東京フィルメックス(TOKYO FILMeX)とは、
毎年秋に東京で開催される、作家性ある映画人を育てる事を標榜し、
アジアを中心とした各国の独創的な作品を上映する映画祭。
今回は各監督が来日、上映時に舞台挨拶や観客との質疑応答(Q&A)を
行なった。
上映作品は、コンペティションと、特別招待作品がある。
審査員によってコンペティションから、最優秀作品賞や審査員特別賞、
学生審査員賞が選ばれる。
観客賞もあり、これは特別招待作品も対象となる。
正直、同イベントに来るのはワタクシ初めて。
お目当ては、原一男監督の『ニッポン国VS泉南石綿村』
(Sennan Asbestos Disaster 2017年/215分)
上映場所は、有楽町マリオンの11階にある有楽町朝日ホール。
時間は朝10時から。仕事に都合付けて臨んだ。
以前、「ゆきゆきて神軍」トーク付き上映会で原一男監督が語った新作。
なんと215分の長さで、途中で休憩があるという。
入場前から入り口には列が出来ている。
カウンターではパンフレットが販売されてたので(1500円)、入場の
前に購入。
映画のテーマはアスベスト問題。
大阪・泉南アスベスト工場の元労働者らが国を相手に起こした訴訟を
記録したドキュメンタリー作品で、原監督のカメラが原告団・弁護団、
支援団体の活動を8年間にわたり撮影した渾身の一作。
明治時代から石綿(アスベスト)産業が盛んとなった泉南地域。
石綿により健康被害を被った石綿工場の元従業員や近隣住民たちが、
国を相手に国家賠償請求訴訟を起こした。
奥崎謙三のような「強力な個性」の人物がいない、普通の市民の戦い。
撮影は長期にわたって、映画的な盛り上がりを期待する原一男監督が
焦燥する展開へ・・・。
前知識はその程度。あとは見てみないと分からない。
上映前後に監督・出演者挨拶があるとの事。
出演者というか、ドキュメンタリーだから原告と支援者である。
「怒りの柚岡」といわれる原告男性(けっこう年配だが背すじは伸びて
エネルギッシュ)、「原監督は時に泣きながら私たちを撮ってくれた」
・・・と感謝を述べる女性。
一旦、皆さん舞台袖に去り、上映開始。
「さぁ、2017年の原一男映画」・・・と構えていると、ザラザラした画面、
街の音の中で取られたクリアじゃない音声、そこから車に同乗し他人の
家を訪ねるシーン。
おお、いつもの原一男映画だ!いつものドキュメント映像だ!
*国際映画祭の上映ゆえ英語字幕こそありましたが...。
後は一気に引き込まれた。
監督が「この映画は『ゆきゆきて、神軍』の対極にあるような内容」と
話していたように、強烈すぎるキャラクターは登場しないが、石綿被害
者やその家族と、弁護団たちの「等身大の姿」が迫ってくる。
まずは被害者探しから始まる。
余りにも「泉南地域の石綿労働者が早死にする事は当然」のように思わ
れていたから、それが何かを訴える事であるのかも分からない人が大半
だったのだ。
ただし、亡くなり方の異様さ、その苦しみの壮絶さに疑問を持つ家族、
被害者そのものが原告団として団結し始めた。
その中には「経営する側」も含まれた。
耐熱性・絶縁性・保温性に優れ、断熱材・絶縁材など古くから用いられ、
「奇跡の鉱物」と重宝されてきた石綿。
石綿による塵肺・肺線維症・肺癌・悪性中皮腫など人体への健康被害を
引き起こす事が発覚したあとも、国は経済優先で制限を遅らせ、工場の
空調設備整備を指導し始めたのが70年代、石綿自体の取り扱いを終わら
せたのは2004年。
国家による切り捨て政策を認めさせ、救済を求めるのが「大阪・泉南
アスベスト国家賠償請求訴訟」。
※それを今回初めて知りました・・・。
反発もあった。
貧しき者が石綿紡績のおかげで家族の生活を守り、子供が進学できた、
もう終わった事として、訴える事を拒む人もいた。
淡々とした活動に原一男監督が苛立つシーンもあった。
原告団・支援者・弁護団も、一枚岩じゃなく、それぞれの考えがある。
地裁で勝っても上告が繰り返される。
勝ったとしても、ぬか喜び。長引く裁判の間に原告が次々と亡くなって
いく・・・。
さっきまでスクリーン上でオモロイ関西ノリの言動で笑わせてくれた人。
その人たちの葬式が次々と続く。棺桶から死に顔も映す。
悔しそうな顔にも見えた。
こんなもん、こっちゃ泣くに決まってるじゃないか!
周辺の席でも鼻をすする音がひっきりなしに聞こえる。
*私の右隣には白人女性がいらしたが、彼女も泣いていただろうか...。
「この世界の片隅に」で流した涙とは違う涙。悲しい、悔しい涙。
手法としては剥き出しで叩きつけてくる原一男監督のやりくちはエグイ!
エグイが引き込まれる。
どの手法が偉い、凄いじゃない。それぞれが凄い・・・。
陳情に行くが役人はマトモに対応しない。「上の者を出せ」と喚いても、
戻ってきたら同じ答えを繰り返す。
怒りを覚えたが、それを通り越して笑ってしまった。彼らも哀れだ。
気の毒だ。どうせ上から言われた通りの事しか出来ないのだ。
※役人じゃないけど、私も似たような仕事してるからなぁ・・・
そんな中、強行突破を目論んだり、役人を怒鳴り飛ばしたりするのは
「怒りの柚岡氏」。
弁護士から「そんな事しても逆効果だ」と言われ、仲間同士で一触即発。
原告にも「あくまでルールに則って勝たないと」という、怒りを静かに
燃やす人もいる。
ときに浮いてしまう「怒りの」柚岡さんは、平成の映画界で先鋭的で
あろうとし、力強いメッセージを作品に託す原一男監督そのものとも
通じる気さえした。
※多分に監督はドラマチックな映像が欲しくて出演者を煽り、そその
かす手法を取る。カメラの前では柚岡氏以外の原告も高揚している。
奥崎謙三を暴走させた原一男監督の魔術だ!!
こんなに葬式だらけの映画を、悲惨な死が続くドキュメンタリーを
面白がることが許されるのか!?面白がってイイのか!?
・・・でも、でも面白れぇんだよ!!!
スゲエ面白いよ、原さん!!
(続く)