https://news.yahoo.co.jp/articles/8364ddb6885b4d24903982cbd2dc45f14b220194 11/27(日) 6:02 ダイヤモンド・オンライン
「経営の神様」と評された稲盛和夫氏は、倹約家として知られる。その稲盛氏に対して、同じく倹約家として名高い日本電産の永守重信氏が「ドケチ戦争」を挑み、見事に敗れたという強烈なエピソードがある。その内容をご紹介しつつ、企業経営や家計にとって重要な「お金の使い道」について考えてみたい。(イトモス研究所所長 小倉健一)
● 永守重信氏vs稲盛和夫氏 倹約家同士による「ドケチ戦争」
戦後を代表する経営者、稲盛和夫氏。稲盛氏の経営哲学を世界中の経営者が学んだ。
「稲盛氏に学んだ」と広く公言している経営者の代表格はソフトバンクグループの創業者である孫正義氏、アリババグループの創業者であるジャック・マー氏などだ。その会社が影響を受けていることを意識しているか、意識していないかの問題はあるとしても、稲盛式の経営方法に影響を受けていない会社など、日本にないのではないだろうか。
稲盛氏の発言をつぶさに観察していると、当たり前のことばかりを話していることに気付く。
しかし、経営者に取材すると「当たり前のことだが、自分たちにできていないことばかり」を話しているという証言をたくさん得た。そこで今回は、稲盛氏の著書の中でも「会計」「お金の使い道」について詳しく述べられている『稲盛和夫の実学 経営と会計』という本を基に、家計改善のすべを考えてみたい。
そして、倹約家として知られる日本電産の創業者である永守重信氏が、同じく倹約家である稲盛氏に「ドケチ戦争」を挑み、見事に敗れたというエピソードもご紹介したい。稲盛氏、永守氏の考えから、企業経営にも家計にも大事な「お金の使い道」を探ってみよう。
● 企業経営も家計も 虚栄心による無駄遣いはNG
前述の稲盛氏の著書『稲盛和夫の実学 経営と会計』は、「会計がわからんで経営ができるか!」という稲盛氏の執筆に込めた思いが書かれた帯が巻かれている。加えて、内容紹介として「儲けとは、値決めとは、お金とは、実は何なのか。身近なたとえ話からキャッシュベース、採算向上、透明な経営など七つの原則を説き明かす」と記されてある。
特に、家計改善のために興味深いと思われるのは、第3章の「筋肉質の経営に徹する」という章だ。
章の冒頭には、「誰でも、人間は少しでも自分をよく見せたいという気持ちがある。もし、このような虚栄心が強い経営者であれば、その企業は見せかけだけ飾られた、贅肉だらけのものになるだろう」「経営者が自分や企業を実力以上に良く見せようという誘惑に打ち勝つ強い意志を持たなければならない」という強い戒めの言葉が述べられている。
金融広報中央委員会の「家計の金融行動に関する世論調査[二人以上世帯調査]令和3年調査結果」によると、年収1000万~1200万円未満の世帯で金融資産保有額がゼロの割合は10.8%ある。100万円未満も含めると14.8%にもなる。
高級外車に乗ってタワーマンションで生活、子どもは私立幼稚園に通わせるなどという生活は、年収1000万円程度では絶対持続できないはずである。稲盛氏の警鐘は、このような赤字家計にも通じるものであろう。
● 稲盛氏の“筋肉質経営”の教え 「中古品で我慢せよ」
稲盛氏は、そんな誘惑に打ち勝ち「筋肉質」になるための方策として、第一に「中古品で我慢せよ」と説く。京セラを経営していた頃は、事務所の机や椅子は新しいものを買うのではなく、中古店で山ほど売っている安いスチール家具で済ませていたのだという。
また最新鋭の工場や機械を発見したときには、そのスピードや性能に驚きながらも、頭の中でそろばんをはじく。そして、「生産性それ自体は必ず向上するであろうし、最先端の技術を使っているという満足は得られるかもしれない」が、「それがそのまま経営効率の向上につながるとは限らない」と考える。このような「見えの投資」を続けることが、経営体質を弱めることを危惧するのである。
家計であっても、同じだろう。iPhoneの新型、米テスラの電気自動車などにすぐ飛びつくタイプの人間がいるが、稲盛氏が家計を守っていたなら、すぐさまカミナリが落ちていたことだろう。
さらに稲盛氏は、「実際に、経営を行う際には、社員に固定費の増加を警戒することの意義が十分理解されていないと、それが社員の事業拡大や生産性の向上への意欲を低下させてしまいかねない」と指摘する。この指摘は、iPhoneの新型やテスラ車を買ってはダメだと伝えたときに、キレ出すような人が家庭にいることとも合致しているようで面白い。
続けて、稲盛氏は「筋肉質の経営体質を実現することは、会社をより強くし、さらなる事業拡大へチャレンジするために必要な努力であることを全社員によく理解してもらわないといけない」としている。家庭にあっては、家族でよく話し合い、新型iPhone、テスラ車などを買わずに貯蓄に励むこと、それが未来の家族のためになるのだということを共有しなくてはならないということだろう。
よくよく考えれば、型落ちのスマホ、格安の通信会社で何一つ困らないし、クルマも中古の軽自動車、型落ちの国産車で事足りるということだ。あとは見えの問題をどうするかだが、家族の将来とてんびんにかけて、それでも見えを取るということにはならないのではないか。
● 日本電産の永守氏が稲盛氏に挑んだ 「ドケチ戦争」衝撃の結果とは
余計なものを買わない、固定費を増やさない――。そんなエピソードとして、「絶えず京セラのような会社にしたい、稲盛さんのような経営者になりたいと頑張ってきた」という日本電産の創業者である永守重信氏が明かした話がある。
稲盛氏は倹約家として知られているが、永守氏も同様に倹約家である。稲盛氏が創業した京セラはセラミックのメーカーであり、永守氏の日本電産はモーターのメーカーである。メーカーのコスト削減努力は、トヨタ生産方式に代表されるように「乾いた雑巾をさらに搾る」と形容されるように苛烈を極めている。
永守氏も徹底したコストカットを進めてきたことを前提に、下記の日本経済新聞(22年8月30日)の記事を読んでみてほしい。
「2003年に日本電産が現在の本社を建てた際には、高さが95メートルだった京セラ本社を意識した。『笑われたが100メートルのビルを建てた。いつか京セラを追い越すんだという気持ちがあった』と話した」
「同ビルの竣工式に訪れた稲盛氏は、永守氏が竣工祝いでもらった植木をみてこう言った。『誰が毎日この植木に水をやるのか。枯れたときは誰が捨てるのか。生木を置いていたら京セラには勝てないぞ』。永守氏はコストについての考え方を学んだという」
モーター生産において世界的大企業である永守氏が建てたオフィスは、簡素でまったくお金がかかっていない質実剛健なものだった。それを稲盛氏に自慢したくて招いたものの、言われたのが上記の言葉だったのだ。
永守氏はかつて、ビジネス誌「プレジデント」(13年11月4日号)で次のように明かしている。
「一つの事業が上向きになり、儲けを出し始めたらそれだけで慢心してしまい、立派な家を建て、高級外車を乗り回す人がいる。ピークアウトを警戒せず、したがって新しい事業展開を怠り、余裕資金を贅沢のために使ってしまう。これは失敗する経営者のパターンである。だから私は贅沢をしない」
「家内も同じ考えで、家政婦を頼むでもなく一人で家庭を切り盛りしている」
このように世界的にも有名なドケチである永守氏が、稲盛氏にドケチ戦争を挑み、見事に敗れたエピソードということであろう。
この2人に対して、「本物」の観葉植物には、空気清浄効果やストレス緩和効果があるなどと説いても野暮というものだ。もはや意地の張り合いにしか見えない部分であり、このようなやりとりを通して、2人は気脈を通じ合っていたのではないのだろうか。
永守氏が、稲盛氏を「経営者人生の師だった。もっと長生きして、もっと厳しく指導してほしかった」とコメントするのも、ドがつくケチだった師匠を失った悲しみもあったのであろう。
小倉健一
感想;
「心。人生を意のままにする力」稲盛和夫著 ”実体験から生まれた生きる上での大切なこと”
「ど真剣に生きる」稲盛和夫著 ”上司の一言『君の能力ではもう限界だ。手を引いてくれ』から生まれた京セラ”
日本電産の創業者兼会長の永守重信氏
「病は気からと言うが、企業もおかしくなるのは社員の心や経営者の心情からだ。まず心を治さないと会社はよくならない。企業再建で感じるのは社員の心が病んでいることだ。社員の心が病むのは経営者に問題があるからだ。経営者に問題があると、社員の士気はどんどん落ち、品質やサービスの質が低下する。経営者への不満と不安の繰り返しで業績はさらに落ちて行く」
お二人から学ぶことは大きいです。
「経営の神様」と評された稲盛和夫氏は、倹約家として知られる。その稲盛氏に対して、同じく倹約家として名高い日本電産の永守重信氏が「ドケチ戦争」を挑み、見事に敗れたという強烈なエピソードがある。その内容をご紹介しつつ、企業経営や家計にとって重要な「お金の使い道」について考えてみたい。(イトモス研究所所長 小倉健一)
● 永守重信氏vs稲盛和夫氏 倹約家同士による「ドケチ戦争」
戦後を代表する経営者、稲盛和夫氏。稲盛氏の経営哲学を世界中の経営者が学んだ。
「稲盛氏に学んだ」と広く公言している経営者の代表格はソフトバンクグループの創業者である孫正義氏、アリババグループの創業者であるジャック・マー氏などだ。その会社が影響を受けていることを意識しているか、意識していないかの問題はあるとしても、稲盛式の経営方法に影響を受けていない会社など、日本にないのではないだろうか。
稲盛氏の発言をつぶさに観察していると、当たり前のことばかりを話していることに気付く。
しかし、経営者に取材すると「当たり前のことだが、自分たちにできていないことばかり」を話しているという証言をたくさん得た。そこで今回は、稲盛氏の著書の中でも「会計」「お金の使い道」について詳しく述べられている『稲盛和夫の実学 経営と会計』という本を基に、家計改善のすべを考えてみたい。
そして、倹約家として知られる日本電産の創業者である永守重信氏が、同じく倹約家である稲盛氏に「ドケチ戦争」を挑み、見事に敗れたというエピソードもご紹介したい。稲盛氏、永守氏の考えから、企業経営にも家計にも大事な「お金の使い道」を探ってみよう。
● 企業経営も家計も 虚栄心による無駄遣いはNG
前述の稲盛氏の著書『稲盛和夫の実学 経営と会計』は、「会計がわからんで経営ができるか!」という稲盛氏の執筆に込めた思いが書かれた帯が巻かれている。加えて、内容紹介として「儲けとは、値決めとは、お金とは、実は何なのか。身近なたとえ話からキャッシュベース、採算向上、透明な経営など七つの原則を説き明かす」と記されてある。
特に、家計改善のために興味深いと思われるのは、第3章の「筋肉質の経営に徹する」という章だ。
章の冒頭には、「誰でも、人間は少しでも自分をよく見せたいという気持ちがある。もし、このような虚栄心が強い経営者であれば、その企業は見せかけだけ飾られた、贅肉だらけのものになるだろう」「経営者が自分や企業を実力以上に良く見せようという誘惑に打ち勝つ強い意志を持たなければならない」という強い戒めの言葉が述べられている。
金融広報中央委員会の「家計の金融行動に関する世論調査[二人以上世帯調査]令和3年調査結果」によると、年収1000万~1200万円未満の世帯で金融資産保有額がゼロの割合は10.8%ある。100万円未満も含めると14.8%にもなる。
高級外車に乗ってタワーマンションで生活、子どもは私立幼稚園に通わせるなどという生活は、年収1000万円程度では絶対持続できないはずである。稲盛氏の警鐘は、このような赤字家計にも通じるものであろう。
● 稲盛氏の“筋肉質経営”の教え 「中古品で我慢せよ」
稲盛氏は、そんな誘惑に打ち勝ち「筋肉質」になるための方策として、第一に「中古品で我慢せよ」と説く。京セラを経営していた頃は、事務所の机や椅子は新しいものを買うのではなく、中古店で山ほど売っている安いスチール家具で済ませていたのだという。
また最新鋭の工場や機械を発見したときには、そのスピードや性能に驚きながらも、頭の中でそろばんをはじく。そして、「生産性それ自体は必ず向上するであろうし、最先端の技術を使っているという満足は得られるかもしれない」が、「それがそのまま経営効率の向上につながるとは限らない」と考える。このような「見えの投資」を続けることが、経営体質を弱めることを危惧するのである。
家計であっても、同じだろう。iPhoneの新型、米テスラの電気自動車などにすぐ飛びつくタイプの人間がいるが、稲盛氏が家計を守っていたなら、すぐさまカミナリが落ちていたことだろう。
さらに稲盛氏は、「実際に、経営を行う際には、社員に固定費の増加を警戒することの意義が十分理解されていないと、それが社員の事業拡大や生産性の向上への意欲を低下させてしまいかねない」と指摘する。この指摘は、iPhoneの新型やテスラ車を買ってはダメだと伝えたときに、キレ出すような人が家庭にいることとも合致しているようで面白い。
続けて、稲盛氏は「筋肉質の経営体質を実現することは、会社をより強くし、さらなる事業拡大へチャレンジするために必要な努力であることを全社員によく理解してもらわないといけない」としている。家庭にあっては、家族でよく話し合い、新型iPhone、テスラ車などを買わずに貯蓄に励むこと、それが未来の家族のためになるのだということを共有しなくてはならないということだろう。
よくよく考えれば、型落ちのスマホ、格安の通信会社で何一つ困らないし、クルマも中古の軽自動車、型落ちの国産車で事足りるということだ。あとは見えの問題をどうするかだが、家族の将来とてんびんにかけて、それでも見えを取るということにはならないのではないか。
● 日本電産の永守氏が稲盛氏に挑んだ 「ドケチ戦争」衝撃の結果とは
余計なものを買わない、固定費を増やさない――。そんなエピソードとして、「絶えず京セラのような会社にしたい、稲盛さんのような経営者になりたいと頑張ってきた」という日本電産の創業者である永守重信氏が明かした話がある。
稲盛氏は倹約家として知られているが、永守氏も同様に倹約家である。稲盛氏が創業した京セラはセラミックのメーカーであり、永守氏の日本電産はモーターのメーカーである。メーカーのコスト削減努力は、トヨタ生産方式に代表されるように「乾いた雑巾をさらに搾る」と形容されるように苛烈を極めている。
永守氏も徹底したコストカットを進めてきたことを前提に、下記の日本経済新聞(22年8月30日)の記事を読んでみてほしい。
「2003年に日本電産が現在の本社を建てた際には、高さが95メートルだった京セラ本社を意識した。『笑われたが100メートルのビルを建てた。いつか京セラを追い越すんだという気持ちがあった』と話した」
「同ビルの竣工式に訪れた稲盛氏は、永守氏が竣工祝いでもらった植木をみてこう言った。『誰が毎日この植木に水をやるのか。枯れたときは誰が捨てるのか。生木を置いていたら京セラには勝てないぞ』。永守氏はコストについての考え方を学んだという」
モーター生産において世界的大企業である永守氏が建てたオフィスは、簡素でまったくお金がかかっていない質実剛健なものだった。それを稲盛氏に自慢したくて招いたものの、言われたのが上記の言葉だったのだ。
永守氏はかつて、ビジネス誌「プレジデント」(13年11月4日号)で次のように明かしている。
「一つの事業が上向きになり、儲けを出し始めたらそれだけで慢心してしまい、立派な家を建て、高級外車を乗り回す人がいる。ピークアウトを警戒せず、したがって新しい事業展開を怠り、余裕資金を贅沢のために使ってしまう。これは失敗する経営者のパターンである。だから私は贅沢をしない」
「家内も同じ考えで、家政婦を頼むでもなく一人で家庭を切り盛りしている」
このように世界的にも有名なドケチである永守氏が、稲盛氏にドケチ戦争を挑み、見事に敗れたエピソードということであろう。
この2人に対して、「本物」の観葉植物には、空気清浄効果やストレス緩和効果があるなどと説いても野暮というものだ。もはや意地の張り合いにしか見えない部分であり、このようなやりとりを通して、2人は気脈を通じ合っていたのではないのだろうか。
永守氏が、稲盛氏を「経営者人生の師だった。もっと長生きして、もっと厳しく指導してほしかった」とコメントするのも、ドがつくケチだった師匠を失った悲しみもあったのであろう。
小倉健一
感想;
「心。人生を意のままにする力」稲盛和夫著 ”実体験から生まれた生きる上での大切なこと”
「ど真剣に生きる」稲盛和夫著 ”上司の一言『君の能力ではもう限界だ。手を引いてくれ』から生まれた京セラ”
日本電産の創業者兼会長の永守重信氏
「病は気からと言うが、企業もおかしくなるのは社員の心や経営者の心情からだ。まず心を治さないと会社はよくならない。企業再建で感じるのは社員の心が病んでいることだ。社員の心が病むのは経営者に問題があるからだ。経営者に問題があると、社員の士気はどんどん落ち、品質やサービスの質が低下する。経営者への不満と不安の繰り返しで業績はさらに落ちて行く」
お二人から学ぶことは大きいです。