英の放電日記

将棋、スポーツ、テレビ等、日々感じること。発信というより放電に近い戯言。

電王戦雑感 その3「コンピュータ将棋の特徴」

2014-04-23 19:57:52 | 将棋
⑤コンピュータ将棋の特徴と強さ
 さも理解していそうな表題をつけていますが、「ストックフィッシュ」(コンピュータチェスのオープンソースのソフト)や「ボナンザメソッド」などのイデアや理論は理解できていませんし、「700台のコンピュータを繋げて1人間と勝負するのは不公平」と考える古い人間であることを、お断りしておきます。

 さて、その強さや特徴だが(『第3回将棋電王戦公式ガイドブック』を参考にしています)
Ⅰ読むスピードが恐ろしく速く、解析する局面が半端でないほど多い
 第3回電王戦の統一ハードにおいては、「習甦」開発者の竹内氏は「1秒間400万局面、読む深さは20~30手」と答えている。「YSS]開発者の山下氏も同様な回答をしている。また「ponanza」開発者の山本氏は200万~400万局面と答えている。

Ⅱ膨大な棋譜(棋士やアマトップ)や定跡のデータベースを備えている
 この点で、「コンピュータ将棋ソフトは、人間の技術や研究をを使用しているので、棋士に勝っても人間を凌駕したとは言えない」と主張する考えもある(私じゃないですよ)。

Ⅲコンピュータソフトに対する棋士が感じる手ごたえ
 「序盤は隙があり、中盤は恐ろしく強く、終盤は強いがミスが出ることもある」が、共通の認識。
【序盤】
「序盤はかなり囲いを優先させる。不自然な形(手順)で玉を囲ってくることがある」(豊島七段)
「ソフトは評価関数によって形勢判断はできるが、大局観(全体の大まかな指針)がない」(勝又六段)

 棋士は相手の動きを見ながら流動的に駒組みを決めることができるが、ソフトは大まかな指針を立てられず、定跡や過去の棋譜を頼りに指し手を決めるので、不自然な手順や形になりやすい。 
 なので、少し前だと定跡を外すとソフトはうまく対応できないという傾向が強かった。

【中盤】
「中盤では見たこともない手順を指す」(菅井五段)
「中盤力に関してはかなり強い」(豊島七段)
「ゴチャゴチャした局面で正しい手を指す能力がすごく高い」(渡辺二冠)(…終盤にも該当)

 渡辺二冠が述べていたが、人間は二つの候補手の比較は正確にできるが、候補手が5つあると、一番悪い手を指してしまうこともある。
 コンピュータはそういう多面的に考えることを苦にしない。

【終盤】
「終盤で人間なら踏み込めない順を選んでぎりぎり勝つ」(菅井五段)
「中盤に比べたら終盤の方はまだ(人間も)戦えるかな」(豊島七段)
「たまに不自然な手を指して、ウッカリしているなと感じることがある」(豊島七段)
「ソフトだから終盤は絶対に間違えないということはない」(遠山五段)

 詰将棋を解く能力が非常に高いので、コンピュータの終盤は恐ろしく強いように思いがちだが、そうではないようだ。
 これに関しては、棚瀬氏(世界コンピュータ将棋選手権4度優勝者)が次のように解析している。
「人間はほぼ確実に起きる十何手後の局面において詰みのあるなしが大事だと思えば、それが長手数だろうが絶対に読むが、コンピュータは十何手後の二十数手詰め何て読んでいたら、リソースが足りなくなる」
 詰みだけではなく、出現する可能性が高い30手以上先の局面を、人間は察知して考えることができるが、万遍なく読むコンピュータは現段階では無理ということなのだろう。

 また、頓死も時々あるようで
「長手数の詰み筋では頓死することもある」(遠山五段)
「基本的に20手以上の詰みはなかなか読み切れず、15手詰めくらいでも無駄合いが入れば(無駄合いを考えてしまうので)手数が伸び、意外と頓死する」(遠山五段)
 なるほど、無駄合いも考えてしまうのか。

Ⅳコンピュータソフトの癖
「飛車先の歩交換を重く見ていない」
「数十手先を見通せない」→「飛車先の歩交換を軽視するなど、すぐに得が見えないものの判断が苦手」(ボナンザ開発者・保木氏)

 ただ、この飛車先の歩交換についての認識は多様である。
「飛車先歩の交換による手損より、歩が持駒になる得の方が大きい。
 その歩を攻めに使うだけでなく、その1歩があるために、相手の攻めを牽制できたり、相手の桂馬が跳ねてこられないということもある」(渡辺二冠)…飛車先歩の交換の得は揺るがない
「人間の方が若干正しい(飛車先の歩交換は得)と思うが、何でもかんでも得というわけではない」(船江五段)…戦型によっては、飛車先の歩交換を許しても構わない
「歩交換を許しても意外と悪くならない。人間が悪いと思い込んでいるだけ」(「ponanza」開発者・山本氏)

「コンピュータは対振り飛車の戦いが非常に強い」
「コンピュータ同士の将棋だと、居飛車対振り飛車戦は居飛車が圧倒的に勝ち越す」(「激指開発メンバー・鶴岡氏)だそうです。

 「もしかしたら本当に振り飛車が不利という可能性もありますし、コンピュータが振り飛車らしい指し方が苦手なのかもしれない」(鶴岡氏)とのことです。

 ただ、
「角交換振り飛車に対しては、あまり強くない。角交換振り飛車は飛車先を逆襲していくのが狙いの一つだが、その価値判断を誤って受け損なうことが多い」(船江五段)
だそうで、「角交換振り飛車は最近出てきた戦法なので、サンプルが少ないことも大きな要因」(船江五段)という理由も考えられる。同じ理由で「コンピュータは相振り飛車系の将棋が比較的苦手と言われている」と考えられている。


「コンピュータはこちらが居玉だと凄く無理攻めをしてくる(無理攻めをしてくることが多い)」(船江五段)
「ボナンザ以降の機械学習を行っているソフトは、居玉に対するマイナス評価が凄く高くなっている」(世界コンピュータ将棋選手権4度優勝・棚瀬氏)
 その原因として
「何万局というサンプルの総意として5九玉は良くないという評価が下される」(棚瀬氏)と機械学習の弱点かもしれないと語っている。

 渡辺竜王の言葉は、ボナンザ開発者の保木氏との対談で語られたものだが、この対談において、保木氏はコンピュータ将棋ソフトに関する解説役と、渡辺二冠の考えを引き出すことに徹していたように感じたが、最後に不敵な言葉を。

渡辺「いつか棋士、プログラマー双方が互いの腹を探り合い、そうした上での世紀の頂上決戦を見たいですね」
進行役記者「(渡辺二冠は)見られる側では?」
渡辺「もしその時、出るべき立場にいたら出ようかなという思いはあります」
保木「それは今すぐにもやってほしいですね。今年ならまだ渡辺先生がガチンコでやれば勝つ可能性が高いですから」
コメント (4)
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