1979年ロンドンで初演、ブロードウェイでは
リチャード・ギア主演により上演されるなど世界各国で
上演される「ベント」を佐々木蔵乃介さんが挑戦。
第二次世界大戦時のドイツ。
ナチスドイツの支配下の強制収容所を舞台に、
絶望の中でも人間の愛と尊厳を守り抜いた
男性(同性愛者)のドラマを熱演。
世界遺産でもあるアウシュヴィッツ・ビルケナウ
ナチス・ドイツの強制絶滅収容所を訪れたのは、
10年以上前のことになりますが、
冷たい雨の降る9月のことはどの旅よりも
鮮明に記憶する一日でした。
ある意味では、すぐにガス室送りになったほうがラクかもしれない
強制収容所で過ごさなければならない時間。
ユダヤ人だけでなく、最下層に同性愛者など
社会の中でも差別されることが多かった人々がいました。
下層にあればあるほど食料配給量や宿舎の設備、
労働時間などあらゆる面で過酷状況に置かれ、
死亡率も高くなっていったのです。
それでもこの芝居の中では、ユダヤ人なら
肉や野菜の入ったスープを飲むことができたようですし、
処刑されるときにはコートも着ていたし…
これでも人間のすることではないと思いますが、
もっともっと悪い方向へ進んでいく歴史。
これも人間が行った事実であることを忘れてはいけません。
またもや同じ過ちを繰り返すかもしれないし、
もっと酷いことが行われるかもしれません。
狭い場所へ行くと「立ち牢」を思い出し、
壁が迫ってくる感覚に襲われ、息苦しさを感じます。
ガス室も「立ち牢」だった場所も多くの人が処刑された場所も
実際に立ち入ってみましたが、映画「シンドラーのリスト」などの
シーンを思い出して、涙で目も曇ってしまいました。
ですが、展示物はしっかり見てきました。
同性愛者というだけで、多くの人が早い時期に
強制収容所に送られ、亡くなった事実を知りました。
最近はミュージカルを中心に観劇していたので
重苦しくなってしまう覚悟をして行ったのですが、
劇場に笑いも起こるセリフと何よりも佐々木さんのお人柄か
他の出演者の熱演ぶりにも引き込まれて、
これは多くの人に事実を知ってもらうための芝居と割り切れ、
後を引きずることもなく、
上手い芝居だったと劇場を出ることだできました。
生きていくのは楽しいことばかりではないけれど、
家族で食卓を囲むような普通の生活が一番幸せなのだと
早く家に戻りたくて家路を急いだのでした。
作:マーティン・シャーマン
出演:佐々木蔵乃介、北村有起哉、新納慎也、中島歩、
小柳友、藤木孝ほか
世田谷パブリックシアター
東京都世田谷区太子堂4-1-1
2017.7.14