先ごろ、熊本県の「通潤橋」が国宝に指定されたそうで…。
私は、この通潤橋って、モノスゴいと思っているのですが、そのことが、今一つ世の中に知られていなかったよう
な気が、ずっとしていました!
今回の国宝指定は、個人的には当然!もっともなことだと思っています。
さて、それではこの通潤橋、どのくらいスゴいものなのか…。
今夜はそんなお話です。
この通潤橋は、今から170年前の江戸時代に作られた水道橋です。
谷を挟んで、反対側の土地に、水を運ぶために作られたものです。
驚くのはその原理…。
逆サイフォンの原理を使って、高いところから、通潤橋の位置で一度下がり…。
再び押し上げて、反対側の土地に水を運んでいます。
この逆サイフォンの原理は、既にこの時代、江戸の町の水道や、兼六園の噴水など、多所に渡り使われていました
が…。
それらと比べ、この通潤橋の工事は、はるかに難易度が高いものなのです。
その理由は…。
強力な水圧に、通潤橋が耐えなければならないからなのです!
水圧は、10メートル下がると、1平方センチあたり1キログラムの力になります。
つまり、上図で言うと、通潤橋の水路の高低差は7.5メートルあるわけですから…。
1平方センチあたり、0.75キログラムの水圧がかかるわけですね!
これ、1平方メートルあたりに換算すると、7.5トンもの水圧で通潤橋を押し広げることになります。
水圧ってものすごいんですね!
通潤橋では、この強烈な水圧に耐える構造として…。
くり抜いた石を並べて接続し、水路としているのです!
石と石の接続は、漆喰を使い、更に、水が漏れないように、内部は特別な漆を使っていたみたいですね!
更に…。
石造りのアーチ橋の形式を持つ、この通潤橋。
実は、あの黒部第4ダム、通称黒4ダムと同じ原理で、その姿を保っているんです!
え!黒部ダムはダムでしょ!通潤橋は橋じゃん!
…。
そんな声が聞こえてきそうですが…。
まあまあ。私の話を聞いてください。
黒4ダムは、よくアーチ式ダムなんて言われいますが…。
これ、はっきり言って間違いです!
黒4ダムは、正確には、アーチ式と重力式の複合ダムなんです!
これ、どういうことかというと…。
アーチ式って、アーチ型にすることにより、水圧を圧縮の力に変えて、コンクリートの負担を少なくすることで、
コンクリートの量を節約でき、経費が安くできるメリットがあります。
しかし…。
アーチ式ダムの場合、水圧が、ダム両端の地盤に、どうしても集中してしまうため、地盤が崩れやすくなるんです
ね!
この欠点を補うため、黒4ダムでは、アーチ式ダムの両端を、重力式に切り替えることにより…。
コンクリートの重さで、アーチ式ダムから伝わる水圧を分散することにより、地盤への負担を軽減しているので
す!
これと同じ原理が、実は、通潤橋にも使われているんです!
アーチを描く通潤橋は、その両側に石の重さが伝わっていきます。
つまり…。
通潤橋の両側は、大変な力で地盤を押すことになるわけですね!
そうなると、両側の地盤は押しつぶされてしまい、通潤橋自体も崩れてしまうことになるのですが…。
そうならないように、通潤橋の両側は、「張り出し」を持った、しっかりした土台が設けられているのです。
つまり、その土台の重さで、通潤橋を支えているのです!
上の写真で、その土台の張り出し部分を見ることが出来ますね!
この考え方が、まさに黒4ダムと、まったく同じなんです!
…。
170年も前に作った通潤橋が、実は、黒4ダムと同じ構造だなんて、スゴいと思いません?
繰り返しますが…。
170年前の土木技術でありながら、最新式の土木技術にも引けを取らない、素晴らしい技術が使われていたんです
ね!
だから、国宝となってしかるべきと、私は思っているのですが…。
少々不満なのは…。
これだけの技術が使われている通潤橋が、やっと国宝になれたなんて…。
その素晴らしさに気付くのが、ちょっと遅かったんじゃないかな?