私は、そのとき目の前にあったハーネスACERをみながら、Arminと話を続けた。
Arminは新しいハーネスに取り組んでいるうちに、偶然、二分割フレームハーネスが従来にはない理論でスライド量を押さえながらも起き上がりの良いハーネスを作ることができた。
この効果はもっと研究してみる価値があると、わたしはArminに強く薦めた。
そして、私自身も、これと同じ理論で新しいハーネスを作ってみたいと強く思った。
新しいハーネスを作り出してみたいと思い続けながらも、何度も失敗していた私にとっては、まさに一光の光が見えた気がした。
さらに、Arminが作り出したACERには、他にも優れた長所があることに、私は気がついた。
まず、フレームが二分割になっていることにより、従来よりも大きなフレームが使える可能性があることだ。
ハングのフレームハーネスに使われているフレームは、大きければ大きいほど居住性が良い、つまり、疲れにくいハーネスになる。しかし、フレームが大きすぎた場合、テイクオフ時に足がフレームにぶつかってしまい走れなくなるのである。
また、体の自由度も奪われるため、起き上がりも悪くなり、さらに、おき上がったとき、ハーネス内の体のずり下がりにより、頭の後ろにフレームがぶつかってしまうこともあるのである。
しかし、ACERのような二分割ハーネスの場合、走り始めるとハーネスがグライダーに吊り上げられるため、後ろのフレーム部が上に引き上げられ足にぶつからないのである。
これならば、今までの常識を破る大きさのフレームを入れることが出来、今までのハーネスよりも居住性が優れたハーネスを作ることが出来る。
さらに、フレームを二分割にしたため、パイロットのピッチアングルを飛びながら自由に変えられる機構も、極端にシンプル化することが出来ることにも、私は気がついていた。
それまでは、シングルフレームのハーネスは、尻、もしくは背中でフレームの中にあるロックを解除して、ピッチラインの長さを変更し、ピッチ角を変更する機構があった。
しかし、正直この機構は機械的に動くもののため、トラブルの可能性がどうしても残ってしまい、正直、私は好きではなかった。
そして、Arminが新しく作り出したACERは、前後に張られたピッチラインを、メインラインに取り付けられたピッチトリマーの摩擦力により、ピッチアングルを固定するシンプルな方法が取られていた。
この方法は、尻でロックを解除する方法よりも、はるかにシンプルであり、故障も少ない優れた機構である。
しかし、Arminが作ったこのハーネスのピッチトリマーには欠点もあった。
それは、ACERのピッチトリマーは、鋳造と言われる方法で作られていることである。
この方法の場合、コストはかからないが、しかし、単一の形状のものしか作れず、摩擦力が一つの力のものしか作り出されない。
しかし、このとき、私はすでにこのピッチトリマーも、試作品を50種ほど製作しており、ネジによる摩擦力の変更機構を完成させ、そして、旋盤による1/100ミリの精度で製作可能な、削り出しという工作方法を取っていた。
それにより、本来パイロットの体重に対して微妙に摩擦力を変えなければいけないピッチトリマーを、ACERのものよりも、より完成されたものを作り出していたのである。
上の効果を総合すれば、シンプルで故障も少なく、居住性も高いものを持ち、テイクオフ、ランディング時の体のずり下がりも押さえられる、画期的なハーネスが作れる!!!
私はそのとき、心に火がついたのである…。