイ」は、スローテンポの夕暮れ曲。
バドカンには、夕暮れか宵闇が良く似合う。
――こうして見ると、けっこう曲構成が単調な気がするが。
ラルフス作のロックナンバーとか特に。
曲順も「バラード」と「ロックナンバー」が几帳面に交互に並べられた生真面目なモノ。
最初は心地よいが、だんだんと退屈になってくるパターンで(逆にストーンズの「スティッキー・フィンガース」「タトゥ・ユー」のダラダラ曲順に計算抜きな凄さを感じたりして)。
または、フリーの「アット・ラースト」グダグダ曲調に未完の魅力を感じたりして・・・。
しかし、ロジャース作の「ラヴ・ミー・・・」から「シルバー・・・」の三連打は味わい深く。
「ラン・ウィズ・・・」「シルバー・・・」は曲の抑揚も素晴らしいし、やっぱりココは名盤の称号を与えたいと思う次第です。