アマツバメという鳥がいます。
最も早い速度で飛び、最も高い高度を飛び、そして、最も長い時間を飛ぶ鳥で、寝ながら飛ぶことも出来るそうです。
まさに飛ぶためだけに進化した鳥アマツバメ…。
アマツバメはほとんどの活動時間は雲底、積雲の下で過ごしています。
雲の発生する上昇気流に吸い上げられた昆虫を捕食しているのです。
アマツバメが地上で見られるのは、上昇気流が発生しない雨の日だけ…。
このため「アマツバメ」という名がつけられました。
実はこのアマツバメの巨大なコロニーが、北アルプスの五龍岳の山頂すぐ下の岩壁に存在しているのです。
今回はそんな話をちょっと…。
真夏のその日、北アルプスのハングエリア「八方」は久々の好条件となりました。
(現在このエリアはフライト出来なくなりました。)
夏というものは湿気が多いため、サーマル(上昇気流)が出来てもすぐに雲になってしまい、ハンググライダーの上昇はそこで「打ち止め」と
なってしまうのが定番なのですが、この日は珍しく夏場なのに乾いた寒気が入ってきて、北アルプスを容易にトップアウト出来る好条件だった
のです。
私は仲間と共に先ずはテイクオフすぐ上の「唐松岳」をトップアウトし、まるでノコギリのように尖った稜線を移動しはじめました。
立山や剣岳がすぐに行けそうなくらい近い距離に、その神々しい姿をお見せています。
白馬岳などを見下ろした後、今度は南下してみます。
そして、五龍岳へと差し掛かった時、そこに驚くものをみつけたのです。
五龍岳山頂すぐしたの岩壁で、何百羽というアマツバメの群れに遭遇したのです。
アマツバメたちは、時速60キロほどで飛ぶわたしのハンググライダーを器用に避けて自由に飛び回っています。
良く見ると、その近くの岩肌にはこれまた無数のアマツバメたちの巣があったのです。
どうやら彼らは夏の間、ここにコロニーを築いて子育てをしていたようなのです。
でも、でもです。
ここは北アルプスの五龍岳のほぼ山頂…。
森林限界を超えた高さで生物は極めて少ない世界です。
そして、真夏と言えども夜間はかなり低温になってしまいます。
私はこんな厳しい環境のなかで、アマツバメたちがコロニーを築きたくましく生きているとに驚くとともに感動してしまいました。
後で考えてみると、コロニーがあったのは山の東斜面…。
山岳に発生する強風は、そのほとんどが西風であり、コロニーがあった場所はその風影になります。
さらに東斜面であることから、朝一番から上昇風が発生し、その風が麓の虫たちを運んでくれるのでしょう。
そう考えると、厳しい環境のこの場所も、アマツバメたちにとってはむしろその環境が幸し、外敵が少なく子育てしやすい環境なのかも
しれません。
私はアマツバメたちの飛ぶ美しい姿、そして、かれらの生命力の強さの両方に感動しながら、しばし彼らと共に飛び続けてしまいました…。
あの感動のフライトは一度きり…。
今となってはあの場所に再び行くことは難しくなってしまいました。
しかし、縁があれば、また彼らと飛行を共にしたいものです。
ちなみに…。
アマツバメは、ツバメとは種類が違う鳥…。
むしろハチドリなんかの親戚に当たる鳥なのだそうです。
ツバメと住んでいる環境が似ていたため、同じような体に進化したのだそうです。