・「問題を出すことが一番大事だ、問題をうまく出せばすなわちそれが答えだ、いま物を考えている人がうまく問題を出そうとしない。答えばかり出そうと焦っている。
・本居宣長作
・学識がある事と大和魂を持つことは違うのです。むしろ反対のことなのです。今日の言葉でいうと、生きた知恵、常識を持つことが、大和魂があるということなのです。
・赤染衛門に子供ができて、乳母をやとったところが、その乳母に乳が出ない。それで、
はかなくも思ひけるかな乳(ち)もなくて博士の家の乳母せんとは
という歌を詠んだ。この「乳」には知識の「知」がかけてあります。「知識もない女が博士の家の乳母になるとは、随分ばかなことを考えたものだ」という洒落です。
それに対して赤染衛門がこういう歌を詠んで答えた。
さもあらばあれ大和心さえかしこくば細乳(ほそち)につけてあらすばかりぞ
一向に構わないではないか。大和心さえかしこければ、お乳などでなくても子供を預けてちっともかまわないという意味です。これは非常に強い歌です。ここでも、かたくなな知識と反対の、柔軟な知恵を大和心といっていた事がよくわかる。
・大和心を持っているということは、むしろ「もののあわれ」を知っているということだ。
・本居宣長作
歴史は上手に「思い出す」ことなのです。歴史を知るというのは、古えの手ぶり口ぶりが、見えたり聞こえたりするような、想像上の経験をいうのです。
・理性は科学というものをいつも批判しなければいけないのです。科学とは人間が思いついた一つの能力に過ぎないと事を忘れてはいけない。
・信じるということは、諸君が諸君流に信ずることです。知るということは、万人の如く知ることです。人間にはこの二つの道があるのです。
・僕はたくさんの悩みを持っていたけれども、文士になろうという希望を捨てたことはない。それから、自分で考えたことを表現する喜びを捨てたことはないです。僕にどんな焦りが
あったか、知らない。だが、焦りも何もなかったら、君どうします? そんなの、君、つまらんじゃないか。
・君が抱いている人生問題、人生とは何かとか、自我の葛藤はどうだとか、形而上学は可能かとか、実在に達しうるのかとか、君の中心の問題は哲学です。哲学的問題と言っていいやね、君を悩ましてうものは。
なぜ、君は哲学を勉強しようと思わないんだ? 君はそんなことを自分でいろいろ考えても、駄目です。人間はそういう問題に対して、孔子の昔から、ソクラテスの昔から、こんな長いあいだ考えあぐねてきたのです。そういう人たちは君と同じ問題で悩んでいた。・・・
今までの哲学者が君と同じ問題に逢着して、どういう解決をしたか、どんな試みをしたか、つまり哲学を、君、やりたまえ。・・・
本当にその答えを知りたいと感じるならば、勉強しなさい。
ベルグソンをお読みなさい。ベルクソンが何を言っているか、よく考えなさい。
・諸君、唯物論ってなんですか。唯物論なんて本を読んだことありますか。唯物論哲学というものがどういうものだか、知らないでしょう。これはいけません。
・宣長さんの念願は、『古事記』をみんなに読ませたいということだった。・・・『古事記』を通して、古代の日本人はどういう感情を持って、どういう思想を持って生きていたか、人々に伝えたくてたまらなかった。
・学問をしたいというのは、人間の本能ですからな。学問をしたいのが本能じゃなくなったのは現代ぐらいのもんです(会場笑)。
・歴史家ならば、自分の心の中に、藤原の都の人々の心持ちを生かすという術がなければいけない。つまり、歴史家には二つ、術が要る。一つは調べるほうの術。そして調べた結果を、現代の自分がどういう関心を持って迎えるかという術です。
そういうふうに歴史を考えますと、諸君にとって、藤原の都を調べるのと、諸君の子供時代を調べるのと本質的には同じでしょう。両方とも過去です。
・在平業平作
これは業平が死ぬ前に詠んだ歌だね。
・昔は、『増鏡』とか『今鏡』とか、歴史のことを鏡と言ったのです。鏡の中には、君自身が映るのです。歴史を読んで、自己を発見できないような歴史では駄目です。どんな歴史でもみんな現代史である。ということは、現代のわれわれば歴史をもう一度生きてみるという、そんな経験を刺しているのです。それができなければ、れきしは諸君の鏡にはならない。しかし、歴史の中に君の顔を見ることができたら、歴史は君のためになるじゃないか。
・とにかく想像力を磨くんです。・・・想像力は磨くこともできるのです。想像力だってピンからキリまであるから、努力次第ですよ。精神だって、肉体と同じで、鍛えなければ駄目です。使っていないと、発達などしません。想像力も自分で意識して磨いていけばどんどん発達すものです。
・僕の書くものはいつでも感動から始めました。だから、書いたものの中に自然と僕というものは出ているのでしょう。僕は感動を書こうとしたのであって、自分を語ろうとしたのであって、自分を語ろうとしたものではない。ただ感動がどこからかやってきたのです。
感想;
小林秀雄さんと聞くと、難しい。評論家。
そして奥様をとても愛されていた。
奥様が先に亡くなられると直ぐに亡くなられた。
それぐらいで、実際に本など読んだことがありませんでした。
学生との対話を大切にされ、学生との交流をとても大切になさって来られたのが、この本でよくわかりました。
いろいろな質問を受ける、学生に質問を考えさせる、それにより、学びの機会とされたように思いました。
人生の意味、何のために生きるか。
先達から学ぶことがいかに大切かを改めて教えてもらいました。